2023年シーズンのスーパーGTが開幕を迎えた。昨シーズン、SUBARU BRZ GT300は最終戦までシリーズチャンピオンを争ったが惜しくも2位だった。今シーズンはシリーズチャンピオン奪還と位置付け戦いは始まった。
今季のBRZ GT300のBoPは最低重量が、昨年までの1150kgから1200kgの枠組みに変更され、BoPは65kgと決まった。前年より+40kgが基本重量となる。エンジンは昨シーズン4%の出力ダウンの指示だったが、今季は低回転域の5500~6250rpmの範囲だけ2%アップとされたが、実質的にはパワーバンドより下の回転域だ。
また外板ボディの規則変更があり、フロントカウルのデザイン変更を行なっている。こちらは既報しているが、リヤフェンダー、ディフューザー、リヤウイングも変更され全体に若干ダウンフォースが上がり、ドラッグが減るという程度で大きな影響は無いとのこと。
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こうした変更に加えECUの変更やCN燃料の使用などの変更もあった。CN燃料に関しては第2戦までは従来のハイオク・ガソリンとし、第3戦の鈴鹿からの使用というのがGTAからの通達だ。この件に関し、GTAの坂東会長から説明があり、GT3勢はガレージでの対応ができないため、メーカーのカスタマーサービスでの対応をお願いしていると説明していた。またGTA GT300クラスでは、エンジンメーカーでの対応が必要としており、その結果、第2戦終了後、鈴鹿サーキットでGT300クラスのテストを行なうことも発表された。そして第3戦からはCN燃料を使用するという流れだ。
金曜日
さて、開幕戦を迎えたチームは、14日(金)に岡山国際サーキットに入り、翌日の公式予選に向けて準備を進める。天候不順が伝えられており、ウエット仕様を考慮しながらの準備を行なう。開幕戦の3週間前、富士スピードウェイで公式テストを行なったが、その時も雨だったため、ある程度のデータは取れている。が、あまりにも雨量が多く、走行できない時間帯もあり、満足できるデータとまではいかなかったはずだ。
それでも小澤正弘総監督は「条件はみんな一緒ですし、激しい雨でもちゃんと走れる姿をみなさんにお見せしたい」と自信をのぞかせていた。
また、ドライバーの井口卓人、山内英輝もともに自信を見せている。
井口は「前回のテストで豪雨の中、十分走れているのでいい方向に行くと思います」と。
山内も「前回のテストで自分のセンサーに磨きがかかって、雨量や路面コンディション、タイヤ選択を見極めてひとつひとつをジャッジしていきたい」とコメントしていた。皮肉にも、そのジャッジ・ミスが今回のカオスな結果となってしまうのだが・・・。
土曜日
全国的に初夏を思わせるような天気だったのが、この週末は急激に冷え込んだ。気温、路面温度ともに14度。とくに路面温度が低く小雨も降っている。朝の公式練習は山内がいつものようにセットアップを始める。
序盤こそ小雨だったものの次第に雨脚は強まり、コースには川が出現し始める。するとGT500クラスのマシンがコースアウトし、クラッシュ。赤旗中断となった。その後、ますます雨は強まり、1時間45分の公式練習は20分を残しながら、コースコンディション不良を理由に終了してしまった。
BRZ GT300はわずか18ラップしか走行できず、予選・決勝に向けてのセットアップが不十分だったに違いない。しかし、それは全チーム同じ条件というわけで、その中でベストを尽くすしかない。
午後から始まるQ1予選は井口がアタックをする。
じつは午前中の公式練習で井口は豪雨の中を数ラップしただけで、マシンのセット確認というレベルでしか走行していない。それでも予選ではフルアタックが必要で、さらに雨も激しいままだ。
主催者側は公式練習が途中で打ち切りになったことも考慮し、予選時間をいつもの10分間から15分間に延長している。井口はマシンの確認、コースの確認をしながら5ラップを走行。すると、無情にも再びコースコンディション不良で予選時間を残しながら終了してしまうのだ。
井口は満足なアタックをすることなく、11位というポジションでQ1予選を敗退した。
「タイヤの温まりやアタックのクリアラップなど、ポジションを探しながらタイミングを見ていたのですが、結果的に赤旗が出たのでいい流れが作れなかったです。自分の判断ミスで申し訳ないです」と肩を落とす。
小澤総監督も「セットアップが不十分な認識はあります。ピンポイントな性格のマシンだけに難しい予選になってしまいました」と言葉が少ない。
