三菱と日産の共同開発という新しい試みから誕生した軽自動車、「eKワゴン/カスタム」は、その成り立ちからして一味違った軽自動車だが、実際にクルマを見るとデザインや仕上がりが軽自動車っぽくない感じがする。三菱と日産の共同開発では、日産が商品企画やデザイン要素を提案したことでそう感じるのかもしれない。
軽自動車は大都市以外では軽自動車専門の販売特約店で販売されることが多いが、日産は小型から大型車まで並ぶディーラーに軽自動車が並べられる。そういう販売形態やメインとなる女性ユーザー層にターゲットを絞り込んだ結果、生まれたのが「eK」なのだ。
エクステリアを見ると、軽自動車では初めてといえるほどの明確なサイド・プレスラインが印象的で、きちんと周辺の景色が映り込むような面構成になっている。ハイトワゴンながら低重心で安定感が感じられるサイドウインドウのデザインも秀逸だ。こうした点は腰高感が強いスーパーハイトワゴンに比べた時の優位点と言える。リヤはハッチのラウンド面とくびれを組み合わせることで、ワイドさやダイナミックさを演出するなど限られたサイズの中でデザイン的な個性が感じられる。
インテリアでは、ラウンジ風のフロントシート、オットマンを一体化したようなデザインで厚みがあるように見えるリヤシート、そしてモダンイメージでスマホ的なデザイン感覚を狙った光沢ピアノブラック調のタッチパネル式エアコンコントロール、インテリアカラー全体のモノトーンなど、大人っぽい感覚でまとめているところに洗練を感じる。
さらにサイドウィンドゥ・ガラスは99%UVカットで、女性ユーザーが最も気にするツボも抑えている。
商品ターゲットは50歳代までの幅広いユーザーを想定し、メインは30~40歳代の女性に焦点を当てていることはいうまでもないが、過剰に女性ターゲットを強調せず、都会的な洗練や上質感を訴求しているところが「eK」の特徴。これを一言で「かっこかわいい」というフレーズでまとめているわけだ。
「eK」のエンジンは、三菱「i」用のRR用エンジンをFF用に変更し大幅な改良を加えて搭載している。eKワゴン/カスタム用の自然吸気エンジンは49ps/59Nm、eKカスタムT用のターボエンジンは64ps/98Nmという出力だ。いずれも副変速機付きCVTと組み合わせられる。
49psのエンジンは吹け上がりのフィーリングは滑らかで、市街地の交通の流れに乗る分には不足のないパフォーマンスだが、2、3人の乗車や積載物が多い場合の追い越し加速などはさすがにちょっと手間取る感じ。このエンジンの場合は、発進や追い越しの時にアクセルを大きく踏み込み、目標スピードになったらアクセルを戻すといったメリハリのある操作が良いと思う。
ターボエンジンはさすがにトルクが十分あるので発進加速、追い越し加速ともに不満はなく、市街地から郊外まで意図通りの走りができる。
シフトセレクターの側面には親指で操作する「S」ボタンがあり、これを押すとエンジン回転が高めに保たれ、加速時と少し強めのエンジンブレーキが必要な場合に有効だ。
ステアリングのフィーリングは軽自動車カテゴリーの中では良好で、フリクション感も少ない。また軽めの操舵力や、取り回しのよさもクルマの性格にマッチしている。ブレーキをかけ、減速中で13km/h以下になるとエンジンはストップし、止まる寸前にブレーキを緩めるとまたエンジンがかかるが、これは使い慣れれば問題ないと思う。上級グレードの「G」にはバックミラーの左側にリヤビュー映像が表示されるバックビューモニターも装備されている。これはナビを装着した場合は映像出力をナビのディスプレイに接続することもできる。こうした装備も軽自動車にふさわしい発想で、オプション設定として採用可能グレードを広げるべきだろう。
タイヤは14インチ(ターボモデルは15インチ)で極端な低燃費タイヤを装着しておらず、指定空気圧も240kPaという標準的な設定ということもあって、乗り心地も軽自動車カテゴリーではトップレベルだと感じた。シートの座り心地もゆったり感も含めて良好といえる。
リヤシートの足元の広さ、リヤシートを折り畳んで子供用自転車を積載できるなどのパッケージングなどもハイトワゴンのツボを抑えている。
三菱eK、姉妹車の日産DAYZは軽自動車ハイトワゴンのど真ん中を狙ったクルマだが、デザイン、インテリアの質感の演出、乗り心地などで軽自動車の中で一味違う洗練性がアピールポイントといえそうだ。このクルマに望むとすればあとはESP/衝突回避ブレーキといった安全サポートシステムだろう。