マツダ・ヨーロッパは、2023年1月13日に発電用のロータリーエンジンを搭載したPHEV「MX-30 e-Skyactiv R-EV」を発表したが、新開発された発電用ロータリーエンジンに関する、より詳細な情報が発信された。
MX-30は、マツダの電動化戦略をリードするモデルと位置付けられ、マツダ初の量産電気自動車「MX-30 BEV」に加え、今回PHEVモデルが追加された。マツダのカーボンニュートラルに向けたマルチソリューション戦略の中の新たな車種である。
そしてロータリーエンジン車の量産中止から約10年を経て、電動化の時代に発電機としてロータリーエンジンが復活したわけだ。
またMX-30 e-Skyactiv R-EVの特長は、これまでのPHEVは電気モーターとエンジンの両方を駆動源とするパラレルハイブリッドだが、MX-30 e-Skyactiv R-EVは、常に電気モーターで駆動するシリーズハイブリッド方式を採用していることだ。また外部給電機能(V2L:最大1500W)、急速充電に対応する機能を搭載していることもユニークだ。
ロータリーエンジンは、同じ出力のレシプロエンジンに比べてコンパクトであり、ロータリーエンジンを発電機として使うことで、MX-30をベースにBEVとPHEVのラインアップが可能になっているのだ。
バッテリーをフル充電した状態での電気のみの走行距離は85kmに設定。それ以上の距離を走行する場合は、ロータリーエンジンで発電し、モーターとバッテリーに電力を供給することで長距離走行にも対応することができる。
ロータリーエンジンは、コンパクトなパッケージングであることがレシプロエンジンに対する優位性だ。新開発されたロータリーエンジンは、排気量830ccとし、最大出力は55kW(74ps)/4700rpmを発生。
この発電ロータリーエンジン、薄型発電ジェネレーター、駆動用モーターは同軸配置という優れたパッケージングになっている。
そして、このコンパクトな駆動ユニットに容量17.8kWのリチウムイオンバッテリーと50Lのガソリンタンクを組み合わせたコンポーネンツとしている。なお最高速度はBEVと同じ140km/hで、電気自動車と同じ走行性能、利便性を備えている。
MX-30 e-Skyactiv R-EVは、3つのドライブモードを搭載している。ノーマルモード、EVモード、チャージモードの3モードだ。ノーマルモードは、走行性能に優れた電気駆動を実現。バッテリーの充電量が十分であればロータリーエンジンは作動せず、電気駆動となり、バッテリー残量以上のパワーが必要な場合、例えば加速時などではバッテリー残量、アクセル開度に応じてロータリーエンジンが作動し、バッテリーに電力を供給する。
EVモードは、バッテリーに電力がある限りエンジンを作動させずに走行するモードだ。チャージモードは、夜間の住宅街を静かに走るためにEVモードにしたり、外出先でのEV走行などに備え、必要な電池量を確保するモード。
バッテリーの充電量を10%単位で設定することが可能で、充電量が設定値を下回ると発電機が作動し設定値まで充電。その充電レベルを維持する。バッテリーの充電量が設定値以上になるとバッテリーが規定値に減るまでノーマルモードと同等の動作となる。
なおMX-30 e-Skyactiv R-EVは、回生ブレーキの強さをコントロールするためにステアリングホイール・パドルを装備している。
充電は、単相・三相の普通充電(AC)に加え、急速充電(DC)に対応しており、36kW級の急速充電器を使用すれば、SoC20%から80%まで約25分で充電することが可能。三相11kWの普通充電(AC)なら、約50分で、7.2kWの単相普通充電では約1時間30分で充電できる。
新開発のシングル・ロータリーエンジン
マツダは1967年の「マツダコスモスポーツ」で世界で初めて2ローター式ロータリーエンジンを搭載した。その後、歴代のロータリーエンジン車を経てRX-8が最終モデルとなり、2012年6月にロータリーエンジンの量産を終了。それから約10年を経て発電用として復活した。
この新しいロータリーエンジン(8C型)は、駆動用から発電用へと進化させた新しいロータリーエンジンだ。RX-8に搭載された13Bレネシスエンジンが654cc×2ローターであったのに対し、MX-30 e-Skyactiv R-EVは、ロータリーエンジン発電機に830ccのシングルローター形式を採用。
ローター半径は120mmで(ローター移動のトロコイド曲線)、ローター幅76mmとコンパクトで、電動機との同軸配置が可能としている。電動機、減速機、発電機と一体化した全幅840mm以下のユニットとしてまとめられ、MX-30のフロントフレームに無理なく搭載できる。
また、エンジンの構造体であるサイドハウジング部は、レネシスエンジンで使用していた鉄からアルミにすることで、15kg以上の軽量化にも成功。そして燃費向上と排出ガス低減に大きく貢献しているが、その秘訣はロータリーエンジンの直噴化だ。
従来のロータリーエンジンはポート噴射で、混合気の多くが燃焼室の奥に溜まり、十分に燃焼されずに排出されていた。新ロータリーエンジンは、燃料を直接噴射することで、混合気を主燃焼室に分散させ、より効率的な燃焼を実現。また、直噴方式は燃料を噴射時に微粒化することで、低温時でも燃料を十分に気化させることができる。
さらに燃費向上のため、排気ガス再循環システム(EGR)を採用。低回転・低負荷での運転時にEGRシステムが稼動する。ロータリーエンジンの燃焼室はレシプロエンジンに比べ表面積が大きいため、冷却損失は大きいが、EGRにより燃焼室による冷却損失を防ぐことで燃費を向上させている。
ローターの先端の、燃焼室の気密性を確保するアペックスシールは、鋳鉄製シールの幅を2.5mmに拡大し、耐摩耗性を向上。また、ハウジング内部のトロコイド表面のメッキも強化し、耐摩耗性、摩擦抵抗を低減。サイドハウジングの表面にはアルミを使用し、さらにプラズマ溶射を施し、サイド面の耐摩耗性、摩擦抵抗の低減も図っている。
この8C型ロータリーエンジンの吸排気はともにサイドポート式を採用しており、出力は55kW(74ps)/4700rpm、最大トルク116Nm/4000rpmとなっている。なお、シリーズハイブリッド式の日産ノート e-POWERの発電用エンジンは1.2L・3気筒で58kW(79ps)であり、ほぼ同等レベルの発電エンジンといえる。
MX-30 e-Skyactiv R-EVの油冷式の駆動用モーターは最高出力125kW(170ps)/9000rpmの高出力モーターを搭載し、最大トルク260Nm/4481rpmを発生。
燃費はPHEV用のモードで計測されるが、ヨーロッパWLTPモードのハイブリッドモードでは13.2km/L、エネルギー燃費では5.7kWh/Lとなっている。
MX-30 e-Skyactiv R-EVの価格は、MX-30 BEVと同レベルと発表されており、日本でも同様であると考えられる。