2012年10月26〜28日、FIA・WEC(世界耐久選手権)の最終戦にあたる第8戦が上海国際サーキットで開催された。ここ上海でも富士6時間レースを制覇したトヨタTS030ハイブリッド(アレクサンダー・ブルツ/ニコラ・ラピエール組)が2大会連続となる優勝を飾り実力を見せつけたが、3位に入賞したアウディ・スポーツの1号車(アンドレ・ロッテラー/ブノワ・トレルイエ/マルセル・ファスラー組)がWECの初代ドライバーチャンピオンとなり、アウディ・スポーツは第6戦の時点で初代ファクチャラーズチャンピオンを決定しており、WECのダブル・チャンピオンの座を獲得した。
10月27日に行われた公式予選では、ブルツがドライブしたトヨタTS030が1分48秒273という最速タイムを叩き出し、2戦連続でポールポジションを獲得した。言い換えれば、予選のラップタイムではトヨタTS030がアウディR18 e-tronクワトロを上回ることを改めて証明して見せたわけだ。R18 e-tron2号車のマクニッシュは1分48秒373で僅差ながらも2番手に。そして1号車は1分48秒597で3番手となった。
決勝日の10月28日、午前11時に決勝レースの火蓋が切られた。レース序盤からトヨタはハイペースで、追走するアウディ2号車、1号車との差を、時間の経過とともに拡大していった。トヨタは、今回のレースでは2名のドライバー体制でピットインごとにタイヤ交換を行う作戦を採用。つまりアウディチームと同じ作戦でも十分で勝機があると考えてるのだ。
レースはその後もトヨタTS030がリードを守り続け、アウディ2号車に58秒5もの差をつけてゴールを迎えるという一方的な展開となった。トヨタのリードとは別に、アウディは1号車と2号車がドライバーズチャンピオンの座を賭けて戦っていた。結果は、2号車が1号車を上回り、2位でフィニッシュ。しかし、すでに3勝している1号車のロッテラー/トレルイエ/ファスラー組が3位に入り、ドライバーズチャンピオンの座をものにし、アウディ・スポーツは新生WECでマニファクチャラーズ・タイトルとドライバーズ・タイトルの2冠を獲得したことになる。
トヨタTS030は、シーズンの6戦中3回の勝利を飾り、3回のポールポジションと4回の最速ラップを記録するなど、高いパフォーマンスを発揮した。開発テスト段階では、後輪だけでなく前輪にも回生+駆動用のモーターを配置してテストを行っていたが、実戦マシンは後輪での回生+駆動を選択。エンジンとトランスミッションの間に配置されたモーター出力は220kW(293ps)で、この出力はエンジン・パワーをブーストするシステムだった。つまり、この出力と空力性能の向上により、アウディより優位に立ったといえる。
一方のアウディR18 e-tronは前輪側に回生+駆動モーターを配置した4WDシステムとしたため、総合出力はほぼトヨタと同等だが、モーターによるブーストが120km/h以上の速度域に制限されたため、低速コーナーの立ち上がりではトヨタが有利となった。またアウディは燃費ではトヨタを確実に上回るが、空力性能ではやや劣り、タイヤの負担がトヨタより大きいという。
アウディ・スポーツ代表のU.ウルリッヒ博士は、「マニュファクチャラーズチャンピオンに続き、ドライバーズチャンピオンも獲得できたことは非常に喜ばしい。しかし残念なことに、今年の中国のレースで優勝を獲得することはできなかった。非常に強力なライバルの出現は、我々の来年に掛けるモチベーションを高めてくれる」と語っている。ウルリッヒ博士は、シリーズ後半のおそらく予想以上のトヨタの躍進を苦々しく見ていたに違いない。
言い換えれば、来年シーズンのアウディは、新型の、おそらくR19を投入し、パワー、空力性能ともにトヨタを圧倒するパフォーマンスを目指し、そのための開発はすでに始まっていると考えられる。そういう意味で、2013年シーズンのWECも興味深い。