マニアック評価vol36
スズキ・MRワゴンは常に新しい価値観を提案する、というポジションから誕生した軽ワゴンで、今回の3代目でも新たな提案をもって登場した。
初代のMRワゴンは2001年に発売され、ワゴンRのヒットを背景に持ちながら、斬新で個性的なデザインを打ち出して成功している。2代目はママ・ワゴンというポジションを提案し、主にユーティリティに力をいれて登場した。しかし、現在はパレットがそのポジションを吸収しているため、再び、新たな提案を持って誕生している。
その販売ターゲットになっているのは、これからクルマを持とうとしている若年ユーザーであり、キーワードに始動力、期待力、新バランス感覚という3つの言葉を掲げている。始動力とは新たに一歩踏み出す行動力を意味し、外観からは想像できないほどの広さをもつ室内に期待をさせること、そして、固定観念にとらわれないデザインをすることで、新しいバランスをみつけていくことをテーマにしている。
試乗したモデルはNAとターボの両モデル。プラットフォームやエンジン、ミッションも一新され、スズキのこれからリリースされる軽モデルにも採用されていくユニットである。
そのプラットフォームは、先代モデルより65mm延長されたためか非常に乗り心地がいい。路面からの衝撃をうまく吸収できていて、ピッチングや突き上げもなく、全速度域でよかった。サスペンションはフロントがストラットで、リヤはトレーリング・ビームの発展型ともいえるスズキ独自の伝統的なITL(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)を採用している。
とりわけ、フロントのストラット頭頂部を1点留めにしているが、それによる剛性不足や操安性への不満を感じることは全くない。マウントゴム構造を最適化することで、よりリニアなハンドリングになるという説明にもうなずけた。反面、NAが145/80-13というタイヤサイズが好影響を与えていると、うがった見方もしてみたがターボモデルの155/65-14サイズになっても同じように乗り心地、操安性はよかったので、タイヤだけの恩恵ではないと思う。
↑ストラットアッパーマウントはダンパー本体のボルトだけで固定されている
乗り心地は、NA、ターボともによかった。軽サイズではよくあるピッチングもしっかり抑えられていて、ロールも適度であり、不満はまったくない。室内に入り込む音も小さく感じられた。
市街地での直進性ではワダチに車体が振られることもなく、安心した直進性が保たれている。また、ブレーキのタッチは悪くはないが、より安心感を高めるためのしっかり感の演出は、もう少しあってもいい。決してプアなフィールではないのだが、安心感へつなげるにはすこしグレードアップして欲しいという印象だった。
エンジンは今回の目玉でもある新開発のR06A型で、16年ぶりに新設計されたエンジンだ。燃費、走り、静粛性を大きく進化させている。アイドリングも加速も非常に滑らかで、ペンデュラム式のマウントはボディへの振動も伝えない。しかし、ターボモデルは全体的にエンジン音と振動は大きめで、NAモデルとは違った印象だった。
アクセルのフィーリングはどちらも自然で、少しのアクセル開度で急発進してしまうようなこともなく、アクセル開度と実際の加速感に違和感はなかった。スズキの今後の軽には中心となるエンジンである。
ミッションはジャトコ製のCVTで、滑らかに加速をする。さすがにNAモデルではアクセルを踏みすぎてしまうこともあり、やや、エンジン音がうるさくなってしまうことがあるが、これからクルマを購入しようという若年層から指摘されるようなことでもない。ターボモデルは力感もあり、すぐに80km/h程度まで車速があがるので、CVTとの連携がうまく取れていると感じた。エンジン音ばかり大きくなって、加速感が伴わないというCVTのネガな部分はまったく気にならない。このCVTの制御では、より低燃費となるようにするため、副変速機により変速比幅を広げ、同じ車速でもエンジン回転が低回転となるようにしているのが特徴だ。
このような乗り味に好印象な新型MRワゴンのスタイリングだが、こちらも斬新であり開発陣の狙ったインパクトは十分にあるように感じる。
全体をロングルーフデザインとしたため、キャビンが大きくすることができ、かつ、Aピラーを立たせることでボクシーなスタイルとなった。燃費にも影響する空力性能が気になるところだが、先代モデルと同等の数値というから、相当頑張ったことが想像される。
そして、インテリアだが、クルマに乗り込んですぐに感じるのは広い! という印象だ。軽ってここまで広いのか? と改めて認識させられるほどの広さ感を見ることができる。そしてダッシュボードまわりでは、若年層を意識する商品作りだけあって、こまかな部分まで丁寧に作られモダンな印象となっている。もっとも目を引くのが、タッチパネル式のオーディオである。スマートフォンであっという間に市民権を得たタッチパネル操作のAV機器は、スライド操作で音量やチャンネルを変えることができる。そしてUSB接続も可能であるため、携帯音楽プレイヤーの再生も可能なオーディオとなっている。
収納スペースや小物入れの類は、非常に豊富で普通乗用車よりはるかに多くのスペースが確保されている。ちょっとした物置スペースはリヤのカーゴスペース下にあるラゲッジアンダーボックスを含めると、16箇所も収納スペースがある。日常使いにはうれしい機能だろう。
シートまわりではフロント、リヤともにフロアがフラットになっているため、足元の広さが際立つ。キャビンが広く感じる要因のひとつだろうが、実際の使い勝手でもフラットであるほうが、乗降性や左右への移動も楽にできるので歓迎される。
リヤシートはもちろんアレンジが可能で、グレードによって多少倒れ方が違うがトランクスルーや左右独立などは可能。助手席の前倒し機構も使うと長尺物の収納も可能になる。そしてリヤシートはX、Tグレードはスライド、リクライニングも可能なものになっている。
フルモデルチェンジしたMRワゴンは、まさに常識にとらわれない工夫が随所にみられ、若年層の指示を得る可能性が高いと思う。そしてターゲットが、クルマに興味のない世代を相手にチャレンジしていることにも大きな意義を感じるクルマだった。
文:編集部 髙橋 明
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