2012年10月12日?14日、富士スピードウェイで開催された世界耐久選手権(WEC)第7戦「富士6時間レース」は、予選でポールポジションを獲得したトヨタTS030ハイブリッドが、決勝レースでもアウディの猛追を振り切って地元優勝を成し遂げた。
今シーズンのWECにアウディは全戦出場し、R18 TDI ultra(2011年マシンの改良型)と、新開発ハイブリッドマシンであるR18 e-tronクワトロの2台体制で参戦するとしていた。一方のトヨタは、新開発のハイブリッドマシン、TS030をシリーズ第3戦のル・マン24時間レースに初めて送り出した。ル・マンではアウディが優勝し、トヨタはリタイヤに終わっている。
ル・マンの後は3戦が行われ、トヨタは第5戦のサンパウロ6時間レースで念願の初優勝を果たし、この結果を受けアウディは、従来のR18 ultraとR18 e-tronクワトロという2台体制からR18 e-tronクワトロの2台体制に変更。第6戦のバーレーンではトヨタのリタイヤもあり優勝を果たした。そして、いよいよ決戦ともいえる第7戦の富士6時間レースを迎えることになった。
第6戦までの実績で、パワーではV型8気筒3.4Lのガソリンエンジン+キャパシター式ハイブリッドがアウディに勝ることが明らかになった。トヨタのハイブリッドシステムは後輪からモーター/ジェネレーターにより減速エネルギー回収を行い、キャパシターに蓄電し、必要な時にモーターで後輪をブーストするシステムだ。しかし、燃費の点ではアウディに劣り、ハンデとなっている。
一方のR18 e-tronクワトロは、V型6気筒3.7Lのディーゼルターボを搭載し、トヨタより燃費に優れ、6時間レースで給油回数がトヨタより1回少なく展開できるアドバンテージを持っている。
アウディのハイブリッドシステムは前輪にモーター/ジェネレーターを配置し、前輪で減速エネルギーを回生し、フライホイール・ジェネレーターで蓄電し、必要な時には前輪を駆動するシステムで、モーター作動時には4WDとなる。この4WDシステムのためアウディは120km/h以上でないとハイブリッドシステムは使用できない制限が課せられている。
WEC規則により、ハイブリッドが回生=使用できるエネルギーは500kJ(キロジュール)=1138.9Whに制限され、これはトヨタ、アウディともに共通の規則として適用されている。
タイヤはともにミシュラン製を使用しているが、空力のダウンフォースの違いのため、トヨタよりアウディの方がタイヤの消耗が激しいという問題がある。このため、アウディはピットインごとにタイヤ交換を行い、トヨタはピットイン2回目にタイヤ交換を行うという差がある。このような事情で、総合戦力では互角であるといえる。
10月13日に行われた予選では、TS030(A.ブルツ/N.ラピエール/中嶋一貴)が1分27秒499を叩き出してポールポジションを獲得した。2番手はアウディ1号車((A.ロッテラー/B.トレルイエ/M.ファスラー)でタイムは1分27秒639、3番手がアウディ2号車(T.クリステンセン/A.マクニシュ)で1分28秒370を記録した。この予選でラップタイムもトヨタ、アウディがきわめて拮抗していることが証明された。
10月14日に行われた決勝レースも、両メーカーチームの大接戦となった。レースをリードしたのはトヨタだが、給油回数が1回多いためそのピットインの時間ロス分をリードしておく必要がある。アウディは1号車がトヨタに肉薄し、十分なリードを与えることはなく、中盤まではトヨタ、アウディ1号車がテールツーノーズの状態となった。しかし、レース中盤を少し過ぎた頃、アウディ1号車はコース上でGTクラスのマシンと接触。
このアクシデントによるダメージで、フロントのボディパネルを交換するためにピットインし、ルーティンのピットストップ時間よりも24秒タイムロスする結果となった。さらにレース主催者は、このアクシデントの責任はアウディ側にあるとして、ストップ&ゴーペナルティを科したため、1号車は3位に後退してしまった。
アウディ2号車は、序盤から振動の発生によりハンドリングに苦しんだ上に4時間が終了した頃、LMP2クラスのマシンが2号車に接触。このアクシデントによって、フロントのエアロパーツを損傷してしまった。しかし、チームはフロントフードを交換しないことを決断。そのまま3番手をキープし、3位でゴールを迎えることになる。
3番手に後退したアウディ1号車は、激しく追い上げ4時間が経過した時点で2番手に再浮上。ついにはトヨタを10秒差にまで追い詰めた。トヨタはアウディより1回多い燃料補給のために土壇場でピットインする必要がある。一方の追い上げるアウディ1号車は最後のピットインで勝負を賭け、タイヤ無交換のままレースに復帰している。
最後の給油を終えたトヨタがコースに戻ると、アウディ1号車は5秒差にまで迫っていた。しかしタイヤの消耗がハンデとなり、その後はアウディ1号車はトヨタに追いつくことはできなかった。
両車とも全力での走りを見せるレース終盤はまさに息詰まる接戦となったが、トヨタがアウディ1号車に11秒差をつけて優勝を果たした。トヨタとアウディは6時間を走ってわずか11秒差。そしてアウディにとっては、接触事故やピットストップ・ペナルティを負うなど不運な要素が重なり優勝には手が届かない結果となった。
木下美明(トヨタ・レーシングチーム代表)は、次のように語っている。 「このプロジェクトの始まりから、富士6時間レースで優勝することを目標に置いてきた。そのような状況下で多くのファンの前でエキサイティングなレースを戦うことができ、さらに勝利を挙げられたことは格別の気分だ。チーム全体が最高の仕事をして、特別なレースというプレッシャーをはねのけた。最高の戦いをしてくれた、アレックス・ブルツ、ニコラス・ラピエール、中嶋一貴の3人をとても誇りに思う」
ウォルフガング・ウルリッヒ博士(アウディ・モータースポーツ代表)は、「今日は非常に良いレース展開だった。1号車は修理やストップ&ゴーペナルティを受けてもなお、トップとの差はわずか11秒だった。これは、基本的なパフォーマンスがいかに優れていたかを証明するもので、私たちは勝利に向けて果敢に戦い、あと一歩のところまできたが、残念ながらすべて順調という訳にはいかなかった。トヨタはこのサーキットでとても強く、ホームレースを制した。心から祝福したいと思う」と語っている。
LMP1プライベーターのトップとなる4位に入ったのはレベリオン・レーシングの12号車ローラB12/60クーペ・トヨタ(N.プロスト/N.ジャニ)、続いて22号車のJRM HPD ARX-03a/ホンダ、21号車のストラッカ・レーシング HPD ARX-03a/ホンダという順位となった。LMP2クラスは中野信治が乗り込んだ25号車のADRデルタチームのオレカ03/日産が優勝。LM GTE Proクラスは77号車のポルシェ911 RSRが優勝。LM GTE Amクラスは50号車のラルブル・コンペティションチームのコルベットC6-ZR1が優勝を果たしている。