2014年4月16日、スズキは次世代の技術を紹介する「4輪技術説明会」を開催し、本田治副社長・四輪技術本部長、パワートレーン開発責任者の笠井公人氏、車体開発責任者の大西伊知郎氏が出席し、今後のスズキが目指す技術戦略を説明した。
↑スズキ車の燃費向上の推移とエネチャージの普及率。エネチャージの普及がマイルドハイブリッドに繋がる
まず最初にスズキの商品開発は、トップクラスの燃費・環境性能、求めやすい価格、安心と喜びのあるクルマという3つの柱を軸として行っていることを改めて確認した。そして今後の技術戦略として、次世代の軽量プラットフォームの採用、エンジンのさらなる高効率化、減速エネルギー回生を利用したマイルドハイブリッドの採用を重点項目としている。
■次世代プラットフォーム
スズキは現在、軽自動車用、Aセグメントのソリオ用、Bセグメントのスイフト、CセグメントのSX-4用の4種類をラインアップしているが、今後は軽自動車用、Aセグメント用、Bセグメント用の3種類に絞り込み、CセグメントのSX-4に関してはBセグメントのプラットフォームを拡張して使用することにしている。
もちろん新世代として登場する各プラットフォームはいずれも徹底した軽量化、合理化を行なうことはいうまでもない。その例として説明・展示されたのが次期型の軽自動車用の試作プラットフォームである。新プラットフォームはフロントからリヤまで骨格のフレームが連続させることで、従来は多用されていた補強部を省略し、より軽量で強度・剛性が高められている。結果的には現行プラットフォームと比較して、曲げ、ねじり剛性ともに30%向上。構造の合理化の他に超高張力鋼板の採用を拡大し軽量化を行なうという。なお、この新プラットフォームは、今後行なわれるモデルチェンジ車から採用するとされ、したがって採用第1号は次期型アルトではないかと推測できる。
↑現行の軽自動車用のプラットフォーム(左)と、軽量・高剛性を実現した次期型プラットフォーム
また、新プラットフォーム開発と平行し、機能部品のモジュール化も推進するという。コンポーネンツのモジュール化はセグメントを超えて採用され、サスペンションは4種類、エアコンシステムは2種類、フロントシートフレームは3種類に絞り込む計画だ。
■新世代エンジンとトランスミッション
エンジン開発の基本構想は、ガソリンエンジンについては平均熱効率を40%以上に高めることを目指す。現状の各エンジンの平均熱効率は33~34%というゾーンにあるが、これを40%以上に高め、軽自動車では燃費40km/Lを目標にする。またエンジン機種開発は、軽自動車用と1400cc以下のエンジンに絞り込むという。
具体的には、軽自動車エンジンに関しては現状のR06A型に集約し、このエンジンをさらに継続的に改良し、1400cc以下の小型エンジンは、デュアルジェット噴射の採用拡大、タンブル流の強化、クールドEGR、低フリクション化を推進するとしている。また同一ベースエンジンのラインアップとして自然吸気以外に直噴過給エンジンも投入するとしている。
↑インド市場用に開発された0.8L・2気筒ディーゼル。直立タイプとスラントタイプの2種類が展示された
インド市場で重要なディーゼルエンジンに関しては、現在はディーゼルはフィアットから供給を受けているが、今後1年以内にスズキが自社開発した2気筒・800ccエンジンをインド市場に導入する計画だ。スズキとしては初の自社開発ディーゼルエンジンが登場することになる。
この新開発ディーゼルはボア・ストロークは77.0mm×85.0mm、793ccでDOHC/8バルブのFDB(フュエルデリバリーブロック:2気筒のためコモンレールではなくブロックで対応できるため)、マルチ噴射のソレノイド式インジェクター(145MPa)を備えている。エンジンはバランサーシャフトを備えている。このエンジンはインド生産の小型乗用車、商用車に搭載予定で、排ガス基準はユーロ4レベルとされ、DPフィルターを装備している。
トランスミッションは、インドを始め新興国市場に向けて新開発されたシングルクラッチAMTのオートギヤシフト(AGS)を今年1月に発表しているが、2月6日からインドで発売されたAセグメントのセレリオに搭載され、受注車のうち47%がこの5速AGS仕様となり高い評価を得ているという。このAGSはエンジンとの協調制御、電動油圧シフト機構の熟成によりシフトショックのないスムーズな変速が実現され、さらにクリープ機能も備えられている。
↑インドで販売されているセレリオ(1.0L)。AGS仕様を設定し、販売比率の47%を占めている
AGSなどシングルクラッチのAMTは、トランスミッション部分は一般的なMTそのもので、伝達効率が優れており、燃費は人間が操作するMTを上回るというメリットがあり、機構的にもシンプルなため、新興国には最適なトランスミッションと位置付けられる。
■マイルド・ハイブリッドシステム
今回の技術説明会で、スズキはさらに燃費を向上させる次世代技術としてマイルド・ハイブリッドを開発中であることが明らかにされた。スズキはすでに軽自動車から減速回生エネルギーを専用のリチウムイオン電池に取り込むエネチャージを採用しているが、実はこのシステムではリチウムイオン電池にまだ余力があるという。
そのため、次のステップとして従来のオルタネーターの代わりに、より高効率・高出力のインテグレーテッド・スターター/ジェネレーター(ISG)を採用し、減速エネルギーを従来以上に回生できるようにするのだ。従来のエネチャージでは、電池に蓄えられた電力は電装品のために使用されていたが、新システムでは電装品用の電力供給以外に、アイドリングストップからのエンジン再始動と加速時に電力によりISGを駆動し、ISGはベルトでエンジンのクランクシャフトの回転をアシストするというマイルド・ハイブリッドシステムを構成することになる。なおマイルド・ハイブリッドそのものは日本車では日産セレナが鉛電池を使用して採用している。
つまりスズキがすでに市販化されているエネチャージ・システムを生かしたマイルド・ハイブリッドである。ISGの採用により、減速エネルギーの回生量をは約30%向上させ、そのほとんどをエンジンの加速時のアシスト動力に使用することで燃費向上を果たすというシステムである。
言うまでもなく、軽自動車やコンパクトカーにはフルハイブリッドシステム、専用の駆動用バッテリーの搭載はあまりにコストが高く、採用は非現実的である。そのため、近い将来、2015年~2016年頃には小型車用のハイブリッドシステムとして、スズキと同様なISGと小型のリチウムイオン電池を利用したマイルド・ハイブリッドシステムが続々登場すると見られている。その意味で、いち早くエネチャージを採用したスズキはマイルド・ハイブリッドの導入を行ないやすい環境にある。
現在はマイルド・ハイブリッドのシステムはほぼ完成していると考えられるが、やはり軽自動車に搭載するためにはコスト面でのハードルがあるという。新採用されるISGだけではなく、制御システム、駆動を行なう補機ベルトと専用テンショナーなどのコストが現時点では制約になっているのだ。しかし、やはりスズキにとってこのシステムのターゲットは軽自動車であり、燃費面で競合車を圧倒的に凌駕する大きな武器になることは間違いない。