2024年シーズンのスーパーGTが岡山国際サーキットで開幕した。開幕戦の時期の岡山は寒さや悪天候といった印象もあるが、2024年の幕開けは初夏を思わせる気温と快晴に恵まれ、延べ2万4000人のファンを集めて行なわれた。
今季のスーパーGTは新しいフォーマットでの戦いとなるため、オフシーズンから多くのテストを行ってきた。SUBARU BRZ GT300も5000kmに及ぶテスト走行を行なっており、STI小澤正弘総監督も手応えを感じていると語っていた。ドライバーの井口卓人も開幕にワクワクしており、早く走りたいと言い、山内英輝も多くの課題をみんなで解決してきたと思うので、結果を出したいと語っていた。
そしてSTIは新社長に賚 寛海(たもう ひろみ)氏を迎え、就任最初のビッグイベントに立ち会っていた。SUBARU/STIそしてR&D SPORTは今シーズンをチャンピオン奪還のシーズンに位置付け、マシン開発に取り組んでいたのだ。
キーポイント
レースフォーマットのキーポイントは3つある。ひとつはタイヤの持ち込みセット数が300kmレースでは従前の5セットから4セットに削減。予選は2名ドライバーの合算タイムで順位を決めること。そしてカーボンニュートラル燃料をガソリンに50%混合することの3つだ。これらへの具体的な対策は既報しているので、参照してほしい。
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中でもタイヤの使用本数が削減されるルール変更は各チームの悩みのタネになったに違いない。BRZ GT300へタイヤを供給するダンロップもオフシーズンから新タイヤ開発に取り組んでおり、タイヤの構造やコンパウンド、材料に至るまですべてを見直しして新しいタイヤを開発しているという。
従前の課題はロングスティントで長持ちする性能が不十分だったことだ。ピークグリップは数多くのポールポジション獲得というリザルトからも高いレベルにあることはわかるが、決勝レースで後退してしまう展開もチームは経験している。そうした課題対策に手応えを持って臨んだ開幕戦だった。
順調な滑り出し
土曜日の午前中は公式練習が95分間行なわれ、予選、決勝に向けてのセットアップを煮詰めていく。コックピットの山内はマシンのバランスチェック、ブレーキパッドのあたり付け、ニュータイヤの皮剥きなどの作業をこなしたあと、セットアップ作業に入る。
計測3〜4周の指示の中、コースインから7周目に全体トップとなる1分26秒119をマークした。滑り出しは順調だ。山内の表情も明るい。まだ、走行が始まって序盤なので、路面にはラバーが乗っておらず、この先タイムは更新されることが想像できたが、なんと95分の間、抜かれることはなく、このタイムが公式練習のベストタイムとなったのだ。
これは想像になるが、以前、CN燃料ではブローバイガス中の油分がガソリンよりも多いため、路面に乗りグリップが落ちるという現象があった。今回50%の混合ではあるが、路面にラバーが乗ってもタイムが伸びないのは、そうしたことが影響しているのではないだろうか?従って、ドライバーに伝わるグリップ感にも影響はあるわけで、確認のために井口に交代して公式練習は続いた。
公式練習を終え、上位のタイヤメーカーを見ると、トップのワン、ツーがダンロップで、続いてヨコハマ、ブリヂストン3台となっていた。
トップ通過からの難しさ
予選は2人のドライバーの合算タイムで決まる。Q1はA組14台、B組13台でアタックをし、山内はA組で走行した。コースインから4周目にアタックをし、1分25秒862でトップに立った。続くB組は#2muta Racing GR86 GTのブリヂストンユーザーがトップで1分25秒985。各組上位8台がQ2のグループ1になる。9位以下はQ2のグループ2になり、17位以下のポジション争いに変わる。
そしてQ2グループ1では井口がポールポジションを目指して走る。ただし使うタイヤ山内がQ1で使ったタイヤを使う必要がある。これが今季の新ルールだ。必然的にユーズドでのアタックとなるためラップタイムが向上することは難しい。井口は10分間の予選で3回のアタックを試みたものの、山内のタイムを伸ばすことはできず1分26秒651で予選3位が決定した。
脅威なのはブリヂストンを履く2台だ。ポールポジションは#65LEON PYRAMID AMGで、このチームはQ2で0.166秒タイムを伸ばしているのだ。前述のようにピークグリップはニュータイヤで走るQ1で使い切り、Q2ではピークの過ぎたタイヤで走行しなければならず、タイムアップは望めないという固定概念があるが、見事に概念を変えてきたのだ。ピークの範囲が広大ということなのか?
