スバルの新世代・水平対向4気筒エンジン第2報

9月26日、スバルは新世代の水平対向4気筒エンジンを公式発表した。

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↑スバルの新型ボクサーエンジンが登場。2.0Lと2.5L

これまで、2.0L〜2.5LエンジンはSOHC、DOHC、DOHCターボの仕様違いや、部品、スペックの違いはあるものの、基本仕様は1989年に発売されたレガシィ用EJ20型(第2世代エンジンと呼ぶ)である。第1世代はスバル1000以来のEA型OHV(最終的にはSOHCも追加された)、3ベアリングであり、第2世代のEJ20型からはDOHC/SOHC、5ベアリングとなった。

EA_OHV

↑第一世代スバル1000に搭載されていたEA型

もちろん現時点では、1989年のEJ20型と比べると、ほぼすべての部品が更新されている。その一方で、2000年に登場するEZ型系6気筒エンジン、2006年登場のEL15型(1.5L)、そして2008年にはEE20型ターボディーゼルなど新系列のエンジンも送り出している。

EL15 EZ30j

↑左)EL15型、右)EZ30型サーペンタイン式のベルトの取りましわしがよく分かる

これらはボア×ストローク比を変更したほか、カムシャフト駆動をチェーン式(EZ/ED型系)に、補機ベルトを*サーペンタイン・レイアウトにするなど新しい設計を取り入れている。*一本のベルトを複雑に取りまわしてベルトを掛ける方式

これらの新系列エンジンは、ロングストローク化といわれることが多いが、単にロングストロークにするというより、燃焼室のコンパクト化(ボアを縮小できる)、エンジン全長の短縮などトータルでの進化がはかられているのだ。そして、今回発表された第3世代のエンジンは、その集大成といえる。新世代エンジンのために、群馬県の大泉工場内には新たに専用の第5工場が新設され、ここで従来のEZ系6気筒エンジンなども生産されることになる。

今回発表の新世代2.0L/2.5Lエンジンは、エンジンの基本骨格であるボア×ストロークを、現行エンジンよりもロングストローク化するなど、基本諸元を全面的に刷新することで、基本性能の高効率化を追求した設計である。実用域のトルクや環境性能を向上させることが狙いといえる。

このコンセプト自体はEL15型のデビュー時点(2006年)で打ち出されており、実用回転域を重視し、最大トルクを3200rpmという低めの回転数で発生するなど革新的な存在でもある。

さて、この新世代エンジンは、ロングストローク化することで燃焼室はよりコンパクトになり、燃焼速度をアップすることができる。さらに、燃焼室の表面積(S)に対して容積(V)の比率である、SV比を小さくすることで冷却損失も低減できるという特徴をもっている。

基本諸元は、2.0Lエンジンで排気量1995cc、ボア・ストロークは84×90mm、圧縮比は10.5と発表されている。出力は148ps、最大トルクは196Nmで、出力は従来のEJ20型と同等でトルクだけが向上し、燃費は10%アップだという。

トルクがアップし、より低速型に変化していることはわかるが、パワーが向上していない点は少し気になるところだ。フリクションの低減などによりパワーはアップするのが常識なのだが・・・。なおボア×ストロークはEZ30型が89.2×80.0mm、EZ36型が92.0×91.0mm、EL15型が77.7×79.0mm、EE20型が86.0×86.0mmとなっており、ボア×ストローク比はEL15型に近いことがわかる。吸気ポートには隔壁を設け、TGV(タンブル流発生バルブ)を装備するなど低速域での吸気流速を高める工夫を加えている。

またスロットルによるポンピング損失を最小限に抑える発想で、EGR(排気ガス再循環)を大量に導入しており、ガソリンエンジンでは珍しいEGRクーラーも新装備する。EGR温度を下げることで体積効率の向上、NOx低減を狙っている。

動弁系はDOHC・16バルブで、吸排気カムシャフトにはAVCS(可変バルブタイミング機構)を採用。吸気側は進角・遅角両側の制御で吸気早開きを行い、圧縮比と膨張比の異なるミラーサイクル的な要素も採用している。

コンロッドなどの運動部品は軽量化、小型オイルポンプの採用などとあわせ、摩擦抵抗は30%も低減したという。また冷却系は、シリンダーヘッドとシリンダーブロック側の2系統に分離した2系統冷却となり、冷却損失の低減もはかられている。水平対向4気筒は、直列4気筒よりもともと冷却面では有利だがそのメリットをさらに追求したわけだ。

新エンジンはモジュール化を進めることで製造原価が20%ダウンされているといわれ、触媒の貴金属の使用量も大幅に低減されている。今回の発表ではエンジン型式名もなし、という異例の発表だが、真相はまだ日本での認証を取得していないというのが実情のようだ。

なお、『スバルの新2.5Lエンジン、フォレスター2011年モデルに搭載』で既報のように、最初は北米向けフォレスター2.5Lエンジンが初搭載となり、その後は順次搭載車種を拡大する計画になっている。噂では、北米の次は日本仕様のフォレスター2.0Lといわれており、仮に、そうであるなら2011年初春の可能性が高い。また噂のトヨタFT86にもこのエンジンをベースにした、さらなる新エンジンが搭載される可能性が高い。

AutoProveのひと言

この新エンジンの特徴は、次のステップに進化させるための要素もすでに盛り込まれていることだという。つまり、これは直噴化やターボ装備を意味するのだろう。いいかえれば、今回の発表はベースのベース仕様であり、より大幅な高出力化、燃費低減などを盛り込んだ本命エンジンは、まだこれからの展開であるのは間違いだろう。

文:編集部 松本晴比古

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