マニアック評価vol168
ピンクのクラウンで話題を振りまいた新型クラウンに試乗のチャンスが来た。富士スピードウエイのある静岡県御殿場市周辺の一般道路、高速道路での試乗だった。
新型クラウンの開発は2009年のリーマンショック前後、また、環境問題が大きく取り沙汰されるようになった頃に、スタートしている。必然的に、環境性能の向上は求められ、また、クラウンというブランドを如何に継続し、進化させるのかという命題を持ってスタートしている。
開発のヒントにはゼロクラウン開発時に話を聞いたという故:九谷焼人間国宝三代目徳田八十吉氏の言葉で、「伝統は形骸を継ぐものにあらず、その精神を継ぐものなり」という言葉で、クラウンは新たな革新への挑戦が開発コンセプトとして始まった。
具体的には、ひと目でクラウンと分かる、強烈な個性と躍動感に満ちたスタイル。新しい高級車に相応しい基本性能、時代の先を行く先進装備という3点を中心に開発された。
モデルラインアップは大きく分けてロイヤルとアスリートに大別され、ハイブリッドや4WDモデルも存在している。そのロイヤルシリーズは従来からクラウンを乗り継いでいる顧客が満足できる、納得できる新型を目指し、アスリートは、ロイヤルよりもアグレッシブで、なおかつロイヤルとの違いを明確にする使命を持っている。
最初に試乗したのはロイヤルシリーズのV型6気筒2.5L自然吸気エンジン搭載モデル。エクステリアは何といっても、王冠(クラウン)をイメージした大型のフロントグリルで、ロイヤルシリーズとしては大胆なデザイン変更を行った。従って対向車ですれ違うときも、ルームミラーに映し出されたマスクもひと目でクラウンだと分かり、アイコニックなデザインといえる。
車内に乗り込むとロイヤルサルーンに相応しい、高級なインテリアで迎えられる。レザーシートにシルバーの加飾は程よく押さえられ、重厚感のある室内になっている。立派な応接セットからクルマに乗り換えても、違和感なくシートに身を委ねることができる居住空間だ。
クラウンに限らず、トヨタの高級ブランド車に装備されるナビゲーションにはいつも感心させられる。それは、インターフェイスの分かりやすさだ。目的地の設定、現在位置をすぐに表示する、空調を触る、などなど表示文字も大きく、迷うことが少ないモデルが多い。今回、新型クラウンにはタッチパネル方式のインフォテイメントが多くのモデルに標準装備された。
やはり、実際の操作は分かりやすく、無駄なスイッチ類がすくないので、走行中でも操作に迷わない。強いて言えばタッチパネルゆえに、操作感が薄いことぐらいか。もっともスマホに慣れているユーザーであれば、当たり前の感覚だろうし、慣れていなくても操作に迷いがなければ、問題とならないだろう。
メーターは2眼のアナログタイプで中央部に走行距離やシフトポジションなどがデジタル表示される。視認性は高く、見慣れた景色だけにまったく違和感はない。水温と燃料計もアナログなため、安心感が高い。
ウッドパネル(木目調で本木目ではなく、樹脂製)やレザーシートの仕上げは日本車技術のレベルの高さを感じる。欧州の高級車が採用するウッドパネルより、質感、仕上げともに勝っていると感じ、これも同じ日本人だから共通言語を持っている証拠なのかもしれない。そうだ、クラウンは日本専用モデルでグローバル展開をしないモデルでもあるのだ。だから、日本人の意見を聞き、そのニーズに応えるように造られている国内専用車なのだ。
走り出してみると、その静かな乗り心地はまさにロイヤルサルーンそのもので、低速域、高速域ともに静粛性が高い。そしてハンドリングはこれまでと同じようにゆったりとフワッとした乗り味で、これまでのクラウンユーザーを決して裏切らない乗り心地だろう。
直進安定性ではセンターの座りを強調することもなく、穏やかな印象。欧州車のように座りのハッキリしたものは、超高速域では安心感があるものの、国内100km/h限界を考慮すれば、そこまでは不要という判断だ。座りをしっかり創れば、切りだしが重く感じられ、おそらく従来のクラウンユーザーからは「重くなった」となり、軽めの操舵であっても直進性が確保されているほうがベターということなのだろう。
ハンドルを切り始めるとこれまでのクラウンとは違うことに気づく。まず、ゆるい印象のステアリングニュートラルから少しの操舵でも、ノーズが動く。これまでのクラウンとは違う。そして切り込んでいくと大き目のロールが始まり、ゆっくりと旋回をする。ここまでは従来のクラウンに似ている。さらにコーナーを回り込んでいくとロールが止まり、ヨーモーメントが強くなったように感じる。つまり、ロールからヨーへの変化があり、回頭性が高くなって安心感へと繋がるのだ。
