スバル STI コンプリートカーS207即日完売?! なぜそこまで人気なのか?

スバル STI S207 詳解

スバルテクニカインターナショナル(STI)の仕上げたWRX STIのコンプリートカー「S207」が400台限定で2015年10月28日に発表され、翌日から受注を開始した。そして今回も即日完売!の大人気となっている。2012年に登場したGVB型をベースにしたS206以来、3年を経て登場したVAB型をベースにした「S207」の詳細に迫ってみた。

今回は、標準モデルとなるS207が200台、NBRチャレンジパッケージが200台、そのうち特別色のS207 NBRチャレンジパッケージ・イエローエディションが100台という限定生産で、価格は標準モデルで599.4万円(税込み)、NBRチャレンジパッケージが631.8万円(税込み)、そしてイエローエディションが637.2万円(税込み)となっている。

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S206の場合はNBRチャレンジパッケージで593.25万円で、今回は600万円の大台を超えており、STIがスバル本社に提案した段階では営業担当は価格を知って懸念を示したという。しかし、歴代のSシリーズ同様に今回のS207も即日完売となっている。

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S207 NBRチャレンジパッケージ・イエローエディション

実際はS207の発表が間近に迫った段階で、東京、大阪、名古屋などの販売店は予約受注を行なっており、発表日にいっせいに正式発注が行なわれたため、即日完売という形になっているが、見込み客分も発注されていることも想定されるので、まだ入手がまったく不可能というわけではない。

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S207 NBRチャレンジパッケージのインスツルメントパネル。ステアリングホイールはスウェード革製。

S207の開発コンセプトは、これまでのSTI製スペシャルカーと同様に、強靭でしなやかな走り、1クラス上の高品質を実現することだが、今回はレーシングカーに匹敵するようなドライバーの意のままに操ることができるハンドリングの楽しさと、上質な乗り心地の両立であり、「究極のロードゴーイングカー」を実現することとされている。

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サイドエアバッグ内蔵式のレカロ製の専用シート

狙ったのはスパルタンな高性能スポーツ・モデルではなく、スポーティで爽快な走りと高い質感や上質な乗り心地を狙い、高次元のプレミアム・スポーツセダンと位置付けているのだ。商品開発部の森宏志部長は、「ドライバーだけではなく、同乗者も楽しめるスポーツセダン」だという。

具体的には、ドライバーの意図通りに反応する、遅れのない操舵応答、卓越した直進安定性と危険回避性能、ピッチングを抑えたフラットでしなやかな乗り心地、静粛さと軽快なサウンドが生み出す上質な室内スペースなどで、小型スポーツセダンとして世界トップレベルを狙っている。

森部長は、「誰が乗っても、同乗者も含めて気持ちよく感じ、運転がうまくなったように感じること、走り、内外装、機能部品などすべてがスポーティで上質さを感じること、ドライバーの心の高ぶりと安らぎを両立させることを目指した」という。

600万円クラスの価格と開発コンセプトから、ターゲットユーザー層は、従来のスバルの高性能モデルファンに加え、輸入車のスポーツモデル指向層も想定している。開発の性能目標ターゲット車は、ヨーロッパ、アメリカで走りと快適性のバランスの高さがトップレベルと評価されているBMW M235iとなっている。

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EJ20型エンジン。ツインスクロール・ボールベアリング軸受式ターボを装備。328ps/431Nmを発生

S207は、2002年に投入されたS202以来、13年振りにエンジンにも手を加え、出力をアップしていることもアピール点だ。ノーマルモデルより出力を高めたS202、STIによりハンドメイドでエンジンパーツのバランス取りを行なったS203(2004年モデル)と同様に、S207のEJ20型エンジンは回転バランスを向上させ、さらにECUのチューニングで出力アップ。パワーは328ps/7200rpm、最大トルクは431Nmとしている。

スバル STI S207 詳解 専用チューニングECUスバル STI S207 詳解

最大トルクの発生回転数は3200-4800rpm(+400rpm)、最高パワー回転数は800rpm高められている。この性能を実現するため、ピストンやコンロッドは部品メーカーに依頼して重量公差を通常の半分にした部品の納品を依頼している。もともとスバルのエンジン部品の公差は他社より狭いレベルにあるが、それをさらに半減させているのだ。またクランクシャフトの回転バランス取り加工を行ない、これらの部品はスバルのエンジン工場で専用に組み立てられる。

スバル STI S207 詳解 専用エンジンピストンユニット
ピストン、コネクティングロッドなどはノーマルの1/2の公差に抑えられている
ボールベアリングで支持されるタービン
ボールベアリングで支持されるタービン

欲を言えば350psあたりまでアップしたいところだが、そうなるとエンジンの内部部品を新設定する必要があり、耐久試験なども一からやり直しになるため今回の出力になっているという。

エンジン制御用の専用ECUは、過給圧制御マップをチューニングして高回転側での過給圧の低下を抑制し、回転上限を高めている。さらにツインスクロール・ターボチャージャーはボールベアリング式軸受けとし回転レスポンスを高めており、排気系は排圧の抵抗を50%も低減させている。