Q2でタイムアップをしたチームはトップ10を見る限り#65だけなのだが、2位を獲得した#2のタイムを見るとQ1とQ2のタイム差は0.295秒差とわずか。ここでピーク領域の広さを感じてしまう。一方、BRZ GT300は0.789秒差がある。この少しの差は、予選順位に大きな意味を持っているわけだ。
小澤総監督によると、Q1とQ2では路面の状況が変わる中でマシンのセットアップも変更する必要があり、その煮詰める部分で少しできていないところがある、と話す。井口自身も気合が入り過ぎて、行き過ぎたアタックになってしまったという反省も口にしたが、0秒以下の争いでは気持ちが結果に左右していることもあるのだと、改めてヒューマンスポーツの一面を垣間見る。
一方で同じダンロップを履く#96K-tunes RC F GT3の新田守男/高木真一のベテランチームはQ1とQ2がほぼ揃っており、わずか0.07秒差というアタックを見せている。
予選結果はポールポジションが#65LEON PYRAMID AMG蒲生 尚弥/篠原 拓朗(BS)、2位#2muta Racing GR86 GT堤 優威/平良 響(BS)、3位にBRZ BGT300(D)、4位#96K-tunes RC F GT3新田守男/高木真一(D)、5位#7Studie BMW M4荒 聖治/ニクラス・クルッテン(M)、6位グッドスマイル 初音ミク AMG谷口 信輝/片岡 龍也(Y)となった。
鬼気迫る追い上げも・・・
予選3位からのスタートは井口がステアリングを握る。タイヤは予選で使ったタイヤを使うルール。ポールの#65はQ1で5ラップ、Q2で3ラップの合計8ラップ使用済み。ここで発覚したのはQ2のアタックはインアウト含め3ラップしかしていないという事実だ。畏敬の念を持つしかない。
#2は9ラップ、#61は10ラップ、#96は9ラップ走行し、BRZ GT300はアタックを4回している。こうしたタイヤの使い方の違いが何か影響するのか?戦略的にはデリケートであり、ドライバーにもセンシティブだ。
300km/82周のレース。タイヤ交換義務やピット回数義務などはなく、どんな戦略で戦うのか。序盤、予想通り、ブリヂストン勢は速い。前の2台#65と#2について行きながら、後半勝負というBRZ GT300の作戦。一方のブリヂストンはタイヤ無交換作戦ができるのか? レース前、大方の予想では「予選を使ったタイヤでは無理でしょう」という予想屋が多い。
井口は16周目までは1、2秒離されたものの、食らいついており、後続は引き離している状況を作った。だが、17周目あたりから井口のラップタイムが落ち始める。おおむね1分28秒前半で追いかけていたのが、2ラップで0.5秒ずつ落ちていく。29秒台になり、19周目には1分30秒台にまで落ちる。前の2台は未だ28秒台で走り続けている。
タイヤの摩耗が限界に近づいている。しかし、ドライバー交代のミニマム周回数までには10ラップほど足りない。井口はタレたタイヤで粘るしかない。コーナーごとにマシンの姿勢が乱れている。マシンを降りた井口は「飛び出さないようにするのが精一杯でした」とのちにコメントする。
29ラップを終え山内に交代。この時井口は後続2台に抜かれるものの5番手でピットに戻った。山内はニュータイヤ4本に履き替え給油してピットアウト。ピットストップ中に多くのマシンに抜かれコースに戻れば19番手。ただ、このあと多くのマシンがピットに入るため、正確な順位は不明だ。
そして各車がピットを終えると12番手だ。厳しいことになっている。ピットでのタイヤ交換作業を見ると#2、#52、#31のブリヂストン勢は無交換でピットアウトしている。#65は交換作業をしているが2本だけの様子だった。この無交換作戦には多くの予想屋が驚き、尋常じゃない!と自身を宥めすかしていたに違いない。ブリヂストンの驚異的なグリップを失わない耐摩耗性が突きつけられたのだ。
山内は目の前の一台を交わすことに集中する。#88JLOC Lamborghini GT3小暮 卓史/元嶋 佑弥には手こずった。山内は「ランボはブレーキが止まる(よく効く)んですよ。僕もブレーキは得意なんですけど同じように(コーナーに)入るから抜くまでに行かなかったです」と話すが、2度並走状況に持ち込み、綺麗に交わして次のターゲットへ突き進んだ。
そうなると、山内は10位以内のポイント獲得を目指すことになるが、各マシンはフレッシュタイヤで燃料も似たような状況だけに、追い抜くことは至難の業になる。しばらくトレイン状態を余儀なくされるが、トレインの先頭が見えた時は猛然と抜きにかかる。
鬼気迫る山内の追い上げ。テールツーノーズは隙間風すら通さぬ接近戦。マシンは揺れノーズはテールを舐める。#5マッハ号はスピンアウトした。
山内は8位に浮上。だが、ドライブスルーペナルティを課せられ、ここまでの追撃に終止符を打った。山内はチーム無線で呼び戻されペナルティを消化。ところがエンジンルームから煙が立ち昇っている。その翌周、ピットに入りレースは終了した。残り10周という場面でのサドンデスだった。
マシンは接触の影響でターボのオイルデリバリーホースが緩んだためということだった。また山内は「ブレーキが抜けたんですよね、言い訳はしたくないけど」とコメントし「大変申し訳ないことをした」と反省しきりだった。また、レースを振り返る中で山内は「バトルになっている状況でもタイヤを優しくつかわないとダメというのが分かりましたし、40ラップくらいはいいペースで走れたので、これまでよりはいいタイヤになってました」と明るい材料もあったことを語っていた。
こうして26位完走というリザルトになるが、多くの手応えを持って挑んだ開幕戦では、まだ課題が残されていることも見えたレースだったとも言える。次戦は約2週間後の富士スピードウェイ3時間レースだ。チャンピオン奪還となるのか。シーズンは始まったばかりだ。
スバル/STI Motorsport通信
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