今回試乗することになったレヴォーグはプロトタイプで未登録車のため、クローズドされたコースでのテストドライブとなった。プロトタイプという意味は、量産ライン生産車ではなく、スバル式には「工試」、つまり工場ラインでの量産試作車という位置付けになる。ただし、インテリアの部分的な仕上げや、例えばアイサイトver3のソフト領域の微妙なチューニングなどを除けば、量産モデルとの違いはないという。
レヴォーグのラインアップは、1,6Lターボ、2.0Lターボというエンジンの違い以外に、GT、GTアイサイト、GT-Sアイサイトがある。1.6 GT、1.6 GTアイサイトの2グレードは17インチタイヤ、1.6-S アイサイトと2.0 GTアイサイト、2.0-Sアイサイトはいずれも18インチタイヤとなる。Sモデルはビルシュタイン倒立ダンパー、アルミ鍛造フロント・ロアアームを備えている。ただし、ぱっと見た外観上の違いはホイール以外にはない。
まずは1.6 GTアイサイトのステアリングを握る。足回りのフィーリングは、いかにもスポーツモデルという感じの硬めのセッティングと感じたが、ボディ側がしっかりしているためごつごつした感じはしない。ある意味ではスポーツモデルだという分かりやすいセッティングといえる。
エンジンはIモードとSモードを比較すると、Iモードは排気量なりのフィーリングで、吹け上がり感はやや重め。Sモードに切り替えるとトルクが力強く感じられ、加速感もいうことなしだ。体感的にはまさに2.5LのNAエンジンを上回る総力性能だと感じられた。現行のレガシィまでは特に減速時に耳に入るCVTのチェーン・ノイズが抑え込まれているのを感じた。もちろん巡航時はエンジン回転も低く、室内の静粛さは文句なし。
次にステアリングを握ったのは2.0 GT-Sアイサイトで、このクルマはビルシュタインダンパー/18インチタイヤとの組み合わせになっている。1.6 GTと乗り比べるとコーナリング時のしっかり感が一段と高く、それと同時にステアリングを切った時の微小なストローク感がクルマの動きとマッチし、気持ちよさと滑らかさが格段に高まる。これは、倒立ダンパーの横剛性の高さと、ビルシュタインならではのストロークの動きの滑らかさ、さらに操舵に比例したダンピング・レスポンスの速さと正確さだと感じた。
言い換えると18インチタイヤにもかかわらず、より乗り心地が上質、滑らかで、気持ちよい接地感が得られていると思う。もっとも、標準ダンパーも市販開始までにチューニングを手直しし、よりビルシュタインダンパーに近いリニアな減衰特性の乗り味にするそうだ。
操舵してコーナリングするという一連の動きでは、1.6 GT、2.0 GT-Sのいずれも車体の応答性やロードホールディングのよさ、リヤタイヤのグリップ感、ボディ全体のソリッドでしっかりした感じなどはプレミアムカーに匹敵するレベルにあり、日本車の中では出色の出来具合といえる。またトルクベクタリングが奏効しているのか、きついカーブでも曲がりやすさに安心感があり、誰が乗っても乗りやすいと感じる点も特筆できる。
新開発されたステアリングホイールも操作感がよく回転慣性マスも小さくて気持ちよい。しかし、細かいところではより高級なピニオンアシスト式電動パワステ・システムにもかかわらずステアリングのニュートラル部の締まり感がちょっと希薄で、ここの締まり感と切り込んだ時のステアリングのセルフアライニングトルクがもう少し感じることができればドライビングプレジャーがもっと高まると思う。特に300psというパワーユニットを持つ2.0 GTではそう感じた。
2.0 GTは、エンジンのトルクがフラットであることと吹け上がり時の振動感がなく、シャープそのもので、これはまさにスポーツカーの乗り味だ。SIドライブを切り替えてIモードにしてもSモードにしても十分すぎるほどスポーティで、S#モードにすると痛快な走りを味わうことができ、とてもCVTを組み合わせているとは感じられない。S#モードではパドルシフトでの変速もクイックで気持ちよいフィーリングだった。
ちょっと気になったのはブレーキのフィーリングで、ブレーキペダルを踏むと思ったより早く制動力が急激に立ち上がり、コントロールの幅がやや少ないと感じた。日常的な走りでは問題はないが、スポーツ走行ではもう少し踏力コントロールの幅が欲しいと思った。
