スバル STIの先端技術 決定版 Vol.23
SUBARU BRZ GT300の2018年シーズンは、チームランキング11位で終了した。今季はトップスピードを求める空力ボディを開発することから始まり、代わりに失ったダウンフォースをどうやってシャシーなどでリカバリーしていくのか?という課題を抱えてスタートした。マシンはレースごとに改良がくわえられ、シーズン後半の第6戦菅生大会では優勝できた。尻上がりに調子を上げてきたところでシーズン閉幕となったが、来季に向けて渋谷総監督は何を感じているのか、話を聞いてきた。
その前に、渋谷真総監督とはどういう経歴なのか?スバルファンであれば、良く知られている人ではあるが、改めてお伝えしておくと、スバル入社は、操安乗り心地などに携わる車両実験部からスタートしている。実験部では、テストコースやサーキットを走り、ダイナミック性能の検証をするテストドライバーでもある。
開発車両はスバルの市販車全般であり、ステアリングやサスペンションだけでなく、空力も含めた総合運動性能評価を行なっていた。3代目レガシィやスバルSVXを任されたのが最初のモデルで、その後「気持ちいいってなんだ?気持ちいい加速とは?気持ちいい減速とは?」といった数値にできない感覚の部分を専門的に分析をする部署にも所属した。その部署はスバル研究実験センター、通称SKCにいまでも課として存在するスバルにとって重要な部署なのだ。
その後、車両実験部主査となり、次世代車の運動性能開発として、トミー・マキネンの協力も得ながら先行開発を担当し、そこで、ニュルブルクリンクを7分55秒というタイムで走れるインプレッサを開発した。そして現在市販されるBRZの操安性能は、まさに渋谷総監督の指揮で味付けが行なわれ、現在も販売されているわけだ。そうしたスバルBRZへの関わりもあり、SUBARU BRZ GT300への思いは人一倍強い。
シリーズ優勝をするために
さて本題だが、今季のGT300を振り返ると、シリーズ優勝した65号車LEON RACING メルセデスAMGとランキング2位の55号車AUTOBACS RACING TEAM AGURIのBMW M6のGT3勢はそれぞれ1勝と2勝している。そして65号車のノーポイントレースはゼロだった。参戦したすべのレースでポイントを稼いでいる。またシーズン3位となったJAFGT300の31号車apr(プリウス)は、優勝回数はゼロ。ノーポイントは開幕戦だけ。
このデータを見てもわかるが、チームがシリーズチャンピンを争うのは全レースでポイントを稼ぐことが必要ということが見えてくる。もともとスーパーGTというレースが、連勝のできない仕組みや、ぶっちぎりの強さとならないようにマシンの性能調整をするBoP(バランス オブ パフォーマンス)が行なわれている。だから毎レースで接戦となるレースが展開されているわけだが、そこでシリーズ優勝を狙うには、ポイントの稼ぎ方が重要になるというわけだ。
SUBARU BRZ GT300の戦績を振り返ると、優勝が1回、ノーポイントのレースが3レースもある。スバルより上位のシリーズ10位までのチームのポイント獲得を見ると、ポイントゼロがない、あっても1レースまでだ。全戦でポイントをゲットすることがいかに重要かがよくわかる。このあたりから来季の作戦、戦略が見えてくるだろう。
2019の目指すものは
渋谷総監督によれば、2018年シーズンはシリーズ優勝を目指し、そのためにはなにが必要か?ということの洗い出しから改良点を出し挑戦していた。そのひとつがトップスピードの改善、ブレーキの大容量化などであった。
そして2019年シーズンもシリーズチャンピオンを目指すのは当然だが、得意なサーキット、つまり過去にポイントの取れている鈴鹿、菅生、オートポリスでは上位を目指し、1回は優勝をする。そしてファンを沸かせるようなレースをすること。裏を返せば、優勝に絡むレースをすることで、そこでは確実にポイントが獲得できる。大きく見ればシリーズ優勝が見えてくるというわけだ。
NEXT:感覚の見える化
感覚の見える化
渋谷:「2018年の取り組みは『感覚の見える化』に取り組んでいました。各サーキットごとにシミュレーションを使って解析し、どういう車両要素がタイムアップにつながるのか?を研究しました。例えば、ダウンフォースが必要なのか、空気抵抗を減らしたほうがいいのか、あるいはタイヤのグリップアップでどの程度タイムアップできるのか?など車両のパラメーターを変えながら、サーキットベストを探すようなトライです。それはデータで走行性能を作るのではなく、ドライバーが感じている気になるポイントをデータで理解するということなんです。それが感覚の見える化なのです」
また、大きく変更できる箇所はレギュレーション上あまりなく、すべて細かい修正になるが、シミュレーションにより、改良点が絞り込めたことが大きいという。シミュレーションの解析によって答えが出るが、そこからスタートし、実走してさらに絞り込んでいく、という確認ができたことが良かったという。具体的にもドライバーは数値やグラフで、自分の感じている「マシンの動き」が何か?が見えるようになったという。
渋谷:「ドライバーも感覚ではわかっているけど・・・という部分が、グラフや数値で見るのは初めてなので、おそらく彼らはそのデータを見ながらドライビングスタイルというか、攻め方を変えていたと思います」
例えばある特定のコーナーではタイヤの負荷が大きいというデータがある。そこを攻めた場合と流した場合、タイムではどれほど差が出るのか。実はタイムに影響がない、という結果がでればそのコーナーは攻めずに、タイヤ温存のイメージで走れる。逆にタイム短縮に大きな効果があれば、思いっきり攻めてもらう、といったメリハリが分かりやすくなったのだという。
こうした感じていたことを数値化したことは、渋谷総監督が経験してきた開発ドライバーとしての過去も影響しているのだろう。数値にできなかったものが技術の発達によって、数値化できるようになった。そしてそのデータをチーム内で共有化し認識のベクトルを合わせることでマシンが成長していくというのが渋谷式であり、解を求める方程式なのだ。
渋谷:「ドイラバーから『ここがちょっと違うんだよなぁ』という時、それが5%なのか10%なのかが見えやすく、かつ、タイムに影響するのかどうか?まで分かることはドライバーにもいい影響があったと思います。ですから来季は改善マストなところを絞ってマシンづくりをします。選択と集中でより精度を高めていきたいと考えています」
今季は空力性能とダウンフォースの駆け引きに翻弄された時もあった。来季はどこに集中してマシンづくりをするのだろうか?<レポート:編集部>
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*取材協力:SUBARU TECNICA INTERNATIONAL