スーパーGT2021 SUBARU BRZ GT300新チーム代表 小澤正弘総監督インタビュー

スバル/STIは2021年スーパーGTに新型マシンを投入した。市販車の新型BRZが2021年デビューすることもあり、レーシングカーも新車へと変わった。またチーム総監督は、これまでの渋谷真氏がシニアマネージャーとなり、新たに小澤正弘氏が総監督に就任。SUBARU BRZ GT300は新体制でシーズンに挑むことになった。

その小澤正弘氏とは、スバルがWRCにワークス参戦していたころのエンジン担当エンジニアで、ペター・ソルベルグや、クリス・アトキンソン、ステファン・サラザンらと世界を転戦していた経験がある。またEJ20型エンジンで参戦していたWRCでは、レギュレーションの変更で失ったパワーを取り戻すためのアイディアを、英国のプロドライブ社にぶつけ、説き伏せたことも知る人ぞ知る武勇伝だ。

スバルのWRC参戦プログラム終了後は、スーパーGTのGT300レガシィB4、2012年からのBRZにも関わり、2013年からニュルブルクリンクレースでは監督も努めている。

一時、スバル/STIを離れ、交通安全環境研究所やAVLでRDE試験法の開発を行なっていたが、2019年に渋谷真・前総監督に声を掛けられ、2020年にSTIへ復帰している。2020年はスーパーGTに帯同し、2021年からは総監督の立場でレースに参戦することになった。編集部の見立てでは、BRZ GT300が2020年パワートレーンで大きなトラブルがなくなったのは、小澤氏の参加が大きな成果のように映っている。

今季から総監督としてチームを引っ張る小澤正弘氏

新型BRZ GT300は20年仕様の正常進化

編集部:小澤総監督、早速ですが2021年の新型マシンについて教えて下さい。市販車のBRZがフルモデルチェンジをしたので、GT300マシンも空力デザインが変更されていますよね?

小澤正弘総監督(以下敬称略):GT300のレギュレーション(JAF-GT)で基本形状は量産のサーフェースを残すことになっているので、変更できる部分は限られています。拡幅した場所とレギュレーションで許可された部分を変更しますが、冷却とダウンフォースに注力したマシン設計になっていまして、20年仕様を正常進化させたのが21年仕様です。

20年仕様の正常進化版という位置付けで開発されている新型BRZ GT300

編集部:具体的に教えていただけますか。

小澤:エンジン房内の冷却と整流というのがポイントで、ラジエターやインタークーラーの冷却のためのダクトを見直し、エンジンルーム内の乱流の影響を抑えています。そして吸い出し効果を高めるような設計にしました。房内の空気がマシンの下に流れてしまうと揚力になって、最悪な状況になるので、房内の空気はなるべく上に吸い出します。そうすることでダウンフォースとして働きます。ですので、ボンネットのスリットの数とか形状が変わりました。

それと、リヤ周りも変更しています。リヤディフューザー周りの形状を変更してリヤタイヤ周りの空気の抜けを変更しています。そうすることでダウンフォースを得て、またコーナリング時のダウンフォースにも期待できると考えています。ですが、まだ最終的なデザインは決まっていません。これからCFD解析を繰り返し、そして実走行をすることでドライバーのフィーリングを聞きながら変更をしていく予定です。

ボンネットのスリットの数も増え、エンジン房内の整流がポイントだという

EJ20型エンジンに進化はあるのか

編集部:小澤総監督はエンジンが専門分野ですが、今季も流用となるEJ20型の改良はあり得るのでしょうか?歴史あるエンジンで、やり尽くしたという話も聞きますが。

小澤:まだまだできることはたくさんありますが、ここ数年はトラブルが多かったので、耐久性を重視する方向でチューニングしています。また2020年以前のBRZ GT300はトップスピードが遅く、ストレートで抜かれることもあって、だからエアロを変えたりして苦労してきましたが、2020年のレースを見ると、最高速度はGT3勢より少し遅いのは事実ですけど、ストレートで一気に抜かれるほどでもなく、拮抗した性能でどのレースも戦うことができました。

ですから、まだまだ可能性を残していますし、手を入れていけば十分戦闘力はあると思います。その理由ですが、2020年仕様のエンジンは、ターボのセットアップを変更し成果が得られました。ですので、今季もその方向で、よりいい方向にいくように変えていこうと思います。

リヤセクションのデザインも変え、パワートレーンも進化。ハンドリングマシンに磨きがかかる

編集部:ターボの変更というのは、具体的にどんなものでしょうか?