この排気マフラーは坂本工業製で、排圧を大幅に低下させただけでなく、かつてないほどの心地よい排気サウンドを生み出すことができているのだ。また細部では吸気抵抗をベース車比約16%低減させる大径の強化シリコンゴム製インタークーラー用のインテークダクト、約30%吸気抵抗を低減させたエアクリーナーエレメントなども採用されている。また点火プラグ、エンジンオイル(5W40 )も専用の設定だ。

エンジン特性の制御では、SIドライブのIモードはスロットル低開度ではSモード特性を保ちながら、中高開度ではアクセル操作に対して緩やかにスロットルを開ける特性とし、Sモードはスロットル低開度で力強いトルクが出る特性、スロットル中高開度でスムーズな回転フィールを保ちつつレスポンスを高める特性としている。そしてS#モードはスロットル中高開度でのトルクをSモードよりさらに厚くするなど、ノーマルWRX STIとは異なるチューニングが加えられているのだ。<次ページへ>

シャシーの開発は、走りの気持ちよさと乗り心地のよさを両立することがテーマとされた。ステアリングの操作は瞬時に後輪に伝えられ、吸収すべき入力はいなし、伝えてはいけない入力は遮断するといった、シャシー技術の基本要素をさらに磨き込んでいる。

スバル STI S207 詳解 フロントサスペンションスバル STI S207 詳解 リヤサスペンション

サスペンション系には従来通り、フレキシブルタワーバー、フレキシブルドロースティフナー、リヤ・フレキシブルサポートフレームなどを装着し、サブフレーム取り付け部にプリロードをかけることでリニアで遅れのない応答性を確保。

ダンパーはビルシュタイン製を採用し、横曲げ力のかかるフロントは大幅に剛性を向上できる倒立式としている。今回採用されたビルシュタイン・ダンパーはコンフォートバルブを内蔵した「ダンプマチック2」だ。ダンプマチック2は、微低速域ではコンフォート・バルブがまず作動して滑らかに動き、操縦安定性に影響を及ぼす領域ではリニアでハイレスポンスの減衰特性を引き出すメイン・バルブが働くという機構を持つダンパーだ。

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ステアリングギヤは11:0という超クイックギヤ比を採用している。通常のクルマでは不安定にも繋がるギヤ比だが、車体、リヤ・サスペンションに伝達される応答を高めることで安定感のある気持ちよいフィーリングを実現。そのためリヤのサスペンションリンクはピロボール式としている。

11:0とう超クイックなギヤ比を持つステアリング・ギヤボックス
11:0という超クイックなギヤ比を持つ油圧式ステアリング・ギヤボックス

また標準装備のトルクベクタリング機能は作動油圧を高め、ノーマル・モデルがフロントのみに作動するのに対し、フロント75%、リヤ25%の加圧比率とし、作動時にはノーマルWRX STIより効果を高めている。このためワインディングやサーキット走行でもドライバーの意図通りのコーナリングラインを描くことができる。またVDCのモードは、サーキット走行やスポーツ走行で使用するトラクションモードでは、リヤタイヤの滑りをある程度許容する上級者向けの設定を採用。このため筑波サーキットの第1ヘヤピンカーブなどでノーマル・モデルに比べ舵角が小さく、圧倒的に速く脱出できるという。

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結果として、微小舵角での応答性や、コーナリングの気持ちよさではターゲット車を上回り、高速スラロームテストではターゲット車を上回るのはもちろん、BMW M3に匹敵する実力を達成している。こうした走りを支えるタイヤは、高性能プレミアムカー用のダンロップSP PORT MAXX RTが専用開発され装着されている。耐摩耗性、グリップ、ロードノイズなどのバランスが優れたこのタイヤは、S207専用サイズの255/35R19 92Yとするため新たに専用金型が製作されている。実はこの金型製作に時間を要したため、S207の発売も予定より遅れたという。

ブレーキは前後ともブレンボ製のモノブロック・キャリパーを採用し、フロントは6ポット、リヤは4ポット。フロントのディスクローターは熱ひずみに強い2ピース式ドリルドディスクとしている。

スバル STI S207 詳解スバル STI S207 詳解

インテリアのスペシャル装備としてはレカロ製の本革シートを標準装備。サイドエアバッグを内蔵する他、従来タイプより大腿部のクッション厚を上げ、シートバックのえぐりを深くし、サイドサポート性を向上させている。なおNBRチャレンジパッケージ車は、センターマーク付きのウルトラスエード本革巻ステアリングホイール、ブラック塗装のBBSホイールなどが装備される。

S207は、価格に見合った装備、質感に仕上げると同時に、本格的なスポーツセダンにふさわしいドライビング・プレジャーと、ゴツゴツしないしなやかな乗り心地、快適で静粛なな室内スペースとするなど、プレミアム・スポーツモデルともいうべき高いレベルに仕上げられており、コレクターにとっては垂涎の1台となるはずである。

STI S207 主要諸元表

スバル アーカイブ
STI アーカイブ

STI 公式サイト
スバル公式サイト

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