マツダから電動化戦略をリードする新たなソリューションに位置付ける、シリーズ式ハイブリッドがデビューした。新たなソリューションはプラグインハイブリッドでMX-30に搭載される。エンジンはマツダのシンボルであるロータリーエンジンを使い、これに駆動モーターを組み合わせた「MX-30 Rotary EV」だ。
このMX-30 ロータリーEVはマツダの技術シンボルに位置付け、マルチソリューション戦略を進める上で開発されたモデルだ。ロータリーエンジンでバッテリーを充電し、全速度域をモーター走行するPHEVなのだ。
開発の主眼は電動化でも走る喜びを失わず、それでいてライフスタイルに寄り添うライフパートナーに位置付けている。EVに乗ってみたいものの躊躇しているユーザーの背中を押すことができれば嬉しいと開発主査の上藤和佳子氏は言う。
カーボンニュートラルな社会に向けて各社電動化戦略を推し進めているが、マツダの新たな技術ブランドとしてロータリーEVを開発したわけだ。主査の上藤氏は「EVの良さは全て詰まっていると考えていますし、ネガな部分を極力減らす努力をしてきました」と言う。
EVの魅力は静粛性や滑らかな走り、トルクフルなレスポンスといった走行性能に関する魅力が多いが、逆にネガな部分では航続距離や充電時間の長さといった使い勝手にネガがある。
発電機としてロータリーエンジンが復活
このMX-30 ロータリーEVは107kmの航続距離があり、普通充電(AC)と急速充電(DC)に対応している。40kWの急速充電器であれば25分で満充電でき、ACの普通充電は6.0kWまで対応している。さらにV2Lでは1500Wまで電化製品に使用するアウトレットを装備し、V2Hでは一般的な家庭の約1.2日分の電力供給が可能。さらにロータリーエンジンを使って充電しながらであれば、約9.1日分の電力供給が可能となっている。
搭載するバッテリーは17.8kWhで、ロータリーエンジンは830ccの1ローター。出力は53kW(71ps)/4500rpmで駆動モーターは125kWの出力を発生する。このロータリーエンジンと駆動モーター、そしてジェネレターを同軸上にレイアウトし、ロータリーエンジンのメリットのひとつ、コンパクトで軽量という特徴を活かしたレイアウトとしている。このユニットをフロントに搭載し、前輪駆動で走行する。
ロータリーエンジンについては別記事にて詳細をお伝えするが、2012年の量産終了から11年の時を経て復活したわけで、そのためにさまざまなことが改良され、発電機という新しいカタチで再登場した。REに想いのある人にも、REを知らない人にも注目してもらいたいモデルと言える。
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ちなみにガソリンタンクは50Lの大きさがあり、ロングドライブにも対応し、ドライブモードにもチャージモードが設定されているため、EV走行範囲を広げることもできる。使い方次第で燃費は大きく変えることができる仕組みだ。
エクステリアは既存のMX-30とドラスティックに変更せず、専用デザインのアルミホイールやエンブレムの違いなどにとどめている。そのためMX-30のラインアップにPHEVが追加されたという言い方になるわけだ。
ボディサイズは4395mm、全幅1795mm、全高1595mmでホイールベースは2655mm。車重は1780kgとICE搭載モデルより重いものの、大差のない重量にとどめている。
技術シンボルはどのように認知されるか
冒頭お伝えしたように技術シンボルに位置付けられたMX-30ロータリEVは、欧州と日本のみで販売される。北米や中国での販売は予定していないという。そして先行して発売された欧州では、新たなソリューションとしての認知があり、一般ユーザーへの浸透具合を見つめる必要がある。
というのは、欧州のプラグインハイブリッドはパラレル式が中心で、バッテリーが電欠した時はエンジンで走るというモデルしかない。マツダのロータリーEVは、電欠しないようにロータリーエンジンが稼働し、どんな条件になってもEV走行をするモデルなので、欧州で理解され、その特徴に魅力を感じるのか注目しているわけだ。
国内では日産のe-POWERが同様のシリーズ式に相当し、ご存じの人も多いと思うがPHEVではなくHEVという違いはある。したがってプラグインハイブリッドのシリーズ式は唯一のソリューションという言い方ができるわけだ。
マツダはロータリーEVのブランド化を目指し、他車種にも広げていきたいところだが、まずはこのMX-30ロータリーEVが欧州と日本でどのように認知され、歓迎されるのかを見極めてからの展開になるという。ちなみに欧州ではMX-30 RE-EVの名称になる。
アメリカであればボディサイズの大きいラージ商品群での展開が予想され、そうなるとバッテリー容量とモーターの出力も大きくする変更が必要になると思う。またマツダ2や3といったスモールハッチバックでは、バッテリー搭載位置の関係でキャビンが狭くなる可能性もあり、現実的には難しいのではないかと想像する。
つまり、CX-5、CX-30などのスモール商品群のSUVであれば比較的容易に搭載ができ、マルチソリューション戦略として少し選択肢を増やすことができるという落とし所になると予測する。
繰り返しになるが、MX-30 Roatary EV は技術シンボルであり、マツダの新しいソリューションとして提供するパワーユニットになる。MX-30というコンパクトSUVからスタートしている理由も、技術シンボルのクルマに位置付けられているからだ。だから大ヒットを目指すわけではなく、マーケットの反応を見極める第一弾と見るべきだ。
またロータリーでのダイレクト駆動を期待する声もあるが、現時点ではその可能性はまったくない。あくまでも発電機としての仕様で開発されているため、駆動エンジンとした場合、エミッションを含めカーボンニュートラルな社会へのロードマップに載せることは難しいからだ。
この先、実際の試乗ができると思うが、果たしてロータリEVの乗り心地や静粛性、燃費、電費はどの程度になっているのか、気になるところであり、さらに一般ユーザーからの受け入れはどうなるか?注目したい。なお、発売は2023年11月に登場する予定だ。
諸元
価格
423万5,000円~491万7,000円