もともと小排気量エンジンのEJ20型ターボを使用しているだけに、エンジン単体でのパワー・トルクは他のエンジンに及ばない部分も多い。最大出力、最大トルクは圧倒的に不利であるため、空力やメカニカル・グリップを作ることでライバルと戦うことができている。その結果、コーナリングマシンというスタイルになり、セットアップはピンポイントで決まると速いという姿になった。
それが、こうした豪雨という悪条件下ではベストなセットを探り出すことは困難だ。そもそも車高を下げればフラットボトムだけにハイドロプレーンを引き起こし、車高を上げればコーナリング性能が劣る。わずか数ミリの違いを見つけながらのテストを行なうものの、限られた時間内では限界があったということだ。
それでもドライバーの技量、エンジニアの知見を駆使して、悪条件下での勝負の舞台には上がったというのが今回の予選だった。
決勝
決勝日の朝は晴天で青空が気持ちいい。前日までの薄暗い天気は嘘のように晴れた。しかし、マシンに目を向ければレインでのセットアップのまま。晴れのセットは一度も走行していない。ウオームアップ走行が12時から20分間ある。そこでドライ用のテストをし、決勝に向けてセットを決断することになる。
迎えた決勝は予選22位からのスタートだ。参加台数は27台なので、後方にはわずか5台だけという珍現象を見たが、タイムが拮抗するGT300クラスではいとも簡単に、最後尾になってしまうことは「普通なこと」という現実を見た。
スタート時間が近づくと、雲行きが怪しく変化している。しかし、全車ドライセッティングのスリックタイヤでスタート時間を待つ。ドライバーは井口。午後1時30分。300kmレース、82周のレースがスタートした。
すると5周目、観客席では雨具を着る人が出始める。
雨だ。
12周を終えたあたりで雨が強くなりタイヤ交換をするチームも出てきた。
井口は11位まで順位があがる。が、スリックのままだ。
15周目には夕立のような激しい雨、さらにひょうまで降ってきた。さすがにスリックでは走れず、ピットに入りレインタイヤに交換し、ドライバー交代なしに再スタートした。
24周目付近で上位はブリヂストンタイヤを履くマシンが多い。ついでヨコハマタイヤユーザーで、ともに1分40秒台のラップタイムを刻んでいる。BRZ GT300が履くダンロップユーザーは44秒台と毎周3〜4秒差をつけられる厳しい状況だ。ダンロップ勢は6台走行しているがトップは96号車の15位が最上位と苦しい。井口の順位も19位だ。
コースは雨量が激しく変化し、その雨量によってタイヤの優位、不利が出る展開で順位が激しく入れ替わる。どのタイミングでスリックにするのか、各チーム悩ましい中、井口は33周を走り切り山内に交代する。
チームはこのタイミングでスリックを履かせ、山内に託した。
路面は徐々に乾き始めるとレインタイヤを履くマシンを次々に抜いていく。23位でコースに戻った山内はわずか8ラップで6台を追い抜き16位にジャンプアップ。
路面は乾いた場所と濡れたままのところが混じっているが、スリックタイヤを履く山内はフルアタックを続ける。ラップタイムは全体3位のスピードを見せている。
マシンとドライバーが一体となった塊が神風の如くサーキットを駆け抜けていく。
43周目、30号車のベテラン織戸学とのブレーキング競争。
「ブレーキで根負けしない気持ちでいったのがミスでした。状況判断を誤ってしまいました」とレース後に山内は語る。
並走してブレーキングしている最中、BRZ GT300の左側のタイヤがウエット路面に乗った。その瞬間スピンを喫し、コースアウト。グラベルを横切り、なんとかスポンジバリアにはヒットせずマシンは止まった。が、順位争いからは脱落した瞬間でもあった。
レース後、井口は「予選でいい流れを作れなかったから、こうしたことに繋がるんだと思います。今回の結果は僕のミスが原因です」と話す。
小澤総監督は「まだ濡れているとこが多い場面でスリックの選択はリスクがありました。そのリスクを抱えて攻めたわけですから、難しかったです。でも山内の気迫溢れる追い上げはすごくよかったです」
見るものの魂を震わせる山内の超攻撃的な走りはスピンアウトという結果で終了した。
その後マシンは回収され安全確認後、コースに復帰。しかしながら豪雨と霧というコンディションは続き、クラッシュ、コースアウトするマシンも続出しレースはカオスな状況になる。
結局、59周を終えた段階で視界不良ということで赤旗中断からのレース終了となった。BRZ GT300は51周し、22位でフィニッシュ。奇しくも予選順位のままでフィニッシュしたことになった。
次戦は富士スピードウェイで450kmレースがゴールデンウイークの5月3日、4日に開催される。現在富士では4戦連続の表彰台をゲットしているので、次戦では結果にも期待がかかる。