戦略的アライアンスが意味するものとは? 日産、三菱自の資本提携

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緊急会見に出席した日産のカルロス・ゴーンCEOとミツビシの益子修CEO

2016年5月12日の夕刻、日産はカルロス・ゴーンCEO、ミツビシは益子修CEOが出席して緊急会見が行なわれ、日産とミツビシは幅広い戦略的アライアンスに関する覚書を締結したことを発表した。

■戦略的アライアンスも同時締結
日産はミツビシの新規発行株式5億6600万株を1株当り468円52銭で取得する予定で、発行済み株式の34%を得て、取引成立後に日産はミツビシの筆頭株主となる。日産はこの株式取得のために2370億円を出資する。

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このような資本提携と同時に、両社は戦略的アライアンスを締結した。これまで軽自動車開発のために合弁会社NMKVを設立した他に、日産は自社モデルをミツビシへOEM供給するなど5年前から資本提携なしでの業務提携を行なってきた。しかし今回の戦略的アライアンスにより、業務提携は大幅に拡大される見通しだ。

両社は2016年5月末までにアライアンスの正式契約を結び、同時にミツビシの大株主である三菱グループ(三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行)と株主間契約を結び、規制当局の承認を経て、12月末までに資本提携の手続きを終える予定だ。

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カルロス・ゴーンCEO
益子修CEO
益子修CEO

カルロス・ゴーンCEOは、「本件は画期的な合意であり、日産と三菱自動車の双方にウィンウィンとなるものです。両社が集中的に協力し、相当規模のシナジー効果を生み出すことで、新たな自動車産業の勢力ができあがることになります。当社は、三菱自動車の筆頭株主として、同社のブランドと歴史を尊重し、大きな成長の可能性の実現をサポートしていきます。日産は課題に直面している三菱自動車を支援し、同社をアライアンス・ファミリーの新たな一員として歓迎したいと思います」と語った。

またミツビシの益子修CEOは「長年にわたり数々のパートナーシップで成果を生み出してきた日産自動車には、アライアンスのメリットを最大限に活かす豊かなノウハウがあります。今回の合意で、両社の将来の発展に求められる、長期的な価値を生み出すことができるでしょう。開発や共同購買など、リソースの共有を含む戦略的なパートナーシップの深化が、長期的な価値をもたらします」と語る。

このことからわかるように、ミツビシ・ブランドは存続し、販売店も現状のまま維持される。しかしその一方で、日産からミツビシへ役員を派遣し、筆頭株主としてミツビシの経営戦略に対する拒否権も持つことになる。そういう意味ではルノー/日産のミツビシに対する影響力はかなり大きく、アライアンス実施の段階での主導権はルノー/日産が握ることになることは間違いないだろう。

■戦略的業務提携の目的、可能性
従来も日産はミツビシへのOEM供給、軽自動車の共同開発(NMKV)を行なうなど提携関係にあったが、今後は購買・部品調達、車両プラットフォームの共通化、新技術の開発分担、生産拠点の共用などを、多分野にわたる協力関係を構築することになる。

もう少し幅広い視点では、ルノー/日産のアライアンスを軸に、ダイムラー、東風汽車(中国)、アフトワズ(ロシア)、そしてミツビシとアライアンス関係を組むことで、日産/ルノー/東風/アフトワズが推進する新世代プラットフォーム戦略「コモン・モジュール・ファミリー(CMF)」の適用の枠組みをミツビシにまで拡大することができ、開発コストの低減、部品調達コスト低減の効果をより大きくすることができる。

新世代プラットフォーム「CMF」
新世代プラットフォーム「CMF」

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またグローバルで見ると、アメリカ、中国市場で強みを発揮している日産、そしてヨーロッパ、南米でシェアの高いルノー、アジア/オセアニアで強いミツビシという特色があり、ミツビシが加わることで世界規模での相互補完関係が完成する。

さらにロシアでの生産は、ミツビシはノックダウン生産、ルノー/日産は現地生産を行なっており、今後は現地生産の一本化、タイで大規模な生産工場を持つ日産、ミツビシの現地協業など多くの相互メリットが想定される。

また世界で最初に電気自動車、PHEVの量産化を実現したミツビシと、電気自動車でのグローバル・リーダーシップ戦略を打ち出している日産と、さらにはルノーの電動駆動技術、バッテリー技術、制御技術など多くの分野でコラボレーションが可能で、開発、生産コストの削減効果も期待できる。これらのことから協業が進めば他の自動車メーカーに与えるインパクトは相当に大きい。

■目指すは世界No2 ?
両社の戦略的アライアンス合意の発表は、タイミング的にはミツビシの燃費不正問題の真っ只中で行なわれたため、日産のミツビシ支配、日産のミツビシの支援といったニュアンスで受け取られることが多い。確かにミツビシが新規株式を発行し、日産がミツビシに2370億円を出資する形になっており、ミツビシは資金的なメリットは得られる。

しかし益子修CEOは会見で、「4500億円のキャッシュを保有しており、燃費不正問題で直ちに資金が不足するとは思っていないし、他社に資金協力を求めるつもりはない」と語っている。さらにミツビシは4月27日の2015年度決算で、売上高は2兆2678億円(+4%)、営業利益1384億円(+2%)で、経常利益、純利益はやや低減しているものの、悪い結果ではない裏付けもある。内訳としてアウトランダー、RVRはアメリカ、ヨーロッパで販売台数を増加させている一方、ロシア、アジアの景気低迷の影響を受け販売台数減少という結果になっている。

一方、日産の2015年度決算は、売上高は12兆1895億円(+7%)、営業利益は7932億円(+35%)で、純利益は5238億円(+14%)といずれも過去最高を記録している。内容的にはアメリカ、中国での売り上げ増大がこの結果をもたらしている。

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2015年度決算報告を行なうカルロス・ゴーンCEO

今回のアライアンス合意は、ミツビシの燃費不正問題はきっかけとはなったが、遅かれ早かれミツビシの経営戦略としては、強力なアライアンスが必要であったというべきだろう。

アライアンス
ルノー/日産・アライアンスを軸としたグローバル連合グループは世界No2 を狙うパワーを獲得

その一方で、ルノー/日産側から見ると、ルノー/日産と東風汽車、ミツビシといったそれぞれが強みのある分野を持つ企業どうしがアライアンスを組むことで、2015年度の販売台数ではグローバルで960万台に達するのだ。トヨタのグローバル販売台数は1015万台、2位のフォルクスワーゲン・グループが990万台強、3位のGMが984万台だから、ルノー/日産を中心とするグローバル・アライアンス・グループは世界販売2、3位を完全に射程に収めたと言えるのだ。

これこそがカルロス・ゴーンCEOが頭に描き、ミツビシへの出資を即決した最大の理由ではないだろうか?

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