【トヨタ】クラウン・ハイブリッドに搭載の2AR-FSEを考察 先端技術満載の新世代ハイブリッド用エンジン

今回はハイブリッドでは影に隠れがちなエンジンに注目してみた

14代目となる新型クラウンはピンクのボディカラーや大きく変貌したフロントグリルのデザインで話題となっているが、ハイブリッドモデルに搭載されたエンジン、2AR-FSEにも注目したい。というのも、クラウンという大型のクラスでありながらJC08モード23.2km/Lというコンパクトカークラスなみの燃費を持っているからだ。

新型クラウン・ハイブリッドには2.5L直列4気筒エンジンが搭載されているが、ハイブリッドであっても燃料を消費をするのはエンジンであり、このエンジンの性能の良し悪しとモーターとの統合制御で燃費を大きく左右するのは言うまでもない。

不思議なことに、もしクラウンに直列4気筒を搭載したという情報だけであれば、似つかわしくないなど否定的な意見も出ただろう。だが、ハイブリッドとなると途端にエンジンそのものの注目は下がり、システムとしての一部と見るのか、それほど4気筒であることを気にする声は聞かない。だが、実際はダウンサイジングされたエンジンであり、かなり高効率なエンジンに仕上げてあるようだ。したがって前述のような省燃費を達成しているわけだ。

さらに、一般的には先に発売されているカムリ・ハイブリッドのエンジンと同じもの、という認識のためか注目度は低い。カムリの横置き用を縦置きに置き換えたユニットという程度だ。しかし、実際はカムリに搭載している2AR-FXEとは大きく異なっている。エンジン型式こそ同じで補器類違い程度にしか見えないが、共通部品はなんとコンロッドだけでシリンダーヘッド、ブロック、ピストン、クランクシャフトまで異なるという。その結果70%の部品が新規に設計されたクラウン・ハイブリッド専用エンジンなのだ。もっとも、この後発売される、レクサスのISには搭載される予定だが。

効率概念図

さて、開発の基本的概念は、エンジンは熱効率の高い領域を担当し、効率が下がる部分をモーターが担当するという考え方で、その熱効率の高い領域を広げる、燃焼効率を上げることにより、燃料消費を抑えることができるというジェネラルな考え方だ。熱効率を上げるのは内燃機関の研究者にとっての命題であり、非常に難しい領域である。

投入技術_edited-1
AR2-FSEに投入された新技術箇所

 

その熱効率の向上を目指すには排気熱損失、冷却損失、摩擦抵抗損失、そしてポンピングロスなどの損失を抑える必要があるが、そのすべての領域でさまざまな技術が取り入れられているのが今回の2AR-FSEだ。その結果カムリに搭載する2AR-FXEの118kw/213Nmに対して131kw/221Nmと出力も向上している。排気量はいずれも2494ccでボアストロークも90mm×98mmと同じ。2AR-FSEは、圧縮比が12.5から13.0にまで上げられているのがポイントだ。もちろん使用するガソリンはレギュラーガソリンである。13.0の圧縮比はマツダのスカイアクティブG(国内仕様)と同じである。

燃焼効率向上概念図

高圧縮化の秘訣は、アトキンソンサイクルにおけるバルブタイミングの制御やノック対策、冷却対策などさまざまな範囲に及ぶ。なかでもカムリの2AR-FXEとの大きな違いは排気側のVVTが装備されたことで、ミラーサイクルそのものの制御が異なっている点だ。ちなみにインテークバルブはカムリより遅閉じの105度。動弁システムはローラーロッカー方式である。

この吸排気VVTで最も難しいのはモーター走行からエンジン始動となる瞬間に、ドライバーの期待値どおりに始動し滑らかに走行を続けられるかという点で、油圧式可変角カムシャフトの2AR-FSEでは長時間モーター走行すると、カム駆動用の油圧が下がってしまい、空気ポンプとして動いているエンジンの再始動時にギクシャクした動きが出てしまう点だった。もちろんモーター駆動のカムシャフトを採用すればレスポンスの問題は解決するが、コストに跳ね返る部分でもある。そこを改善するのに苦労したと、エンジン開発の石黒文久氏は語る。それもクラウンというクルマの特性に合わせるための技術が要求されたわけだ。

さて、排気熱損失ではトヨタの直噴技術であるD4-Sが採用されている。これもひと口にD4-Sと言っているが、D4-Sは筒内直噴とポート噴射の両方を行う燃料噴射方式の総称で、今回その詳細も改良され、次世代D4-Sとなっている。その違いは、これまでのD4-Sではアイドリング時でも筒内噴射をしていたため、エンジン自体の振動が発生しNV(ノイズ・バイブレーション)の点で改良の余地があった。今回の次世代D4-Sではアイドリング時はポート噴射だけに制御できるようになり、したがって低回転時の振動やノイズはかなり低減することができているという。

新世代D4-Sシステム

そのためには吸気ポート内で作るタンブルを改良し、そしてピストン形状もキャビティ形状の見直しが行われ燃焼スピード(短時間燃焼)も上がっている。燃料は一体構造化された高圧ポンプへ変更され、インジェクターもニードルコア別体化した高圧インジェクターへと変更されている。この際のタンブル比や流量係数はトライ&エラーの繰り返しでベストなセッティングを探したと前述のエンジン開発石黒氏は語る。

ちなみに、ピストンへは低摩擦抵抗とするためサイドウォール、スカートの応力を均一化し、積極的に変形させるタイプを使用している。つまり、永久変形によるNV悪化の抑制とスカート摺動改善によるフリクション低減だ。

シリンダーブロックでは冷却損失に対応するように、ボア間の隔壁にはVタイプドリルパッセージを採用した。ボア間の冷却水循環性を向上させ冷却範囲を拡大することで、大幅なボア間温度低減を実現している。

また、冷却損失、ポンピング損失、そして燃焼においてキーとなるEGRも、従来よりも大量に採用している。そして冷却フィンがオフセットした水冷式のEGRクーラーも装備。EGRクーラーは、高温になる排気ガスの温度を、水冷クーラーにより冷却することでガス密度を高め、エンジンのポンピング損失低減、ノッキングを防止するために必要な部品なのだ。

また、EGRバルブの応答性を従来の2倍の速度まで高めた、トヨタ初の高応答性ソレノイドバルブを採用している。これはEGRバルブのレスポンスが悪いと失火してしまい、エンジンの振動が起こるのを防ぐためだ。このあたりもクラウンという車種に搭載することを考慮し、振動への配慮が必要だったわけだ。

このように2AR-FSEは車輌のNV性能にも配慮し、エンジンマウントブラケットを箱型、肉薄とし取り付け部位のボルト間ピッチを拡大している。その結果V6型(GR)と比較して前後、上下の剛性を大幅に向上しているという。さらにバランスシャフトのギヤを樹脂製で開発し、ロバスト性を向上させたり、経年変化によるNV性能の変化を抑えるパーツも組み込まれている。

このエンジンはハイブリッドに特化することで進化した

こうした改良・開発により、この2AR-FSEは開発目標の燃料消費率240g/kwh(=177g/psh。1psあたり約242cc)を実用域のほぼ全域で達成し、世界最高級の最大熱効率38.5%を達成しているという。コンベンショナルな内燃機関の熱効率35%に対して大きく前進した、新世代のハイブリッドシステム用に特化させたエンジンだと言える。

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