レヴォーグのステアリング握って見ると、まず最初に実感できるのは斜め前方の視界のよさだ。視線とAピラーの位置、形状、さらにはドア付け式のサイドミラーなどが絶妙で、他車と比べ圧倒的に優れた視界だといえる。またインスツルメントパネルのスイッチ類の配置、操作も初めて乗っても直感的に操作できるようになっている点も評価できる。
上級クラスのワゴンとあって、レヴォーグのラゲッジスペースの仕上がり具合も気になるところだが、522Lという容量とゴルフバッグの搭載性、開口部の広さ、そしてスペース全体の質感なども文句なしで、フロアのパネルを持ち上げるとさらにラゲッジスペースがあるという仕掛けなどもよく考えられている。
アイサイトver3の進化具合も試してみた。まずは50km/hまで限界速度がアップしたプリクラッシュ自動ブレーキの効き具合だ。試してみると障害物に接近する車速は高くなっているのに、以前よりスムーズに停止するのに驚かされた。これは障害物や先行車から従来より離れた距離で認識を開始し、1次ブレーキが早めにかかり、最終的な2次ブレーキに余裕があるからだという。つまり新型ステレオカメラの性能向上が余裕を生んでいることの証だ。
次は、新たに追加されたバックでの誤発進抑制機能だ。これは2つの機能があって、ひとつは最初に速度リミッターを設定できるようになっている。10km/h、15km/h、20km/hの3種類から選択して設定できる。そしてバックギヤにもかかわらず急なアクセル操作をした場合は誤発進と判定され、スロットルは自動的に閉じられ、リミッター以下の速度に抑制されるというもの。後方検知のセンサーは使用せず、スロットル踏み込み速度のアルゴリズムで制御を行っているが、なかなかの優れものだ。
今回はすべてのの機能をテストする時間がなかったが、ステレオカメラを進化させたことでそれぞれの機能がアップグレードされているはずだ。
最も興味深いのは、新採用された部分的な自動操舵システムだ。これは65km/h以上で走行中に白線をはずれそうになると自動的に操舵されるというものだが、65km/hに達し白線を認識するのに約3秒間を要した後、白線を逸脱しそうになると静かにステアリングは自動修正される。その操舵トルクの発生は穏やかでステアリングホイールをしっかり握っているとドライバーは気付かないだろうというレベルだった。軽く手を添えている状態ではステアリングが自動操舵されるのがわかる。
一方で、手放し運転をすると約15秒ほどで自動操舵は解除されるようになっている。このあたりは、運転アシストシステムであることを深く考慮した設定になっているわけだ。もうひとつ、アクティブクルーズコントロールがオンの状態では、車線中央維持のための自動操舵機能もある。もちろんこれも操舵トルクが穏やかなため軽くステアリングを握っていないと分からないレベルだった。
現状でのドライバー支援システムを前提にした自動操舵へアプローチは各メーカーごとに行なわれているが、現状ではレヴォーグはかなり抑制的なチューニングにしていると感じた。アイサイトver3が初導入であることを考えると、車線を逸脱する前によりわかりやすく明確なステアリングトルクを発生させて警告を行ない、それに続いて自動操舵トルクの発生が望ましいと思う。なおこの現時点のチューニングは市販までに多少の見直しが行なわれる可能性もありそうだ。
新型レヴォーグは、これまでのレガシィの歴史を踏まえ、ボディサイズをリセットし、走り、乗り心地、静粛性や上質感などのレベルをより高い次元に高め、新たなレヴォーグのストーリーの序章とするという意気込みが感じられた。
この新生レヴォーグのライバルはどんなクルマかということも考えると、すぐに思い浮かぶのは最近デビューしたゴルフ・ヴァリアント、アウディA3セダンやボルボV40だ。面白いことに、これらの輸入車がいずれも、日本車ではレガシィ(現時点ではレヴォーグ)のユーザー層をターゲットにしているのだ。これをユーザー側からの視点で見れば、これまでに考えられないほど幅広い選択肢ができたわけで、ユーザーにとっては歓迎すべき状態といえよう。