2013年6月9日、ルマン24時間レース90周年記念大会(6月22日?23日)に先立って、公式のテストデーが行われた。このテストデーは24時間レースの本番を迎えるにあたり、ロングランを行い、最終的な実戦データを得るための重要なテストの場と位置付けられている。
?
■テストデーの概要
このテストデーには、トヨタ、アウディともにルマン仕様のエアロボディを備えたルマン仕様車を持ち込んでいる。トヨタは2台のTS030ハイブリッドを持ち込み、7号車のアレックス・ブルツ/ニコラス・ラピエール/中嶋一貴は、長いストレートとシケインとコーナーが組み合わされた13.629Kmのコースで、マシンの微調整と何種類かの空力セットアップを行った。 8号車のアンソニー・デビッドソン/セバスチャン・ブエミ/ステファン・サラザンは、集中的にタイヤ評価を行った。
もちろん両車ともハイブリッドシステム(THS-R)のチューニングも行った。このシステムは、コースに規定された7か所のブレーキ回生区間でスーパーキャパシタに蓄電し、その後の加速区間で300psの加速アシストをするために、より効率的な回生のチューニングが求められたのだ。
今回のテストデーは前日から強い雨が降り、テストデーも雨は依然として降り続いたが、ようやく午後のセッション半ばに雨も上がり、コースはドライコンディションへと変わった。そのため、ウエット時にはレインタイヤとインターミディエイトタイヤのテスト、シャシーのセッティングをつめることができたが、逆にドライ路面でのセッティングは100%とはいえない状態だ。
アウディは、なんと4台ものR18 e-tronを持ち込んだ。本番用の1?3号車と、黒塗装の1台で、このマシンはワークスドライバーのマルコ・ボナノミがステアリングを握り、2014年用のミシュランタイヤの先行テストを行った。2014年用のタイヤは今年用よりトレッド幅を狭くし、その一方でより軽量化したタイヤだという。
本番用の3台は、様々なエアロダイナミクスのセットアップを行い、周回数やエア圧を何種類も変えて、レインタイヤの走行テストも実施した。ウエット時にロイック・デュバルがテルトルルージュのコーナーでコースアウトし、マシンが損傷するというハプニングがあったが、あっという間に修理された。
ドライ路面となったテストデーの最後の90分間でアウディの3台がベストラップ、最高速記録を独占。アウディモータースポーツ代表のウォルフガング・ウルリッヒ博士は、次のように語った。
「我々は今回数多くのテストプログラムを準備し、データ収集や経過観察を行う予定でした。しかし、悪天候によって路面コンディションが変わり続けたので、準備していたすべてのプログラムを消化することはできませんでした。路面がドライになったのはテスト終盤のわずかな間だけでしたが、ロイック・デュバルが上手にクリアラップを手に入れ、ファステストタイムを記録しました。ですが、レース本番は何が起きるか分かりませんので油断せずに臨みます」。
?
■アウディのドライバー支援システム
アウディR18 e-tronクワトロは今回もルマン24時間レースのために様々なドライバー支援システムを採用している。
まずはヘッドライトだ。アウディは2006年以来LED式ヘッドライトを採用し、従来のHIDヘッドライトより85%も照度をアップし、800m以上の距離に有効なビームを届かせることができている。このヘッドライトは8個のLEDユニットで構成され、マトリックス・ビームを形成し、このユニットを独立制御しているのが特徴だ。このマトリックスビームは、市販車ではアクティブヘッドライト(ロービーム/ハイビームと配光ビーム形状の自動切換え制御)として使用するが、ルマン用ではより高性能なコーナリングライトとして使用している。コーナリング時に、コーナーの外側は光度を抑えてワイドに照射し、内側はより強い光度を照射することにより、ドライバーの視認性が大幅に高まっているという。
リヤビューミラーの代わりに、リヤカメラを使用したリヤ・デジタル視界システムを採用している。一般的なミラーでは十分な後方視界が得られないため、小型のリヤカメラをボディルーフ後方に装備。このカメラは視野60度となっている。このカメラが捕らえた画像をデジタル信号で、室内のAMOLED(アクティブマトリックス有機発光ダイオード)のディスプレイに表示する。この表示画像は、通常の液晶ディスプレイよりコントラストが10倍優れており、一方で消費電力は30%少ない。ディスプレイは6.8インチで、60万ピクセルの解像度を持つ。このシステムにより振動の影響を受けることなく、後方のマシンの挙動を把握でき、ライバルがアタックしてきた場合にもその動きの把握が容易なのだ。
またステアリングホイールも今では戦略的なドライバー支援システムのひとつとなっている。
ステアリングホイールには13個のスイッチがあり、それらは、前後ブレーキバランス調整、トラクションコントロールの調整、無線通話スイッチ、ドリンク供給スイッチ、スタータースイッチ、さらに電子制御調整用だ。さらに、エンジン制御マップ、トランクションコントロール調整用のダイヤルもある。
デジタル・ディスプレイは、ラップタイム、区間タイム、基準ラップタイムとの差、タイヤ空気圧モニターが表示される。これらの表示は設定から外れると警告表示がなされる。したがって、タイヤのグリップが変化した場合、ドライバーはステアリングホイールのスイッチを操作することで影響を最小限に抑えることができるのだ。
また、アウディチームはドライバーとピットの無線交信ではピット側は女性が担当し、ドライバーにとって女性ならではのよりクリアな音声を聞くことができるように配慮している。