スズキから新しいコンパクトSUVがデビューする。BセグメントサイズのクーペスタイルSUV「FRONX・フロンクス」だ。以前2020年まで国内販売されていた「バレーノ」とプラットフォームを共通としたモデルで、スズキのグローバル戦略車に位置付けられている。
バレーノの国内販売は終了しているものの、インド、中近東、アフリカ、東南アジアでは継続販売されており、インド市場ではそのバレーノとともに、すでに販売の始まっている新型フロンクスも人気ということだ。
このフロンクスは2023年1月に発表し4月からインドを始め中南米、中近東、アフリカなどで販売されており、日本での正式発表、発売は2024年秋が予定されている。そして4WDは日本だけに設定し、またサスペンション、パワートレインも日本仕様にして登場する。
BセグメントのSUV
この発表に先立ちプロトタイプに試乗できたのでお伝えしよう。国内ではBセグメントサイズはホンダ・ヴェゼル、WR-V、トヨタ・ヤリスクロス、マツダ・CX-3などのライバルがいて、競争は激しいカテゴリー。そこでポイントになるのはボディサイズがひとつキーになりそうだ。
プロトタイプの時点ではボディサイズは公表されていないが、エンジニアの話によるとダイハツ・トヨタのロッキー・ライズとほぼ同等サイズという。ヴェゼルやWR-V、ヤリスクロスらは全長も長くCセグメントに迫る大きさがある。これはある意味、大型化している流れでB+まで成長しているわけだが、日本の市場では逆に大きさよりコンパクトで取り回しのいいモデルが欲しいという声も少なからずある。
したがって、フロンクスはそのポイントをついたモデルとしてライバルとの違いをアピールしてくるように思う。かつてソリオが市場開拓に成功した事例を思い出すのだ。
高い静粛性をアピール
プロトタイプを試乗したのは特設コースで路面状況は綺麗な路面。そしてワインディング路がある伊豆のサイクルスポーツセンターだった。
乗り心地も相当こだわったというエンジニアの話だが、このコースで試乗する限り、滑らかで乗り心地の良い印象。またハーシュネスもいなす動きで突き上げ感はソフトに感じるようになっていた。また静粛性は高くエンジンの音やロードノイズもよく抑えられており上質な印象だ。
とくに後席はサイドウインドウの板厚を3.1mmに上げ、外界からの音の遮音にも力を入れているのだ。この静粛性はエンジンとキャビンの隔壁の板厚を上げ、遮音材も使うことで、フェンダー越しに入り込むロードノイズ、エンジン音を抑えることができている。ちなみに、コンパクトカーでは2.8mm前後が一般的な板厚だ。
そして日本仕様だけに機械式4WDを設定。その静粛性にもプロペラシャフトの前後にダイナミックダンパーを設け、共振による振動を低減し、リヤデフ取り付け部に防振ゴムを設定。さらに取り付けパネルに車体強度を高めるリンフォースを設定し、形状の最適化も併せてパネル共振によるこもり音を抑制しているという。
このテスト路面ではFFと4WDでの騒音の違いは感じにくく、どちらも静粛性はクラスを超えるレベルだと感じた。ただ、荒れた路面がないことなどを踏まえると、この先の公道での試乗で確認してみたい。ちなみに4WDはビスカスを使ったオンデマンド式で、通常はFFで走行し、トルク要求時にリヤへ駆動が配分される。
実用エンジンの使い方
エンジンは1.5LのNAエンジンでマイルドハイブリッド。12Vのベルト駆動オルタネータが駆動、エンジン始動などを受け持ち、6速ATの変速時のトルクの落ち込みなどをサポートするマイルドハイブリッドだ。
試乗した印象では1速、2速がクロスレシオで3速が離れている設定。そのため、ワインディングでは3速固定で楽しいものの、一般ユーザーがDモードで普通に運転すると少しビジーに感じるかもしれない。逆に言えば、市街地での出足は良く感じる設定にしているとも言える。
パワー感に関しては1.5Lの自然吸気なのでそれなりの印象で、実用エンジンという印象だ。過給器がないだけに非力さは否めないものの、市街地での実用性は十分だ。
最小回転半径は4.8mで扱いやすい。これはソリオやスイフトと同等でボディサイズと相まって狭い場所での切り返しで有効性を感じることができる。
そして操舵フィールも適度に手応えがあり、やや重い設定になっていると感じた。これは運転好きのドライバーには好評だと想像するが、一般的な人にはもう少し軽めでもいいと思う。このあたりのしきい値は難しいところだが、プレミアムモデルで女性が想定される車両は往々にして軽めのことが多い。
一方で、ロールは少なく、収まりも良い。スズキはリニアなヨー応答でロールの小ささと収まりのよさを強調しているが、まさに言う通りの出来栄えだ。とりわけ切り戻しで違和感なくスッと収まる手応えは気持ちよさを覚えるのだ。
埋没しないデザイン
インテリアはレザーとのコンビシートで、ボルドーカラーがアクセントカラーとなっていて、上質感と大人な印象がある。飛び抜けて先進感があるという内装ではないが、操作に迷いが生じない慣れ親しんだ機器類は扱いやすいと感じるだろう。またピアノブラックを効果的に使い、質感の向上に寄与し、シルバーの加飾も適度に配されバランスがいい。
エクステリアは個性的だと感じる。とくにダブル・フェンダーと呼ばれるフェンダー処理は盛り上がったボディや丸みのある処理で力強さや堅牢さ、洗練さを感じることができる。クラムシェル的に処理したボンネットも安っぽさは微塵もなく、いいクルマ感を演出していると感じる。
また灯火類にもこだわっており、近年は連続して光り、直線的なつながりを持つシグネチャーランプが主流だが、3粒のLEDを光らせることで夜間でも昼間でも周りに埋没しない存在感のあるデザインになっている。
もうひとつ新型フロンクスの開発でこだわったポイントにADAS系がある。これは今回体験していないが、ACCとLKAの介入感を抑えていることが操作感の爽快さに繋げていることがある。実際、ドライバーの意思でハンドル操作をしていてもLKAの介入により不快を感じる場面も多々あるのは事実。そうした介入感を抑制したというので、次回の公道テストでは体験してみたい。
このようにスズキの伝統とも言える「いいとこ突いてるなぁ」というマーケティングの妙を感じる商品だと感じ、サイズ的には空白になりつつある市場へ投入し、誰もが安心して扱いやすい乗り味とし、使い勝手や見た目の個性などメリハリの効いた商品というのが印象に残った。おそらく価格に関してもかなり競争力のある価格を設定してくると想像しており、小型SUVでホンダのWR-Vと合わせて旋風が起こりそうな予感がする。