STIがチューニングした「XVハイブリッド tS」は2016年7月末から受注を開始し、10月25日に正式発売された。車名に「tS」が付いていることから分かるようにXVハイブリッドをベースにSTIがエクステリア、インテリア、シャシーなどをチューニングした特別仕様車だ。このXVハイブリッド tSを試乗する機会が巡ってきた。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
STIの「tS」モデルは、これまでに歴代レガシィ、フォレスター、エクシーガ、WRX STI、BRZなどに設定されてきたが、XVとしては初めてで、しかもハイブリッド・モデルをベース車に選んでいるという、ちょっと変り種の存在だ。
あえてハイブリッド・モデルを選び、「Enjoy Driving Hybrid」をコンセプトとし、「誰がどこで乗っても気持ちがよく、運転が上手くなるクルマ」を目指したという。つまりこれまでのSTIのコンプリートカーの持つスポーツ・パフォーマンスを強調したモデルという固定イメージから少し外れた存在を狙った、新しい発想のコンプリートカーだ。
現在のSTIは、よりグローバルな市場を意識し、マニアック・ユーザーを対象としたハイパフォーマンス・コンプリートカー造りだけではなく、もう少し幅の広いユーザー層の獲得も視野に入れているようだ。
そのため、XVハイブリッド tSはスポーツ走行指向のユーザー層だけでなく、「誰が乗っても誰がどこで乗っても気持ちがよく・・・」という狙いになっているのだ。
また、こうした新たな走りのイメージの変化だけではなく、エクステリア、インテリアも従来のtSシリーズとは違うテイストでまとめられ、内外装ともにオレンジ色のアクセントカラーを採用し、カジュアルなデザイン・テイストを訴求しているのも特徴だ。
しかし、そもそもハイブリッド車を購入するようなユーザー層は、燃費・経済性が第一で、気持ちよい走りなどに興味があるのか? 常識的に考えれば、XVハイブリッド tSはユーザー層の指向の逆を行くクルマだということになる。だが、もともとスバル XVハイブリッドは燃費も走りも両立させるというコンセプトを持っており、STIの手でさらに走りの楽しさの領域を押し広げて、これまでのハイブリッド車の持つイメージを変えるという一種の実験的なモデルということもできる。
■試乗レポート
XVハイブリッド tSのボディカラーは、クリスタルブラック・シリカ、ハイパーブルー、有料色のクリスタルホワイト・パールの3色が設定されているが、試乗車はクリスタルホワイト・パールだ。
エクステリアは、フロント・リップスポイラー、サイドシル外側、ホイールにオレンジのアクセントカラーが使用され、かなりオレンジカラーが目立つ。インテリアもシート、トリム、ダイヤルスイッチ周囲にオレンジ色が配され、嫌でも目に止まる。が、その一方でSTIのこれまでのtSモデルとはまったく世界観が違うことも理解できる。
XVハイブリッドは、もともとモーターでの走行可能時間はごく短く、モーターがエンジンをアシストするシステムだが、XVハイブリッド tSは走り出すと即座にスポーツマフラーから勇ましい排気サウンドが聞こえてくる。もちろん、アクセルの踏み込み量に応じて排気サウンドは高まっていく。
このXVハイブリッド tSは、意図的にスポーツ・サウンドチューニングされており、静かに走るハイブリッド車という固定イメージを打ち破っているのだ。エンジンやモーターのパワー、トルクに関するチューニングは行なわれていないが、サウンドチューニングでスポーツ感と、tSモデルであることを意識させる演出だ。
シャシーは、tSモデルでは定番のフレキシブル・タワーバーやフレキシブルドロースティフナー、ステアリングラック・クランプなどを装備し、前後のダンパー、コイルスプリングも専用設定されている。
ただダンパーもスプリングも、ノーマル・モデルと比べアップ率はわずかで、乗り心地もまったくスポイルされていない。ダンパー、スプリングのチューニングによってローリングやピッチングが抑えられ、コーナリングでもじわっとロールするフィーリングになっている。
またSTIパーツによるシャシー、ボディのチューニングによりステアリングを切った時の車体の応答が素直で、カーブが連続するような場面でも安心感が感じられる。
そういう意味で、XVハイブリッド tSのシャシー、ハンドリングはネガティブな部分や特別に尖らせた所がない、まさにファインチューニングということができる。そしてアクセルの踏み込みに応じて高まる排気サウンドでtSモデルに乗っているという実感を味わうこともできる。
同時にアイサイトVer2は5万4000円のオプションでアドバンスド・セーフティパッケージを追加でき、安全サポートも充実している。また標準のXVハイブリッド2.0i-Lにプラス46万円でtSならではの楽しさを手に入れることができ、コスト・バリューは悪くないし、自分だけの個性を求めるユーザー層に受けるモデルだと感じられた。