新技術投入
ダンロップと協力して開発したニュータイヤは2018年のシーズンオフから開発が始まり、今季のシーズン初めから投入できる体制に整えていた。しかし、路面温度の適合や路面のミュー、そしてテスト走行の少なさなどから明確な答えを得ることは難しく、こうした条件は各チーム同じではあるものの、ダンロップユーザーで無交換作戦を取ることができていたチームはない。一方、ヨコハマ、ブリヂストンユーザーはすでに無交換で走り切るレースを数回こなしており、やや開発の遅れは否めなかった。
さらに、得意としたオートポリス、菅生のレースでポイントを大きく稼げず、またマシントラブルにも遭遇し、ニュータイヤと噛み合わない不運もあった。
そうした中、ようやく最終戦でその新タイヤの性能を発揮するタイミングが訪れたわけだ。タイヤのグリップを落とさず後半もタレないタイヤというのは、二律背反性能であることは容易にわかる。そこにトライしたタイヤは従来のタイヤとは違った性格になるのは当然だろう。
ドライバーの井口卓人、山内英輝両選手ともテストを繰り返してきてはいるものの、路温、ミュー、気温などの条件が本番のレースと同じというケースはゼロ。そうした環境で予選前の公式練習でセットアップを探すことになる。が、およそ5周ごとにピットインを繰り返し、ベストなマッチングを探すが決まらない。結果、ロングランテストもこなせず公式練習は終わってしまう。
ギャンブル
チームはドライバーからのコメントを拾い、アンダーステアを薄くし、フロントのグリップを上げる修正をマシンに施す。そのためにジオメトリーでは、フロントのトレール、キャンバーもつける方向にし、リヤウイングも立てて予選を迎えた。見方を変えると、タイヤ性能を引き出せないときは、マシンでの調整が可能になった。つまり、対応の幅が広がったというのが今シーズンの成長の証拠でもある。
ノックアウト方式の予選ではQ1を山内選手が走る。セットアップがマッチし全体2位のタイムを叩き出し、Q1を楽々クリアした。つづくQ2は井口選手がトライし、ポールポジションを目指すが、タイムが伸びない。逆に朝の公式練習より若干タイムを落としているのだ。
こうしたケースは山内、井口両選手の間では非常に珍しく、おそらく初めてのことではないだろうか。明確にはわからないが、井口選手には乗りにくい状況だったのではないかと想像する。本人に聞けば「マシンはいい方向にセットできたので、問題ないです。自分の乗り方が下手だった」とコメントしているが、本当だろうか。
しかし、山内選手のタイムをQ2に当てはめてみると12位相当になるので、データから推測するとQ2は各チームともソフトタイヤを選択し、タイムアップを狙ったことがわかる。BRZ GT300も当然そうした狙いはあったはずだがQ1、Q2とも同じハードタイプのタイヤを使っている。
その理由は、午前中の公式テストでマッチングを見た時、ソフトではタイムが出せるものの、タレが早く、もし決勝のスタートタイヤに指定された場合、1スティントは無理との判断があった。さらにドライバーも履きたくないという判断をしていた経緯があったため、ハードタイヤを選択してQ2に挑んでいたわけだ。
したがって、ハードタイプはあるレベルまで到達した性能を持っていることがわかるが、ソフトタイプではライバルと勝負できるまでには至っていないという判断になる。したがって、この予選15位のポジションはタイヤの差だったと言えるだろう。
高いレベルでの決勝
予選では好タイムにつなげなかった井口選手ではあるが、チームが提供した走行データを解析し乗り方の見直しと注意点を決勝レースまでの間で、洗い出している。こうした解析データの細かさ、蓄積も渋谷総監督の特徴だ。数値化された走行データを井口選手は自分の走りに重ね合わせる。すると、解決策が浮かび上がってくるのだという。
決勝は曇り空であるが、気温は17度前後、路面温度も22度前後で予選のときより若干低い温度だった。そして迎えたスタートは15位から井口選手がスタートし、順調に周回を重ねる。そして25号車をパスし、マザーシャシー、JAF勢の中でトップに立つ。前をいくマシンはすべてGT3マシンだ。
井口選手は順位を2つ上げ、山内選手に交代。そして給油のみでタイヤは無交換だった。ピットアウト直後からレーシングスピードで走行でき、すぐに順位を取り戻していく。各チームのピットインの混乱が収まり、山内選手も2つポジションを上げることに成功し、12位を走行。
前を走る88号車ランボルギーニ・ウラカン、360号車GT-Rの2台は1分54秒台までタイムを落としていた。BRZ GT300はスタート直後から1分50秒前後でレースができ、後半になっても51秒台で走行している。
今季新規開発したタイヤが性能を発揮しているシーンでもあった。だが、GT3の大排気量マシンの加速力には勝てず、コーナーで差を詰めるものの、立ち上がりで離される展開から脱却できず、そのままフィニッシュとなった。