スズキは2014年8月25日、ワゴンR/スティングレーの一部変更を行ない(モデルチェンジ詳細はこちら)、軽ワゴンナンバー1の低燃費を実現した。
これによって熾烈な低燃費争いは新たな局面を迎えと言っていいだろう。つまり、このワゴンRには新しい技術が投入され軽自動車業界に留まらず、クルマ全体のあらたなムーブメントとなる可能性が出てきたからだ。
今回の一部変更のポイントで最大の注目はマイルド・ハイブリッド・システムを搭載していることだ。これにより燃費を軽ワゴンナンバー1となる32.4km/Lを実現し、これまでトップだったekワゴン/デイズから首位の座を奪った。内容的にはビッグマイナーチェンジに相当する変更だ。ちなみに軽ワゴンは高さ1550mm以上の軽自動車を意味する。
早速、そのマイルドハイブリッドシステムの詳細をみてみよう。スズキはこれまでのエネチャージ技術の蓄積から、そのノウハウを活かし、ISG(モーター機能付き発電機)と専用リチウムイオンバッテリーを組み合わせた「S-エネチャージ」を開発した。
一般的なクルマに搭載されている従来のオルタネーターは、加減速に関係なく常時エンジンに負荷を掛けて発電していたが、スズキは加速時に負荷を掛けない仕組みのオルタネーターを開発し、そして減速時のみ発電しバッテリーへ蓄電する回生エネルギーシステムとしていたのがエネチャージだった。今回さらに、このオルタネーターに駆動モーター機能とスターター機能も加え、従来の発電機能と併せたものとしてISGを新開発した。ちなみにISGはintegrated Starter Generatorの略。
このモーター機能を持つISGの働きは、モータ-/発電機がクランクプーリーに直接ベルトを掛けたレイアウトであるため、通常であればベルトを介した駆動力として利用する。つまりエンジン出力にモーター出力がプラスされるわけだ。ただしいわゆるフル・ハイブリッドのように大バッテリーに高出力モーターという専用のものではないため、大出力ではない。そのため欧州ではマイルド・ハイブリッドという呼び方をしている。ワゴンRでは12Vの専用リチウムイオンバッテリーを介し、1.6kw(2.2ps)の出力を得ている。
このマイルド・ハイブリッドの高出力化とする方法としては、電圧を上げ12Vから24V、48Vとなれば、出力を上げることは可能だ。そのため、今後馬力制限のない高級車を除く一般乗用車では、このマイルド・ハイブリッドが主流になる可能性もあるわけだ。Tia1であるコンティネンタル・オートモーティブやボッシュは48Vのマイルド・ハイブリッドはすでに開発済みで、納品先自動車メーカーも決まっていることだろう。
フル・ハイブリッドでは大きなバッテリーが必要であり、直接コストに跳ね返るのは言うまでもない。ハイブリッド車が高額な理由がここにある。だが、ワゴンRにはコストも競争力の高いものでなければならず、また出力制限があるため軽自動車の高出力ハイブリッドは現実的ではない。ちなみに、このS-エネチャージに使われる専用のリチウムイオン電池は、これまでのエネチャージモデル同様に助手席のシート下に格納されている。
ではワゴンRでは、このマイルド・ハイブリッドシステムをどう利用したのかといえば、モーターの出力をエンジン出力にプラスさせず駆動アシスト機能に徹底し、省燃費へと利用しているのが特徴だ。その利用方法は、通常の走行時にモーターでエンジン駆動力をアシストさせ、その際ガソリンエンジンは燃料を絞り出力を抑えることができる。絞られた出力は約10%で、その分をこのISGの出力でカバーすることができるため、加速性能は変わらないというわけだ。しかし、燃料は確実に絞られているためガソリン消費量は少なくなっているということになる。つまり、いつもどおりに運転をしても燃費がよくなっているというわけだ。
モーターアシスト機能の条件としては、最大で6秒間のアシストが可能で、車速15km/hから85km/hでCVTのトルコンがロックアップ状態の時。アクセルの踏み増し操作を行なったとき、エンジン回転3500rpm以下などがあり、ほかにもバッテリーの充電状況、温度、エンジン水温なども稼動条件にある。また、アシストはこれらの条件により自動で行なわれており、インジケーターで確認することができる。
さらに今回の変更ではアイドリングストップ機能の制御も見直しされ、ストップする回数の頻度を上げ、またブレーキペダルの操作量を感知して、意図しないブレーキ操作によるエンジン再始動を抑制するなどが行なわれている。アイドリングストップからの再始動にはこのISGがベルト駆動から直接クランクを回すため、静かでスムーズなエンジン始動が可能になったという。再スタート時の社内騒音は約40%低減できたということだ。
エンジンもまた改良されている。搭載しているRA06A型の圧縮比は11.0から11.2へ高められ、ピストン・トップの形状変更による燃焼効率の改善、エンジン内部の部品変更により油圧特性を見直し、VVT作動領域の拡大、CVT変速制御の見直し、最適化により低回転域での走行が可能としたことなども加わり、燃費を向上させている。
実はこのマイルド・ハイブリッドはすでに日産セレナにも搭載されていて、システムとしては既存の技術でもある。しかし、セレナがこのシステムを採用した当初、フル・ハイブリッドを大衆小型車にも搭載することが日本のメーカーでは中心で、効果の小さいマイルド・ハイブリッドに注目が集まらなかったのもしれない。
今回、スズキでは「ハイブリッド搭載」とは大きく宣伝していない。これも同社のアルトエコはJC08モード35.0km/Lであり、「ハイブリッドなのにアルトより燃費が悪い?」という声を気にしてのことなのかもしれない。空気抵抗だけでも不利な軽ワゴンが軽乗用タイプの燃費を超えるのは至難の技であるが、ユーザーの声というのはそういうものかもしれない。
しかし燃費競争を展開する軽自動車業界では、初となるシステムであることが理解でき、大衆小型車にも普及が予測され、これからさらに省燃費化への道が加速し、再スタートすることなどが想像できる。そして既存のハイブリッド車を凌ぐ40.0km/Lという数値も夢ではなくなったのかもしれない。