出足好調な「サクラ」「eKクロス EV」 軽自動車BEVについて考える

日産の新型軽自動車BEV「サクラ」、三菱の新型軽自動車BEV「eKクロス EV」が2022年6月16日に正式な発売を開始すると発表した。

5月20日に三菱の水島工場で開催されたオフライン式

好調な先行受注

共同開発されたこの2車種は、5月20日の発表日から各販売店で先行受注を開始しているが、約1ヶ月弱の受注期間で、日産は1万1429台、三菱は3400台に達している。これはメーカーの予想を超えるレベルということができる。

実は、5月20日に2車種は発表されたものの、現状での半導体不足、部品不足の状況により、これまでのような生産の立ち上がりが厳しく、その結果全国の販売店への展示車、試乗車のデリバリーができていないのだ。

そのため、テレビCMを始め、プロモーションも抑制されている。こうした厳しい状況のもとで、予想を上回る受注を得ていることは、サクラ、eKクロス EVに対するユーザー層の関心が高いことが実感できる。

日産 サクラ

いうまでもなく現時点で注文予約を入れた顧客層は、実車を見たり触れたりしていないし、もちろん試乗も体験しているわけではない。これらの人々は、SNSやYoutube、WEB記事などから得た情報で購入の意思を決定したものと推測されている。

こうした背景もあり、現時点で注文した人々の多くは都市部の住人で、逆に軽自動車で本命市場とされる地方部では、販売店での実車の展示、試乗を経て成約する傾向があるため、今秋以降の販売の盛り上がりが注目される。

なお、現状では部品不足により生産の計画が不安定な状態で、実際に購入者へのデリバリーが開始されるのは早くても8月中旬以降から9月頃と予想されている。

軽自動車BEVの意味を考える

日本は、量産BEVを世界に先駆けて開発し、三菱はi-MiEVを2009年に送り出し、日産は2010年にリーフの発売を開始した。

その後にアメリカでのZEV規制の強化、ヨーロッパでのCO2排出規制の強化、中国での新エネルギー車導入計画などの社会的な背景により電気自動車の普及・拡大は世界で明確なトレンドとなったが、日本ではハイリッド車の比率がきわめて高いという特徴のために、BEVに向かうユーザー層は少数派であり続けた。

BEVを世界に先駆けて開発、生産したにもかかわらず、BEVの普及という点ではむしろ出遅れているというのは皮肉な現象だ。

三菱 eKクロス EV

また、日本は全国での充電スタンド網の拡充も他国より早く、2010年代前半に政府の助成もあって急激に増加し、現状で全国に29,000ヵ所以上が展開されており、同時に近年は都市部でも地方でもガソリンスタンドが激減しつつあり、充電スタンドはガソリンスタンド数の7割以上となっている。未だに、充電インフラが不足だという論調が見られるが、現実はそうではないのだ。

ただ、これも皮肉なことに充電スタンドがいち早く全国に展開された結果、現状では充電スタンドそのものが老朽化しつつあり、利用者数が少ないこともあって、設備更新が行なわれず、微減傾向となってきている。

なお充電スタンドはCHAdeMO急速充電と、普通充電があるが、CHAdeMO急速充電に関しては、カーディーラーの店頭が40%、高速道路のサービスエリアが6%、自治体が6%、大規模ショッピングモールが10%、道の駅が11%といった内訳で、老朽化しているのは道の駅や自治体の急速充電器と考えられる。

一方、政府や自治体の電気自動車などに対する補助金政策も継続的に行なわれている。その背景には2050年にカーボンニュートラルを目指すためには電気自動車の普及が欠かせないからだ。

今回は、日産サクラは230万円〜294万円、三菱のeKクロス EVは240万円〜293万円の価格帯となっているが、国のCEV補助金が55万円適用され、実質180万円台で購入できることがアピールポイントになっており、ガソリンエンジン搭載の軽自動車との価格差がほとんどないのだ。

さらに地方自治体が設定しているクリーンエネルギー車補助金が数万円〜60万円となっており、東京都は通常でも45万円の補助金が得られ、再エネ電気契約とセットの場合は60万円と国を上回る補助金となり、この60万円の補助金が得られればなんと120万円台でこの2車種が購入できることになる。

また自治体は、自宅充電用の設備工事費、電気自動車と家庭電源を接続するV2H機器の導入にも補助金が得られる。つまり、マンション、アパートではなく戸建てであれば、きわめて有利な条件が得られるのだ。

こうしたことから、日産サクラ、三菱のeKクロス EVは、これまでの電気自動車は高価という概念を覆す役割を担っている。

覆せるか、航続距離の課題

電気自動車否定派、懐疑派は絶えず、電気自動車は航続距離が・・・というテーマを掲げる。日産サクラ、三菱のeKクロス EVが搭載するバッテリー容量は20kWhで、1充電での走行距離は180km(WLTCモード)とされている。

エアコンを使うなど実用条件では140〜150kmの航続距離と考えられる。いうまでもなく長距離ドライブでは数回の充電を行なわなければ目的地に到達できないが、日常での通勤、買い物がメインの使い方では1日当り20〜30kmの走行であり、こうした使い方であれば週に1回程度の充電で十分使用できる。実際、日常では長距離ドライブの頻度はそれほど多くないはずだ。

また従来の内燃エンジン車は、燃料タンクがほとんど空になった状態で燃料給油を行なうが、電気自動車の場合は買い物先のショッピングモールで、通勤先で、ある程度停車している時間があれば継ぎ足しの普通充電を行ない、自宅でも駐車しているときは充電するという空き時間充電をするほうが利便性が高く、これが電気自動車の内燃エンジン車とは違う使い方となるのだ。つまり極端に急速充電に依存しないで使用することができるのだ。

さらに、今まで出かけたことのない場所の場合は、スマホや車載アプリで、近隣の充電スポットを簡単に検索することができる。

このように電気自動車ならではの使い方に慣れるのが一番といえる。

日産サクラ、三菱のeKクロス EVは、日本市場特有の軽自動車規格に適合させて登場したが、内燃エンジンの軽自動車を凌駕する点は195Nmという圧倒的なトルクの大きさだ。最高出力は軽自動車では64ps/47kWまでという制限があり、日産サクラ、三菱のeKクロス EVもこれにあわせているが、最大トルクに制限はなく、ターボ車を大幅に上回る195Nmを実現し、軽自動車の常識を破る動力性能を生み出し、同時に振動・騒音がエンジン車に比べて大幅に低減できている。

一方で、世界的に見れば、日産サクラ、三菱のeKクロス EVのようなカテゴリーはAセグメントの電気自動車で、BEVシティカーといわれる。このカテゴリーでヨーロッパで登場したフィアット 500eも、シティカーと呼ばれている。

走行距離が日本よりはるかに長いヨーロッパ市場向けにバッテリー容量は43kWhとし、航続距離は340km程度としている。しかし出力は最高出力87kW(118ps)、最大トルク220Nmで、Aセグメントの常識を打ち破る走りが実現しており、ヨーロッパでは急激に人気車種となってきている。

このようなシティカーは、通勤や買い物など日常的な使い方をメインとし、出先での継ぎ足し充電、自宅での充電などがメインで、必ずしも急速充電が必須ではないとされている。

このように考えると、日産サクラ、三菱のeKクロス EVは、日本における日常のBEVとして普及するポテンシャルはきわめて高いと考えることができる。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>

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