トヨタ 2030年に向けたバッテリー戦略

トヨタは2021年9月7日、カーボンニュートラルへ向けた2030年までのトヨタの電池戦略を説明する「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」を開催した。

ヨーロッパの自動車メーカー、アメリカのGM、テスラなどはいずれも電動化に合わせたバッテリー戦略を発表しており、電気自動車生産の急激な拡大に合わせる形でギガ・ファクトリーと呼ばれる巨大バッテリー工場を建設するなど、電動化=バッテリー戦略をアピールしている。

説明会に登場した前田CTO、岡田CPO、長田CCO、海田先進開発開発センター長

トヨタは、従来からハイブリッド、PHEV、純電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)を並行して展開し、世界各地域に最適な電動化車両を提供する戦略を発表しているが、電動化に連動し、今後ますます需要が高まるバッテリー調達の戦略が今一つ不明確であった。

今回はメディア向け、経済アナリスト向け、海外投資家向けにそれぞれ個別にバッテリー戦略を説明し、トヨタの今後の電動化に伴う取り組みをグローバルに向け明らかにした。

説明会では、トヨタの前田昌彦チーフテクノロジーオフィサーがプレゼンテーションを行ない、まず2030年の電動車両の販売予想は800万台とし、そのうち電気自動車とFCVは合計200万台としている。

バッテリーの供給体制としては、現在時点で策定している180GWhから、より電動化が加速すると想定し2030年に200GWh以上を目指すことを説明した。ただしこの200GWhの中にはハイブリッド用のニッケル水素バッテリーも、バッテリーサプライヤーからの供給分も含まれている。

従来からトヨタはハイブリッドによるCO2削減効果が高いという主張に加え、リチウムイオン・バッテリーのコストが高すぎることも、電気自動車に全面的に取り組むことをためらう原因になっていた。だが、今後の見通しではリチウムイオン・バッテリーの需要が高まることは認めざるを得ないというわけだ。

そのため、今後のバッテリーコストの目標について、2022年央に導入予定のスバルと共同開発する新型EV「bZ4X」に搭載するリチウムイオン・バッテリー(つまり現時点でのリチウムイオン・バッテリーのコスト)と比較して、2020年代の後半に1台あたり50%低減を目指すとしている。

その内訳は、バッテリー単体でのコストを30%以上低減し、さらに車両側での走行抵抗低減、エネルギー回生効率の向上、熱マネージメントの効率向上などの技術により電費を30%以上改善することで、2020年代後半にコスト50%以上の低減を図るというものだ。

ちなみにテスラは2022年に100GWh、2030年には3000GWhのバッテリー容量を確保し、2030年までにバッテリーのコストを56%まで下げると発表している。

現状からバッテリーのコストを半減させるという目標はテスラもトヨタも同じであり、従来からいわれてきた電動車の普及により1KWhあたり1万円を切るだろうという見通しは誤りで、依然としてリチウムイオン・バッテリーのコストは自動車メーカーに大きくのしかかっているのだ。そのため、テスラは自社開発で新世代の高出力・低コストのリチウムイオン・バッテリーを生産するとしている。

またフォルクスワーゲンは2030年までにヨーロッパ内に総生産能力240GWhの6つのギガファクトリーをパートナー企業と合弁で建設する計画で、その投資額はトヨタを大幅に上回っている。

トヨタは200GWhを実現するために、バッテリーの供給体制の整備と研究開発の投資額は2030年までに約1.5兆円になるとし、1兆円は小規模でフレキシブルなバッテリー生産ラインに、そして2020年代後半までに生産ラインを10ライン増設し、その後は年間10ラインづつ増設を継続。2030年にはトータル70ラインを建設するとしている。この生産ラインは、トヨタ/パナソニックの合弁企業による内製と、パートナー・サプライヤーの両方をカウントしている。

ただ、これらは小規模でフレキシブルなバッテリー生産ラインであることが特長で、海外の自動車メーカーのようなギガ・ファクトリー建設とはかなりイメージが異なっている。

その理由は、大規模工場ではリーマンショックのような危機を乗り切れないという教訓に従っていることと、世界の状況変化に対応できるフレキシビリティを重視しているということだ。

1.5兆円の投資の残りの5000億円は、新世代バッテリーの研究・開発への投資である。この投資はニッケル水素バッテリーの改良、新世代リチウムイオン・バッテリー、全固体電池などの研究開発が含まれている。

なお新型アクアに初搭載された新開発のバイポーラ型ニッケル水素バッテリーも、現時点では従来からの角型バッテリーよりコストが高く、今後も両タイプのニッケル水素バッテリーが併存するとしている。

また、トヨタがいち早く発表した全固体電池は、2020年8月にコンセプト・プロトタイプの「LQ」に施策バッテリーが搭載され、ナンバーを取得して公道を走行した実績を持っているが、バッテリーとしての特性は高出力、長い航続距離、充電時間の短縮などのメリットは得られているが、耐久性能に課題があり、2020年代前半にとりあえずハイブリッド用として搭載する計画であることもあきらかになった。

全固体電池の今後の開発では、長寿命で耐久信頼性の高い固体電解質の材質を研究することにあり、地道な研究が継続されることになる。ただ、全固体電池はほとんどの自動車メーカー、大手バッテリー・サプライヤーが開発に取り組んでおり、1番乗りを目指す激烈な競争は今後も続くと予想される。

トヨタは現時点では、新構造の角型リチウムイオン・バッテリーの開発に取り組んでいる。これはパナソニックとの合弁会社であるプライムプラネット・エナジー&ソリューションズ(PPES)により生産する計画で、位置づけとしてはテスラが開発している新世代のタブレス式リチウムイオン・バッテリーとよく似ていると考えられ、より高出力でしかも低コストであることを目指している。

トヨタは電動化戦略のキーポイントになるバッテリー技術は、自社とグループ企業のプライム・プラネット・エナジー&ソリューションズ社(PPES)、プライムアースEVエナジー社(PEVE)を中心にして開発し、生産するいわば内製化方針を貫き、その生産に関してはフレキシブルな小規模ラインを前提としている。

しかしその一方で、トヨタはグローバル企業で世界各地に工場を展開しており、バッテリーの内製では到底賄うことはできない。また重量の重いバッテリーは輸送に不向きのため、海外の工場の近くにバッテリー製造工場が必要になってくる。

そのため、トヨタは大市場である中国では現地のCATL社、BYD子会社のFDB社と提携し、中国でバッテリーの生産を行なう計画だ。もちろん、これら中国の大手バッテリーメーカーはすでに他の自動車メーカーとも業務提携を行なっているため、トヨタも自社用の生産を確保するために生産ラインの投資が必要になる。

ただ、もう一つの大市場である北米でのバッテリー調達をどうするのかについては、今回の説明会では明らかにされなかった。その背景には、PHEVや電気自動車をどれほどの規模でグローバル生産するのかに関して、まだ決定が行なわれていないのではないかと推測すべきだろう。

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