マツダのロータリーEV「MX-30」に試乗してきた。ロータリーエンジン復活と車好きの間では大きな話題になっていたロータリーEV。詳細解説はすでに既報しているが、実際に走らせてみたのは今回が初めてだった。
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2023年1月9日にマツダはロータリーEVをベルギー・ブリュッセルモーターショーに向けて発表し、そして2023年12月に実車を試乗するという、1年間ロータリーEVについての話題が続いていた。それだけに、走ってみてどうなのか?は誰もが待ち遠しかった情報だと思う。
驚きの連続
そのファーストインプレションは「ウルトラスムース」だ。驚くほど良かった。ロータリーは1ローター故に、イナーシャによる振動、そしてエンジン音がどれだけ抑えられるか?という課題を個人的に想定していたが、見事にクリアし、高級車のような乗り味になっていたのだ。
開発の狙いは車名にもあるようにEVと思わせるPHEVに仕立てることだ。詳しくない人なら、電気自動車であるかのように思わせることを狙っている。一部マニアの間ではロータリーエンジンによる駆動を期待する声もあるが、マツダの中では駆動を視野に入れての開発ではないと説明している。つまり次世代駆動技術の中で、充電専用にロータリーエンジンを活用したという位置付けなのだ。
スペックを再確認するとロータリーエンジンは8C-PH型という型式で、1ローター830cc。発電専用で全速度域をモーターで走行する。モーターはMV型で125kW(170ps)/260Nmの前輪駆動。バッテリーはリチウムイオンバッテリーで総電力量は17.8kWhというスペックだ。
WLTCモード燃費は15.4km/Lで、各モードは市街地11.1km/L、郊外18.5km/L、高速道路16.4km/L。EV航続距離は107kmというデータ。そして急速充電にも対応しているため、リージョナルでのEV走行はもちろん、長距離移動でも急速充電すれば、ガソリンを使わない長距離移動も可能になる。
搭載するMX-30はCセグメントのクロスオーバーSUVで、観音開きのドアなどが特徴の技術シンボルに位置付けられ、マツダの中ではやや地味な存在。全長4395mm、全幅1795mm、全高1595mm、ホイールベース2655mmで、デザインにも機能性にもチャレンジしているモデルだ。
MX-30には既存車としてマイルドハイブリッドとEVモデルがあり、今回このラインアップにPHEVモデルが追加されたことになる。そのため、インテリアや装備類は既存車をベースにPHEV用に多少の変更を加えた程度になっている。
エンジンの存在をどう扱うか
さて、試乗では横浜の市街地と高速道路を走行したが、冒頭ウルトラスムースと感じたように、EVと比肩するレベル。PHEVの構造はシリーズ式ハイブリッドで、エンジンで充電しモーターで走行する。この方式は日産のe-POWERや、ホンダe:HEVなどでも採用している方式で、エンジンの存在を見せるのか、隠すのかで開発の方向性が見えてくる。
ただ、ライバル車はいずれも、発売当初は「エンジンで走っているように作る」ことであったが、マーケットからはEV走行しているときとの静粛性のギャップが大きく「エンジンを静かにできないか」という声が聞こえてきたという。
そのため、エンジンの存在を隠す方向にアップデートして対応しているのが現状だ。だから、いずれもEVのように感じられるものの、バッテリーが小さいためどこかでエンジンが稼働し、EVではなくエンジンを搭載していることを思い出すことになる。
そうした中、マツダも同様にエンジンを使っていることがわかる場面も盛り込んでいる。ただし、ベースはEVであると錯覚するように存在を隠す方向だ。だから発進時などで急なアクセルの踏み込みをしてもエンジンは稼働しない。この辺りがライバルとの違いだ。
低速域からのアクセル全開加速でもエンジンは稼働せず、中速域になると稼働してくる。ただし、その時点ではロードノイズなどもあり、エンジン音があまり聞こえてこないのだ。これは高速道路でも同様で、基本的にはEV走行しているが、合流などでの中間加速ではエンジンが稼働する。そのときはエンジンでの加速感として感じられる味付けになっているから驚く。
合流し流れに乗って走行し始めるとエンジンは停止し、滑るように走るわけだ。また追い越し加速などで、アクセル開度を多めに開いた時、エンジンは稼働する。だが、この時はドライバーには感じられないほど静かになのだ。
新たなカードを手にしたマツダ
つまり、徹底してエンジンの存在を隠しEVのように走らせながら、電池の影響でどうしてもエンジン音を隠せない領域があり、その場合は、エンジンで走行している演出をしたということで、その制御のうまさに舌を巻いたのだ。
だから詳しくない人にはEVだと思わせるレベルの出来栄えであり、マツダの狙い通りとも言えるのだ。さらに、その静粛性の高さ、また車両重量も影響しているのだろう、重厚感があり量産コンパクトクロスオーバーでありながら、高級車に乗っているような感覚すら覚えるというわけだ。
マツダとしてはこの技術が一つの電動化技術としてアピールしており、電動化イメージとして植え付けたい狙いだ。そして他社には真似できない制御技術、モーター技術を手の内化することで、将来へ繋げる重要な技術に位置付けている。さらに、カーボンニュートラルな世界へのポートフォリオとして、全く新しいカードを持っていることをアピールしたいというわけ。
MX-30が技術シンボルのモデルでありつつ、量産モデルでもあるわけで、最新の電動化技術を量産車に投入できたことは、この先端技術が量産できることを意味しており、ロータリーEVがどのようにモデル展開してくのか、今後も楽しみになってくるテストドライブだった。