スーパーGT 2023 SUBARU BRZ GT300 タラ・レバを言いたくなる6位フィニッシュ

2023年スーパーGT第4戦富士GT450kmレースが8月5日(土)6日(日)に静岡県小山町の富士スピードウェイで行なわれ、SUBARU BRZ GT300は最終ラップ、最終コーナーで追突され表彰台を逃すことになった。

第3戦までのポイントはわずか6点。シリーズランキング13位でチャンピオンを狙うには、そろそろ上位にいないと厳しいという状況。小澤正弘総監督も「ここが勝負どころのレースになると思います」と発言しているように、重要なレースだ。

決勝は荒れた空模様だったが多くのファンがレースを見守った

熟成を目指したシミュレーション

チームは金曜日にサーキット入りし、準備を進める。第3戦から約2ヶ月間隔が空き、その間公式テストもタイヤメーカーテストも行なわれず、各チームとも実走のないまま第4戦を迎えていた。

BRZ GT300はその間、さまざまなシミュレーションを行なっていた。少し課題とされていた前後バランスなど課題というほどではないが、よりいい方向に向けることはできないか?という前向きな改善策を探すシミュレーションだ。

特にこの第4戦では、レギュレーションによりエンジンフードを開口部の大きい夏仕様に変更することが可能となり、エンジン房内の空気の流れは変わる。そこから全体の空気の流れをシミュレーションし、フロントのカナード形状やボディ側面、下面の整流の見直しなどが必要になってくる。

ボンネットは夏仕様になり開口部が大きくなった

また前後バランスの課題に対しては、こうした空力対策と並行してジオメトリーの見直しも行なっている。ロールセンターの最適化、キャンバー、キャスター角の調整をし、もちろん、ダンパー、スプリグの減衰、バネレートも精緻なデータを集めていくことになる。

さらにコーナリングマシンの素質を伸ばすためにも、コーナー立ち上がり加速を良くしたい狙いもある。今季はECUを変更し、より精度の高い制御ができているため、磨きをかけていきたい領域だ。

こうしてこれまでのデータを詳細に解析し、狙った要求性能を出せるとなったデータで仕上げたBRZ GT300を金曜日富士スピードウェイに搬入したのだ。

ドライバーの山内英輝は「鈴鹿の公式練習のあと、マシンはすごく良くなったので、今回はさらによくなっていると聞いているので、楽しみです。ポイントもここで大きく取らないと厳しくなるだけなので、勝ちに行きますよ。もちろん勝つ自信もあります」と意気込みを語っていた。

土曜日公式練習

朝の公式練習は1時間35分あり、マシンのセットアップを煮詰めていく。BRZ GT300は最新のスペックに仕上げてきわけだが、実走ではどうなのか?という検証になる。

しかし、山内からはフィーリングがしっくりこないことが告げられる。フロントのダウンフォースがしっかりした分、リヤが弱くなったと感じると。タイムアタックをする前段階の走行で修正を要求することになったのだ。

ピットでは抜群のチームワークでセット変更が繰り返される

いくつかの修正ポイントをメカニックが時間内に対応し、2周したら戻るという作業が繰り返された。いつもであれば計測3〜4周してセットアップをしていくものの、それより短い時間でセット変更を繰り返していた。

結果的にフルアタックに相当する計測はできず、公式練習のタイムは全体17位という結果になった。

山内は「シミュレーションどおりに行かないものですね。コーナリングした時に姿勢が変化するので、そうした時に違いが伝わってきます。今回、タイヤも良くなったと感じているので、オールニューな感じなんですよ。なので、鈴鹿でポールを取った時のフィーリングに近づけてもらうようにお願いしました」

マシンの感触を確かめる山内英輝

ちなみに、公式練習残り20分で井口卓人に交代し、マシンの確認を行なったが、3周目にコース上で止まってしまった。ギヤがスタックして抜けなくなったという。

予選2位を獲得

マシンのセットアップはさまざまなデータの組み合わせで成り立っている。だから、ドライバーの感じたことに対し、どのデータを当てるかでセットアップが決まるのだ。そのため、公式練習での走行セットを変更し予選用に別データで臨むことになった。

Q1は井口が担当し、4周をする。しかしアタックができていない。無線からはシフトダウンしないコーナーがあって、走りにくいという。それでもアタックせざるを得ないわけで、必死にタイムを削った。井口はB組予選2番手のタイムを出し、無事Q1は突破した。

「1コーナーで6速からシフトダウンしなくて、そのまま回ったので走りづらかったです。ダウンシフトで詰められない分、フットブレーキで車両1〜2台分早めに減速しないと曲がれないので厳しかったですけど、タイムは出ていたのでよかったです」と井口はコメントしている。

「シフトダウンしない」という厳しい状況ながらもアタックする井口

続く山内はポールを狙いにいくものの、やはりマシンに課題があった様子。それでも予選2位という見事なタイムを出していた。しかし、本人もエンジニアも不満顔であり、言い換えればマシンがベストであればポールは確実に取れたという自信を全員が持っていたということだろう。

小澤総監督は「マシンをベストな状態でドライバーに渡せなかったのが悔しいです。ブレーキのタイミングで調整してもらっていたので、そこはもったいなかったと反省しています」とコメントした。

ダウンシフトについては「アンチラグとシフトチェンジのクオリティが悪かったですね。そこはきっちり修正します」というわけだ。

大荒れな決勝レース

前日とは打って変わって大雨、曇り、晴れと全部の天気が目まぐるしく変わる天候。タイヤ選択が難しく、路面コンディションも複雑になることが容易に想像できる。ピット戦略が重要なレースになることがレース前から感じられた。