クラウンといえば、ロールが大きく、コーナー深度に合わせてロールも深くなる印象だったが、新型では印象の違う走りに変化していた。
次に試乗したのはアスリート。3.5LV型6気筒自然吸気エンジンで、もっともアグレッシブな仕様のモデル。グリルのデザインもロイヤルとは異なるがやはり王冠をイメージできるデザインだ。またロイヤルと違うのはフロントフェンダーだ。タイヤ上部のフェンダーが盛り上がっており、力感溢れる若々しいルックスになっている。ルームミラーにこのフロントマスクが写り込めば、車線を譲りたくなる迫力がある。
走り出すと、ロイヤルとは明らかに違いがあることに気づく。ドライバーはハンドルから得る情報を多く持っているため、走り出してすぐに直進の座りの良さを強調した仕様になっているからだ。ロイヤルではゆるく、穏やかに感じた部分が欧州車に似たようになっている。とはいえ、やはりクラウンであるため、そこまでハッキリさせているわけではない。
そしてステアリングにはVGRS(ギヤ比可変ステアリング)が装備され、サスペンションにもAVS(連続可変制御サスペンション)もあるため、ロイヤルとは違った走りの武器を持っていることになる。
もちろんこれらの武器による違いもあるが、基本的なサスペンションの仕組み自体も進化しているため、ハンドリングを楽しめるようになっていた。つまり、アクセル開度のパワーの出方、ブレーキタッチ、そしてステアリングフィールがドライバーの期待値に近くでバランスしているので、ワインディングを走りたい衝動が沸いてくるのだ。
直進からブレーキングし、コーナーに進入。パーシャルで調整しながら時にはステアリングを切り足す。すると、ノーズはどんどん回頭していく。リヤタイヤはそのグリップ感がドライバーの腰へと伝わり、安心してスロットルを踏み込める。さらにパドルシフトに8速ATという先端のアイシンAW製トランスミッションも変速が早く、ダイレクト感のある走りが楽しめた。
< サスペンションの秘密 >
さて、新型クラウンのサスペンションには秘密があった。
性能実験部、車両運動性能開発の東山氏の説明によると、プラットフォームをキャリーオーバーする中で、ロイヤルとアスリートの違いを明確にするには、操縦安定性能と乗り心地の両方をより高いレベルまで引き上げることによって、クルマが持てるポテンシャルの枠を広げる必要があったという。この枠が広がらなければ、ロイヤルとアスリートの味付けは絶対に広がらないわけだ。
その枠を広げるために、プラットフォームは流用としながら、剛性をあげるために、ブレースの追加を床面に行い、また、スポット溶接を増加している。さらに、ドライバーがインフォメーションを受け取るのにもっとも影響の高いステアリング周りの剛性を上げる必要があった。それは、インパネ・リンフォースの剛性で解決しているという。現在のトヨタ車の中でも、最もインパネ・リンフォースの剛性が高いのはこの新型クラウンだという。
一方、シャシーでも、繰安性、乗り心地をさらに良くするために改良が加えられている。サスペンションレイアウトは従来と同じフロント・ダブルウイッシュボーン、リヤ・マルチリンクである。そこで、たどり着いたのは、アーム類の改良である。アーム自体もバネであるという考え方から、バネ定数をさげ、ショックアブソーバーが働きやすい状況にしているという。
乗り心地や繰安性というと、サスペンションのブッシュ、スプリング、ダンパーとボディ剛性から創られ、サスペンションアームの剛性は上げる方向でつくられているのが一般的だ。しかしながら、新型クラウンではアームのにじり剛性を下げることで改良に結び付けているというのだ。それが、先代とは大きくことなるハンドリングの変化であり、ロイヤルとアスリートの違いの明確化に現れていたのだ。
考え方として、リヤサスペンションのアッパーアーム1番と2番、ロアアームの1番の3本を丸パイプのアームから開断面形状へ変更し、圧縮強度、曲げ剛性は丸パイプアームと同等としながら、ねじり剛性を大幅に下げるという変更している。丸パイプのねじり剛性を100とすれば、新型クラウンに使われている開断面のアームは5程度の剛性しかないという。
つまり、物体が動くときにクーロン摩擦が起こり、その後実際に物体が動き出す。つまり、タイヤからの入力はブッシュのヒステリシスが起こる前にまず、アームに力が加わる。だから、そのアーム自体から動き出せば、つまり、微小な入力時にアームが動き出せば、ショックアブソーバーが仕事をしやすくなるという理屈だ。
