既報のように2015年2月から発売となったSX4 S-クロスをようやく試乗する機会がやってきた。スズキとしては新たなCセグメントのクロスオーバーSUVであり、ハンガリーのマジャール・スズキ製の逆輸入車という点で興味津々のクルマだ。 <レポート:松本 晴比古/Haruhiko Matsumoto>
逆輸入車ということからもわかるように、ヨーロッパ向けのクルマとして企画され、現地の市場に合わせて開発され、テストもヨーロッパの各地を走り込んで熟成しているという。このS-クロスはマジャール・スズキだけでなく中国の重慶長安・鈴木でも生産され、スズキのグローバル戦略車と位置付けられているが、世界的にマーケットが拡大しているジャンル、クロスオーバーとしたことは正解だと思う。
エクステアリアのデザインは、伸びやかさと力強さを感じさせ、一目見てクロスオーバーであることがわかる。タイヤも205/50R17と大径で、フェンダーアーチのエクステンション、前後のスキッドプレート風のデザインなどはクロスオーバーの証明といえる。ただ、地上高は165㎜で、本格SUVほどではなく、このあたりがクロスオーバーたる部分だ。
インテリアは、ディテールの仕上げはかなり作り込まれているが、ブラック基調のモノトーンで、デザイン的にはちょっと味気無さを感じる。ある意味で実用車としての割り切りだろうか。
開発コンセプトは開発コンセプトは、Cセグメントのハッチバック乗用車としての実用性の高さ、使いやすさと、クロスオーバーとしての存在感の強さを訴求。ボディサイズは、全長4300mm、全幅1765mm、全高1575mm、ホイールベース2600mmとヨーロッパのCセグメントのど真ん中にふさわしい。
つまり大人4人が長距離ドライブするのに不足のない室内空間が得られ、後席の足元スペースも十分な余裕がある。リヤシートバックは1段階だが角度調整もできるようになっている。ラゲッジも420L、ラゲッジボードを取り外すと430Lが確保されている。
装備では、左右独立温度設定式エアコン、4WDモデルはリヤヒーターダクトも装備。また4WDモデルはフロントシートに座面、シートバックにシートヒーターを備え、さらにクルーズコントロール、オートライト、雨滴検知式自動ワイパー、ヘッドライト・ウォッシャーも装備するなどヨーロッパ車的な装備となっている。
SX4 S-クロスはFFモデルも設定されているが、試乗車は4WDモデルだった。ドライバー席に座ってみると、ステアリングのチルト&テレスコピックの具合はよいが、ドライビングポジションは今ひとつしっくりこない。シート、ハンドル、ペダルの配置でペダルが手前に感じるポジションでフランス車に多くあるパターンだ。ただ、シートの作りはしっかりしており、腰や肩のサポートはさすが文句ない。また、パワーステアリングの制御ではアクセルのオン・オフでアシスト量が変化し操舵力が変わるのが気になった。
搭載エンジンは1.6LのNAエンジンで、117ps/151Nm。市街地では約1200㎏の車両重量に対して過不足ないという感じだが、山道などではもう少しトルクがあったらと感じる場面もなくはない。じつはヨーロッパ仕様はフィアット製のターボディーゼルを搭載したモデルもあり、ディーゼルははるかに強力な低速トルクを味わえるはずで、これが本命モデルではないだろうか。
トランスミッションは副変速機付きCVTで、パドルによるマニュアル変速もできる。マニュアル操作をしながらの走りはCVTらしさは感じられず小気味よい。なおJC08モード燃費はFFで18,2km/L、4WDで17.2㎞/L。この燃費の違いは70㎏の車重の違いと4WDシステムの有無によるものだ。
SX4 S-クロスは、エンジンルームの中も、タイヤ(コンチネンタル・コンチECOテック)も多くの部品がヨーロッパ製だ。もちろんボディもハンガリー製であり、エンジン搭載はペンデュラム(振り子)式、ステアリングギヤもクロスメンバーにダイレクトマウントされるなど、クルマ全体がヨーロッパ流のクルマ造りになっている。それは走り出してすぐに体感できた。
ボディ全体のがっしりとした剛性感、ステアリングの剛性感の高さは走り出すとダイレクトに伝わってくる。走行中のステアリングの落ち着きも頼もしく、安心感が高く、ヨーロッパ製のCセグメント車と肩を並べるレベルにある。逆に言えば日本車ではなかなか味わうことができないフィーリングといえる。
また走行中のキャビン内の静粛さもかなりレベルが高く、たとえ長時間乗っていても騒音のストレスは少ないはずだ。
SX4 S-クロスはクロスオーバーというキャラクターだが、4WDシステムは最先端の本格システムを搭載していることは大きな付加価値といえる。ALL GRIPと名付けられたこのシステムは、JTECT製の電子制御4WDカップリングを採用し、多数のセンサー情報をもとに路面やタイヤの駆動状況を検知し、最適な前後駆動トルク配分を行なう。それに加えて、センターコンソール部のスイッチの操作でオート、スポーツ、スノー、ロックという4モードが選択できる。
ロックは滑りやすい路面からの脱出用で、前後最大限の駆動配分とし電子制御LSDも作動、スノーは滑りやすい路面で走りやすいモードでESPも積極介入、オートは路面状況に合わせ最も走りやすい駆動力配分を行なう。スポーツはアクセルのレスポンスや変速制御、ESPもスポーティな走りに最適化される。またこのシステムは総合的に走行状態をモニターし、4WDの前後トルク配分とステアリングを協調制御し、コーナリングしやすく横滑りを抑えるという高度な車両運動制御も行なうようになっているのだ。
試乗は雨の山道だったが、このようなシーンで気持ちよく走るにはスポーツモードがぴったりで、エンジンのレスポンス、変速も高めの回転が維持される。トラクション、曲がりやすさも言うことなしだった。これに対してオートモードではFF状態で走行する場面が多くなる分だけ普通の走りのフィーリングと感じた。
SX4 S-クロスは、乗ってみるとまさにヨーロッパ車というフィーリングで、ボディサイズ、キャビンの広さや使い勝手の良さは日本でもぴったりだ。しかも価格は204万円、4WDで225万円でCセグメントのクロスオーバーとしては割安であり、総合的に見たコストパフォーマンスは抜群だ。ただ残念なことに市場で車名、存在があまり浸透していないこともあって、スズキの販売計画は控えめになっている。個人的にはもっと注目されてよいクルマだと思った。