応援に駆けつけたSUBARUの大崎篤新社長

スタートは井口だ。フロントローのグリッドに着いた時は晴れていた空が、急に暗くなり雨が降り出した。しかも大雨。メカニックは急遽レインタイヤに交換をすることになった。他チームも同様の対応しているため、スタートがディレイし、その後Safety Carでのスタートとなった。

スタート直前、急に大粒の雨が降り出しレインタイヤに交換するパプニングも起きた

SCでローリングを行ない3ラップ目にスタートが切られた。ところが、スタートが遅れたことやSCでの周回中に雨は小雨になり、路面はどんどんと乾きドライアップしてくのだ。そんな中オープニングラップで井口はトップに立つ。が、予選3位の11号車のGAINER TANAX GT3 GT-Rにストレートで抜かれてしまう。

その後、路面はどんどん乾き始め、井口は徐々に順位が落ちていく。9周目、チームはスリックへの交換を指示する。ここはレース勝負の最初の分岐点だ。

450kmレースでピット2回が義務。タイヤ交換をいつどのタイミングで、給油はどれくらいするのか、というピットストップの時間をどのように計算するのかがキーになる。

チームは早々のピットインというわけで、井口のスティントをロングにした。450kmは100周のレース。半分の50周で山内に交代という作戦だ。一方で33周を3回という考えでタイヤのフレッシュ時間が長ければラップタイムは速いという作戦もあるが、前者のハーフ&ハーフの作戦を取ったことになる。

オープニングラップでトップに立った井口。順位を落としたがその後も果敢に攻める

混沌とする順位争い

井口はピットインで21位まで順位を落とすものの、コース上はレインタイヤとスリックタイヤのマシンが混走するカオスな状況。路面はますます乾いていき、スリック勢が上位に上がってくる。11周目に21位の井口はなんとその翌周には11位にジャンプアップしているのだ。ピットインのマシンとごぼう抜きの走りで順位が変わる。

全車がスリックになると井口は10位付近で落ち着く。しかし244号車が炎上するトラブルが発生し、SCが入る。7周ほどSC先導で走行後、リスタートとなり、井口はひとつ順位をあげ9位になる。その後6位まで順位を戻し51周目に山内と交代した。

山内はピットアウト後16位まで下がっているが、ピットインをしていないチームもあるため、順位は混乱する。が、目の前を走るマシンを次々に抜き去る速さを見せ、10ラップする間に11位にまで順位を戻していた。

そして今度は25号車が炎上するアクシデントが起こり、SCが入る。マシンの炎上は大きく、消化活動をするためレースは赤旗中断となった。

約45分間中断したのち、再スタートとなったが、再開直後にひとつ順位をあげ10位に。この時山内はレインタイヤを装着し、雨の中9位、8位と順位を上げていく。途中、他のマシンに押し出される場面もあり、一旦11位に落ちるものの、再び挽回し8位にまで戻した。

赤旗中に雨が強まり山内はレインタイヤで再スタート

レースも後半になると雨は小雨からドライアップへと変わりつつあり、スリックへ交換する作戦もある。だがギャンブルでもある。が、チームはレインのまま、ピットに入れず最後まで走らせる選択をした。

最終ラップ・最終コーナーで

雨が残っているうちに山内はどんどん順位を上げ、81周目は8位だが、83周目には5位に浮上する。トップを走っていた4号車GOOD SMILE Hatsune mikuがスリックに交換のためピットイン。その直後4号車に変わってトップの7号車もスリックへ交換のためピットインした。だが、4号車ベテラン谷口信輝はスリックでは厳しかったのか単独スピンし順位を大きく落としてしまった。

残り10周を切ってもレインとスリックが混走するカオスな状態は続き、山内は86周目にトップに立った。91周目までトップを走り残り2周。スリックに交換していた11号車GT-Rが山内より10秒ほど速いラップタイムで追い上げてくる。その差は歴然で、追いつかれた瞬間に抜かれ、山内は2位に後退。

レインタイヤで粘った山内だったが…

ラストラップ。2位を走る山内。3位にレインタイヤの60号車。山内のレインよりはコンディションがよく2秒ほど山内より速い。そしてその後ろは7、6号車が猛烈な勢いで追い上げてくる。フレッシュなスリックタイヤを履きBMW M4 GT3はセクター3で2位争いに追いつく。

60号車がブロックしてくれれば、山内は2位だ。だが、7と6号車をブロックすることもできず2台をあっさりとかわし、山内は4位、60号車は5位となった。

そして最終コーナー立ち上がりで60号車は山内のリヤに接触。山内は使い切ったレインタイヤでは抵抗も虚しくスピンを喫した。山内はすぐに立て直し、チェッカーを目指し7位でフィニッシュできた。

その後60号車には「他車への衝突行為」と判定され40秒のペナルティとなり、山内は6位という結果になった。

あとちょっとで表彰台というシーンだっただけに悔しさが残るものの山内は「悔しいけど仕方ない」とコメントしている。また井口は「難しい天候のレースでしたけど、チームの判断は良かったと思います」と話した。

天候に翻弄されがならも井口は序盤のレース展開を作り上げた

獲得ポイントは5点を追加し11点。ランキングは一つ上がって12位と、依然として厳しい状況だ。ただトップとは29点差なので、1回の優勝で20点獲得できることを考えれば、可能性はまだあるという状況だ。

次戦は真夏の祭典「鈴鹿450kmレース」が8月最終週の26日(土)、27日(日)に三重県の鈴鹿サーキットで開催される。第3戦ではポールポジションを獲得しているだけに、期待されるレースだ。

COTY
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