しかしながら、東山氏によればサスペンションのチューニングではまず、ブッシュから見直す必要があり、ゼロクラウンのときに、ブッシュのチューニングはやりつくした感があったという。そこで、今回、さらにロイヤルとアスリートとの違いを明確にしなければならず、そのためにはブッシュやダンパーだけでは同じプラットフォームであるがために難しく、アーム本体にもバネ効果を持たせたということだ。これが乗り心地に大きく好影響を及ぼしているという。
さらに、フロントのタイロッドとリヤのトーコントロールアームをオフセットさせ、コーナリングに、フロントはトーアウトへ、リヤはトーインへとなるようにしている。特にフロントのタイロッド本体は形状も変更し、波形の細径化を行っている。
従来のリヤサスペンションをつかさどるリンク類では、ブッシュのチューニングでカバーしきれない領域があり、リンクの動きが渋かったという判断なのかもしれないが、リンク剛性を上げるのが一般的な現在、逆転の発想には驚かされる。
この一連のチューニングは新型クラウンのサスペンション技術という動画で公開されているので、参考にしてみるといいだろう。
トヨタの説明するアーム効果とは上記のことであり、乗り心地と繰安性能を高めるために、新しい考え方でクルマ造りをしているわけだ。
< ハイブリッドモデル >
今回、ハイブリッドモデルに関してはナンバーが取得できておらず、富士スピードウエイの構内だけでの試乗だった。3月に再び試乗会があるということなので、詳細は別の機会にレポートしよう。
今回のチョイ乗りでは、ハイブリッドモデルはロイヤル、アスリートそれぞれのグレードに用意されており、乗り心地と繰安性がそれぞれの方向にチューニングされているという印象だ。試乗したのはアスリートのハイブリッドだが、ガソリンのハイブリッドよりも全体的にマイルドな印象だった。また、ハイブリッドのロイヤルは、ガソリンのロイヤルよりはややアスリートよりの仕上げだというので、ちょうど中間的な印象の乗り味に仕上げてあるようだった。
今回のハイブリッドでの注目は4気筒2.5Lエンジンと組み合わされる縦置きレイアウトのTHSIIで、圧縮比が13.0のアトキンソンサイクル運転のエンジンに、これまで同様リダクションギヤを持たない無段階変速する仮想ミッションになっていることだ。レクサスではリダクションギヤを持つシステムになっているが、これはグローバルに販売するレクサスには250km/h以上で走行する実力がなければならず、モーターの回転域を超えることが予想されるため、リダクションギヤが設定されている。一方、クラウンは国内専用モデルであり、高速走行領域もそれほど高速ではない。新型クラウンに採用しているTHSIIのモーターは250km/hまで、対応で減速する必要はないということだ。
エンジンはカムリに搭載しているエンジンをベースに縦置きに変更し、新世代のD4直噴システムを採用。そして組み合わせるハイブリッドシステムを新規に設計している。使用するバッテリーはニッケル水素を利用している。
また、トヨタは普及させやすいペダルふみ間違い事故防止装置も開発している。カメラやレーダーを使ったものは、高価になるため、できる限り多くの車輌に普及させたほうが、事故件数は減らすことができる。そのため、今回開発したものを2つ紹介しよう。
ひとつは、ソナー(超音波)を利用したもので、これはすでにバックソナー付き車輌も多く普及しているので、そのソナーと連動させて事故を防ごうというものだ。これは障害物に近づきすぎると最初にエンジン出力を落とし、つぎにブレーキがかかるシステムで、駐車場での踏み間違い事故は60%がリヤからで、距離も短いという特長があり、有効と考えられる。
もうひとつは、車輌制御だけで事故を未然に防ぐもので、アクセルを踏んだ状態からシフトしたときに、異常行動と判断し、ブレーキをかけるシステムだ。これはパニックってアクセルを踏みながらバックやドライブにシフトして、暴走する事故に対応できる。
このように、すでに普及している装置や制御だけで未然に事故が防げればユーザー負担も軽く、安全なクルマ社会へと貢献できる。高価な部品に頼らず、現在の制御システム変更で防げるメリットは大きく、評価は高い。
< トヨタ クラウン ロイヤルシリーズ >
< トヨタ クラウン アスリートシリーズ >
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