小澤:ドライバビリティを重視しています。これまで低速トルクがなくて、急に加速するという、小排気量ターボ特有の乗りにくさがありました。唐突に反応するのは乗りづらいですから微小なスロットル開度にきちんとエンジンが反応するようにしました。微小な開度に反応していればタイヤに荷重がうまく掛けられ、ドライバーはコントロールできます。そうした変更をしていました。

それを今季はもっと低速トルクの立ち上がりを良くする、ターボレスポンスを上げるといった方向でチューニングします。また、アンチラグはタービンの回転制御を正確に行って、レスポンスを上げることをしていました。今後は、タービンサイズの変更を考えています。サイズを上げてレスポンスを良くするという背反性能になりますが、そこを追求することになると思います。そうすることで、コーナー出口でアクセルを開けるタイミングが早くなり、ストレートで抜かれるということは起こりません。逆にコーナリング速度が上がり、BRZの特徴に磨きがかかると考えています。

将来技術も見据えた開発

編集部:GT500ではプレチャンバー技術(副燃焼室燃焼)が投入されていますが、そのあたりはいかがでしょうか?

小澤:レースエンジンにもトレンドというのがありますから、高速燃焼や希薄燃焼(リーンバーン)という技術は必要だと思います。特に直接シリンダーへ噴射せず、ポート噴射でも適応できるのではないかとか検討していて、将来技術として、もっと高速燃焼するエンジンにはしていきたいと考えています。

戦略の広がり

戦略的にも様々なバリエーションを持つことが期待される

編集部:次に戦略についてお伺いしたいのですが、これまではピットストップの時間が長いため、最初のスティントで逃げるだけ逃げ、ピットタイムロスを最小限にするという作戦でした。もっと言えば、それ以外作戦がとれないという状況にも見えました。今季も同様の展開を想定しているのでしょうか?

小澤:今年の目標は全戦でポイントを獲ることです。これまでは予選が速くても結果につながらないこともあり、より決勝を重視したセットアップが必要だと考えています。ライバルチームの中には予選はあまり重視していないのではないかと思えるほどに予選で下位にいても、決勝では必ず上位を争っているチームがいます。

BRZでそうした戦略にするには、ロングランで速く走るセットアップを作ることだと思います。マシン作りとしては、ロングで走ったときにどういう性能で安定させるか、タイヤに優しくアベレージで速く走るといったセットアップを探すことになります。また、レースによっては予選が重要になる場合もありますが、予選のセットアップはすでにデータもありますから、今季はロングランを重視していきたいです。

タイヤ戦争という一面もあるスーパーGT。ダンロップタイヤの開発にも期待がかかる

編集部:タイヤについてはいかがでしょうか? 20年はブリヂストン勢のタイヤ無交換作戦がある中、ダンロップが苦しんだようにも見えますが。

小澤:そうは言っても夏の暑いときはダンロップが優勢だったと思いますし、逆にウオームアップではBSよりダンロップのほうが有利だと思います。ただ、最終戦の異常な低温ではBSが強かったことは感じますが、それぞれ得意、不得手があるのだと思います。ですから、ダンロップらしいところをさらに伸ばして、2本交換で戦えるようなタイヤ開発で相談をしています。

ダンロップとは走行データやタイヤデータを共有し、非常にいい関係が築けていると思います。お互い開発領域なので、公表できないものがある中でも情報共有が広い範囲でできていると思うので、期待しています。

決勝を見据えたセットアップと戦略、そしてタイヤマネージメントも重要カギになる(photo:2020年仕様)

全戦ポイント獲得が目標

編集部:2020年はシリーズチャンピオンがもう少しで手に入るシーズンだったと思いますが、今季は明確な狙いになっていそうですね。

小澤:全戦でポイントを獲得という目標が達成できれば、ある程度結果はついてくると思います。そのためにできることを全力投入しますが、そうした新しいことへのトライができるのもJAF-GTの魅力だと思います。というのは、改良の余地があるという意味で、メカニックの腕やチーム力でさらに速くすることができると思いますが、GT3だと手を入れられる範囲が限られています。ですので、できる限りの知恵と技術を投入していきたいと考えています。もっと言えば、今は、GT300の中心はFIA GT3ですが、JAF勢がもっと増えるレースになれば、レースガレージの技術力も高くなるし、ものづくり日本としてもいい方向に行くと考えています。

編集部:ありがとうございました。今季のシリーズチャンピオンに期待したいと思います。


The Mortor Weekly

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