2016年世界耐久選手権(WEC)はシルバーストン6時間レースで開幕第1戦が開催されるが、それに先立ち2016年3月25日~26日、フランスのポールリカール・サーキットでプロローグデー(公開合同テスト)が行なわれ、LMP1クラスのワークスチーム、ポルシェ、アウディ、トヨタは2016年マシンを初公開した。
◆ポルシェ
2015年のチャンピオンカー、ポルシェ919ハイブリッドは一段と進化し、第3世代となっている。ポルシェがデビューした2014年はホワイトのボディだったが、2015年は3台のマシンがホワイト、レッド、ブラックとそれぞれカラーリング。2016年はこの3色を使用した新カラーリングを採用し、もちろんカーナンバーは1番、2番になっている。
2.0L・90度V4直噴ターボ・エンジンはさらに軽量化され、燃費も改善している。しかし新規により燃料流量はさらに絞られているため、前年よりパワーは8%ダウンし、500psの出力となっている。その結果、ル・マンでは1周で4秒遅くなっているという。
前輪の回生モーター、ターボに直結する排気エネルギー回生モーターのいずれも効率を改善し、より大きな電力が得られるようになっている。特にターボの排ガスを利用する排気エネルギー回生モーターをより効率的にするため、可変ジオメトリーターボを採用。この電力と減速時に発生する電力はバッテリーに蓄えられ、加速時には前輪に400psのモーターブーストが得られ、4輪駆動として機能する。
パワーエレクトロニクスや自社開発のリチウムイオン・バッテリーの性能も引き上げられ、800Vという高電圧が使用される。このコンセプトはEVコンセプトカー、ミッションEのものと共通だ。
919ハイブリッドは、2015年と同様に8メガジュール・クラスで参戦し、このためラップ当りの燃料は4.31L(ガソリンエンジンに適用。ディーゼルの場合は3.33L)に規制される。
モノコックは1ピースのカーボン製サンドイッチ構造で、エンジン、トランスミッション、モノコックを含めた一体構造だ。エンジン本体も荷重を負担する剛結式となっている。アルミケースに収納される油圧作動式7速シーケンシャル・トランスミッションはカーボン・モノコック内に収められている。
サスペンションは、フロントが新設計となり、従来よりセッティングの幅を広げ、タイヤとの適合性を向上。リヤ・サスペンションも改良されている。
ボディはエアロダイナミクスを考慮し、今回から規則で許される最大限の3種類のパッケージを用意している。2016年シーズン序盤はハイ・ダウンフォース仕様、ル・マンはローダウンフォース仕様、ル・マン以降のレースは中間タイプのハイダウンフォース仕様を使用する計画だ。
◆アウディR18
2015年についにチャンピオンの座を追われたアウディは、2016年仕様としてまったく新しい空力デザインを採用して登場した。V6型TDIディーゼル・エンジンを搭載していることに変わりはないが、まったくの新設計としている。その他ハイブリッドシステムの変更もあるためか、従来使用されてきた「e-tronクワトロ」の名称ははずされ、R18と表記している。
さらにバッテリーはついにリチウムイオン式を新採用。それに伴い、ハイブリッド・クラスは従来の4メガジュールから6メガジュール・クラスに引き上げている。
しかし、アウディはこれらの情報以外は現時点で公開しておらず、まだハイブリッドシステムなどに隠し玉があると予想される。
◆トヨタ GAZOO RACING TS050ハイブリッド
2015年シーズンは、ポルシェ、アウディに大きく水をあけられたトヨタは、6月のル・マン24時間レース終了直後に2016年型マシンの開発をスタートさせている。
TS050がこれまでのマシンと最も大きく異なる点は、パワートレーンのコンセプトの変更だ。これまでの自然吸気V8型エンジンから2.4L・V型6気筒直噴ツインターボ・エンジンへ変更した。また従来はバッテリーの代わりにスーパーキャパシターを使用してきたが、ついに高出力のリチウムイオン・バッテリーを採用した。
そしてハイブリッド・クラスは8メガジュール・クラスへとアップし、新しいハイブリッド・システムの組み合わせとなっている。この両ユニットは東富士技術研究所のモータースポーツユニット開発部で開発されたものだ。
ただ、前後アクスルにモーター/ジェネレーターを配置して、前後輪で減速回生と駆動を行なう2モーターシステムに変更はないが、当然ながらモーター出力はアップされている。また前輪用のモーター/ジェネレーターは大幅に小型化され、これにより車体底部の空気の流れが改良され、パフォーマンス向上に繋がっているという。
新型ハイブリッドのコンセプトにより、新たな冷却系が必要とされ、またターボエンジンによって大幅に向上したトルクを許容するトランスミッションを含めた新パッケージングが導入されている。サスペンションも改良され、従来以上にタイヤ磨耗を低減するようにしている。このハイブリッドシステムに新たな空力コンセプトが組み合わされたTS050のシャシー部品は、ドイツ・ケルンのトヨタ・モータースポーツ有限会社(TMG)で設計されている。
5号車は、アンソニー・デビッドソンとセバスチャン・ブエミ、中嶋一貴選手が乗り、6号車はステファン・サラザン、マイク・コンウェイ、小林可夢偉選手が起用される。また正式のテスト兼リザーブドライバーではないが、平川亮選手がチームの一員としてテストに加わっている。