2019年11月中旬、富士スピードウェイでニュルマシンが走行した。スバルWRX STIのニュルブルクリンク24時間レース2020挑戦車両だ。チームを率いる辰己英治総監督、沢田監督、ドライバーの井口卓人、山内英輝の両選手が揃い、いよいよテストが始まった。
完勝の2019ニュル24時間
ご存知のようにスバルWRX STIはニュルブルクリンク24時間レースでクラス優勝、連覇を達成し、完勝だった。2020年に向けてはまだ、スバルからレース活動計画は発表されていない。だが、マシン造りはスタートしている。あれほどまでに完璧なレース展開で勝利を収めたスバルWRX STIマシンだが、2020年はどんなマシンにするのだろうか。何のテストから始まったのだろうか、早速お伝えしよう。
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辰己総監督によると、レースの結果だけを見れば完勝だが、マシンを見れば、まだまだ改善点はある、より速く、より遠くへいくためにはいくつもの改良は必要だというのだ。
タイヤの使い方とジオメトリーの変更
2019年の決勝レースでのタイヤは、タイヤの使い方で1本の内側の負担が大きく、その負荷を減らす必要があることがわかっているという。これは2018年と比較して走行後のタイヤ温度で10度ほど下げることはできているというが、内側と外側での温度差をさらに小さくしたほうがいいのだと。かつて、その問題からタイヤがブローすることもあったというので、改良はさらに進める必要があるわけだ。
そのため、主にジオメトリーの変更によるトライをしている。まず、フロントのトレッドを19年仕様に対し6mm(片側3mm)狭くすることで、スクラブ半径をゼロ側へ移動させ、駆動力の影響を小さく、アンダーステア低減の方向へ変更している。つまり、幅広ホイールを装着しトレッドを広げていたので、スクラブ半径が増大し、ネガ要素が大きくなっていたわけだ。さらに、アッカーマンジオメトリーを強くとり、よりニュートラルステアに近づくようなジオメトリーへと変更する予定だ。
タイヤ1本の内側、外側の温度違い、摩耗レベルはそうしたジオメトリー変更でちょうどいいバランス点を探すことになる。スバルWRX STIはAWDのままレース参戦しているので「曲がるAWD」である必要がある。AWDではコーナリング時内輪が駆動して、外輪が制動する動きになりアンダーステアが出やすい。それをスクラブ半径やアッカーマン・ジオメトリーで調整しようというわけだ。
またレースカーの常識として、外輪タイヤでマシンを曲げるような造り方をしていくとロールが大きくなり、タイヤにかかる負荷がより大きくなる。しかしAWDだからなのか、そうした常識が当てはまらないことも多く、試行錯誤が繰り返されている。
つまり、センターデフの影響も考慮しつつ、リヤサスペンションのセットアップもポイントになるというのが、今回のテストでの検証でもあるわけだ。ちなみに、前後のトルク配分は現在のセットアップがいいところにいるのではないか、という判断で、ドライバーの意見でも感触はいいので現状では変更なしとしていた。
そのリヤサスペンションでは、サブフレームの取り付けで、後ろをピロボールに変更してきた。従来、前側はピロボールで、後ろはブッシュで取り付けていた。が、レースカーの常識では前後ともピロボール式ということもあり、リヤサブフレームの取り付け剛性を上げてみたわけだ。
こちらは、今回のテストではドライバー評価は不評だった。コーナーのゼブラやバンプがある場合、リヤが出てしまうというコメントだ。つまり、急激な入力をいなす箇所がなく、ダイレクトにボディに伝達してしまい、タイヤが接地できていない状況になっているようだ。もっとも、フロントのサスペンションも含めてのセットアップ変更なので、前後ピロはNGという結論には至っていない。現状はNGだが、他との組み合わせ次第では再び前後ピロになる可能性も残っているはずだ。
さらに言えば、リヤサブフレームはニュル車用ではなく、ラリー用に製造されたものの流用であるため、専用のサブフレームへの交換という可能性も残されている。
一方で、マシンのフロントロールセンターは地面近くにあるため、そこも改善の余地があるとしている。2019年のレースで、マシンのスピードアップに伴い、ドライバーからロールの大きさに若干の違和感を指摘されていた。
そこでアップライトを改良し20mm程度は持ち上げることができるセットが、次のテストでは持ち込める予定ということだ。サスペンションアームの取り付け位置などが変更されるようで、ジオメトリーを始め調整範囲を広げる意味でも改善ポイントとしていた。
スバルWRX STIはAWDのレースカーだからなのか、これまでの常識に囚われない挑戦で勝利を勝ち取っており、「曲がるAWD」はこうして作られているわけだ。