マニアック評価vol535
2017年7月に、スバルはレヴォーグ、WRX S4のビッグマイナーチェンジを発表し、8月上旬から発売が始まった。この2車種と、6月にマイナーチェンジしたWRX STIに短時間だが試乗できたので、早速レポートしよう。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
レヴォーグは2014年6月にデビューし、WRX S4は同じく8月にデビューし、丸3年を経てともにDタイプとなった。このDタイプはレヴォーグ(VM4/G型)、WRX S4(VAG型)の最終モデルとなるはずだが、マイナーチェンジの枠を超えるほどの変更が加えられ、次期型モデルを先取りしている部分も少なくない。
主要な改良点は図のように多岐にわたっているが、メインとなるのはアイサイトの機能を大幅に拡張したアイサイト・ツーリングアシストの標準装備化だ。また、従来からオプション設定されているアドバンスド・セーフティパッケージが、今回から「アイサイトセイフティ・プラス 」に名称を変更し、それらの内容がより充実されたこと、そして走りの質感の熟成にフォーカスできる。
今回の試乗ではこうした改良点をチェックしたいところだが、車両はいずれもナンバー取得前の状態で、中速カーブの多いクローズドコースでの短時間の試乗だったので、アイサイト・ツーリングアシストの確認などはまったくできなかった。
■レヴォーグ試乗
新型レヴォーグは1.6Lターボと2.0Lターボに試乗したが、いずれも初期型に比べ、大幅に熟成が進み、レヴォーグというスポーティなステーションワゴンにふさわしい車格感や上質感を感じ取ることができた。
レヴォーグは300万円〜400万円の価格帯にあり、国産車の中では高価格のクルマだ。そしてステーションワゴンというスタイルに、アイサイト装備による安全イメージ、スポーティさや質感の高さがアピールポイントとなっている。
発売以来、安定した売れ行きを維持したが、ユーザーの約8割は1.6Lモデルを選択しているという。そんな背景もあって、今回の新型は、静粛性の大幅な向上、乗り心地など走りのレベルアップが重視されている。ただ、2016年6月に追加した1.6L 、2.0Lの「STI Sport」グレードが、4割以上を占めるというからスポーツ・イメージが好まれていることも確かだ。
まず静粛性だが、吸遮音材の追加、窓ガラスの板厚アップなど大幅に手を入れ、Dセグメントのクルマに匹敵するレベルに持ち上げている。その効果もあって、かなりのスピードで走ってもエンジン音が遠くに聞こえる感じで、室内の静かさはこのセグメントではトップレベルになった。
舗装の荒れた路面でもフロアの振動感もなく、耳に入るのは路面の継ぎ目などでタイヤが乗り越す時のポン、ポンという音だけだった。この静かなキャビンであれば長距離ドライブでも騒音による耳疲れもなく、疲れにくいといえる。
さらに乗り心地の向上も目を見張る物がある。ダンパー、スプリング、スタビライザー、さらにはストロークの増大など細かく手を入れているが、走ったフィーリングは路面との当たりがしなやかで、横Gがかかったような状態でしっかり踏ん張るという、しっとりとした上質感のある乗り心地に変わっている。初期モデルは路面とタイヤの当たりにソリッド感をがあり、ある意味でスポーティでかなり車速を上げないとしっとり感は薄かったが、新型は走り出してすぐに、乗り心地の良さを感じることができるようになっている。
もうひとつ走りの質感を高めてるのはステアリング・フィールの改良だろう。レヴォーグはシングルピニオン・アシスト式だが、今回は構造やパワーアシスト制御を見直し、これまでより滑らかで、セルフアライニング、つまりハンドルの戻りをやや強め、低速での扱いやすさと、走行中の適度な操舵力、保舵力を両立させている。
そのため、走行中でも自然な、気持ち良い操舵フィーリングになっているので、これも長距離ドライブでの疲労感の低減につながると思う。
また今回から、1.6LモデルにもリニアトロニックCVTにステップ変速制御を採用し、加速時の小気味よさも加わっている。動力性能は、1.6L、2.0Lモデルともにカテゴリーでトップレベルで、これは従来モデルから満足すべき点だった。
