2012年8月9日、スズキが軽自動車用の新しい低燃費技術を発表した。この低燃費技術は9月に発売予定の新型ワゴンRに採用され、さらに車体の軽量化、エンジンの改良などにより、軽自動車ハイトワゴン・クラスでトップとなる燃費、28.8km/L(2WD/CVTモデルのJC08モード燃費)を達成するとしている。
今回発表された新技術は3つの低燃費化技術があり、スズキではそれを「エネチャージ」、「新アイドリングストップシステム」、「ECO-COOL」に大別している。では、さっそくその内容を考察してみよう。
エネチャージとは、減速時にオルタネーターを使ってバッテリーへ充電する行程において、新しい技術が投入されたということで、減速時に集中して発電=充電を行い、加速中は充電を行わないスズキ独自の減速エネルギー回生システムであるとしている。
一般的には、走行中は鉛バッテリーに常時、満充電する仕組みになっており、つまりは燃料を使ってオルタネーターを稼動し充電していることを意味する。そこで、スズキは蓄電されるバッテリーと発電するオルタネーターを従来型とは異なったものを採用し、減速エネルギー回生専用のシステムを開発した。バッテリーは高効率で、電力の出し入れの速度が速い特性を持つリチウムイオンバッテリーを採用。またアクセルを戻した時に減速エネルギーを利用して発電するオルタネーターは、一般的な軽自動車の約2倍の発電能力がある高出力オルタネーターを採用。これらにより減速エネルギーを効率よく回生・充電できるようにしている。いいかえると減速エネルギーの回収率を高めていることになる。
今回のスズキの技術では、燃料カットしている減速時にリチウムイオン電池と標準バッテリーの両方に充電するようにしているが、充電速度の速いリチウムイオン電池を充電・放電時に優先して使用する。なお標準の鉛バッテリーは12Vだが、リチウムイオン・バッテリーはより高電圧であるのが一般的で、この対策としてDC-DCコンバーターや可変電圧オルタネーターが必要になる。しかしコスト的に厳しい軽自動車用のシステムであるため、これらのシステムを不要にすることを開発の目標にし、結果的にリチウムイオン・バッテリーは、1セル=2.4V×5セルという低電圧仕様を採用。コンパクトなサイズにまとめ助手席シートの下側に格納している。
メインの鉛バッテリーはスターター、ヘッドライト、ワイパーなど大電力が必要な電装を担当し、リチウムイオン・バッテリーは、メーター照明やオーディオ、室内照明などの電装を受け持つ。
ここまでが「エネチャージ」である。次に新アイドリングストップ機構だが、システムのマイナーチェンジを行いアルト・エコに搭載されたものをさらに進化させたものである。
通常アイドリングストップシステムは、車両が停止状態のときにアイドリングストップするが、アルトエコでは減速時の速度が時速9kmになるとエンジンが停止するシステムだ。今回発表した新アイドリングストップシステムは、なんと13km/hからでもエンジンが停止するということだ。もちろん軽自動車初の技術であり、エンジン停止の頻度、時間をより増大させることで、低燃費へつなげたいということだ。
しかし、実用面で不便や不具合はないのだろうか?搭載する実車に試乗してみたいが、その登場までは少し待たなければならない。ただ、考えられる状況として、例えば赤信号で減速中に13km/h以下となりエンジンが止まっても、すぐに信号が青に変わるような場合どうなのだろうか。このことに対し製品企画・伊藤氏によれば、「減速時にアイドリングストップが作動した直後など、エンジン回転が完全に停止する前でも再始動が行えるスターターモーターを採用しているので、ストレスなくスムーズな再加速が可能です」と説明している。また、ブレーキマスターバックへの影響やステアリングフィールの変化なども気になるので、実車を待ってからレポートしたい。
3番目の低燃費技術は「ECO-COOL」である。これはエアコンに関する技術で、アイドリングストップ技術と関連してくる。通常、アイドリングストップしているときは、エアコンのコンプレッサーは作動せず、室内は送風状態となる。当然、真夏に停車していると車内の室温はすぐに上昇し、エアコン設定温度を上回ればエンジンが再始動し、エアコンが作動するというのが一般的だ。スズキは、このアイドリングストップ中に室温上昇でエンジンが再始動するのを遅らすこと、つまりアイドリングストップの時間をより長くすることで実用燃費をの向上を狙っているのだ。(JC08モード燃費ではエアコンは使用しないので、カタログ燃費向上に対する貢献度はない)
そこで、信号などで停止し、アイドリングストップの状態のとき、できるだけ長く冷気を送ることのできる新技術が開発された。蓄冷材を内蔵したエバポレーターを採用し、エンジン停止中でも蓄冷材が凍っている間は冷風を送ることができ、室温の上昇を抑え、アイドリングストップ時間を延長するというもので、従来タイプでは真夏の交差点を想定すると停止後約30秒でエンジンが再始動するが、それを60秒程度まで延長することができるという。
エアコンで室内を快適に保ちながら、同時にエバポレーター内の液体の蓄冷材を同時に冷やし、しばらく走行すると液体の蓄冷材は凍る(30km/hで約2分間走行すると蓄冷材は凍結するという)。アイドリングストップするとコンプレッサーが止まり、エアコンは送風状態となる。しかし送風される空気は凍った蓄冷材を通過するので車内へ冷風が送れる、という仕組みだ。こうすることで、エンジン始動時間が短縮され実用時の燃費向上に繋がるというわけだ。
なお新型ワゴンRはこれらの新技術の他に、エンジン本体の改良、ボディの大幅な軽量化など様々な技術を採用しているというが、その詳細はまもなく明らかになる。