今回から採用された、標準装備の後退時自動ブレーキ(RAB)も体験した。従来はバック時の速度リミッター設定と、最終的にはアイドリング状態に近い状態で障害物に接触するというものだったが、今回からは誤操作などで障害物にぶつかる寸前で自動ブレーキがかかる制御に進化している。写真でわかるように、壁ぎりぎりで駐車するようなケースも考慮し、衝突寸前で停止するようになっている。
今回から名称を変えたオプション設定の「アイサイトセイフティ・プラス 」では、新たに採用された「フロントビューモニター」のデモも体感した。従来の左サイドビューに加え新たにフロントに広角カメラが設置された。
スイッチを押すとフロントの広角画面が現れ、見通しの効かない狭い交差点などでもクルマの頭を交差点に入れることなく左右の様子が確認できるとうのがフロントビューモニターだ。写真のように、クルマは交差点の手前の状態で、つまりドライバーとしてはまったく視認できない状態で左右の死角が確認できるのはありがたい。ただ、現時点ではフロント、リヤ、左サイドのビューがスイッチや操作に応じて見ることができるが、今後は360度のビュー画面でこうした機能を盛り込むことが必要だろう。
次の試乗チャンスがあれば、リアルワールドでも試してみたいと思う。
■WRX S4試乗
新型レヴォーグと乗り換え、次はWRX S4のステアリングを握った。このWRX S4もレヴォーグと同等のリファインを受けて、もちろんアイサイト・ツーリングアシストも標準装備になった。
FA20型直噴ターボを搭載し、300ps/400Nmという高出力を備えたスポーツ・セダンは、今では貴重な存在といえる。スポーツ・リニアトロニックCVTとの組み合わせで、動力性能は圧倒的で、スポーティなドライビング・プレジャーは十分に堪能できる。
同時に、アイサイト・ツーリングアシストを始め、レヴォーグと同様の装備も備え、市街地でゆったり走ると行ったシーンでの扱いやすさやゆとり感は格別だ。
WRX S4は足回りはレヴォーグとは違って従来通りだが、フロントが倒立式ビルシュタインダンパーで245/40R18タイヤを装着し、限界寸前までトルクベクタリングが作動しステアリングの操作に比例した。まさに意のままの走りというフィーリングだ。また新しい電動パワーステアリングの採用で操舵フィーリングがより気持ち良いフィーリングになっていることも実感できた。
クルマ全体としてはボディがしっかりしていると感じる剛性感の高さと、安心感、そしてドライビングの楽しさが盛り込まれた貴重なスポーツセダンということができる。
■WRX STI試乗
6月に改良を受けたWRX STIは、新デザインのフロントバンパーを採用し、19インチ・サイズのアルミホイールに245/35R19サイズのタイヤを装着している。ブレーキはブレンボ製のモノブロック・キャリパーになった。
さらにセンターデフは改良された電子制御マルチモードDCCDとなってる。従来のプリロードがかかるトルクカムを廃止し、電子制御多板クラッチで前後トルク配分を決定する方式で、最初期のDCCDに戻ったわけだ。
DCCD、つまりドライバーコントロール・センターデフの名称通り、ドライバーが任意でセンターデフのLSD効果を調整できるが、もちろんオートモードもある。従来型と乗り比べるとワインディングではセンターデフにプリロードがかかっていないだけに、より素直にステアリング操作通りに回頭することが実感できた。
308ps/422Nmというエンジン出力が生み出す走りは、まさにスポーツカーというレベルで、世界中のマニアの間でブランドが確立していることも納得できる。
それだけにこのスポーツカーは乗り手を選ぶ。誰でも気軽にステアリングを握ることができるクルマとは違うのだ。そういう意味ではゴルフRを超えるような存在だ。
相変わらず残念なのは、回転を上げるとEJ20型エンジンのメカ系のノイズが大きく、その割の排気音も官能的ではないところだ。
かつてはWRX STIは三菱のランサー・エボリューションと切磋琢磨してきたが、これからのライバルはカタログモデル化された新型シビック・タイプRとなる。これからはまた新しい次元の競い合いが始まろうとしている。
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