マツダは2014年9月11日から新型デミオの受注を開始した。納車はガソリン車が9月下旬、ディーゼル車が10月下旬、4WDモデルは12月だという。販売店の店頭には9月中頃から展示車が到着している。メディア向けには6月下旬にプロトタイプ試乗会が行なわれたが、この時点では開発末期のプレ生産車の状態だったので、市販モデルをイメージするのはちょっと難しいレベルだった。
このほど、ようやく量産モデルが揃い、箱根で公道試乗会が行なわれた。
◆ポジショニング
新型デミオのアウトラインは、エンジンは1.3Lの自然吸気と1.5Lディーゼルターボの2種類で、それぞれに電子制御可変トルク配分式の4WDも設定されている。トランスミッションは、1.3Gは6速AT、5速MT、1.5Dは6速MT、6速ATとなる。
価格帯は1.3Gが135万円~191万円、1.5Dは178.2万円~219.24万円で、1.3Gはトヨタ・ヴィッツやホンダ・フィット、1.5Dはトヨタ・アクアやホンダ・フィット・ハイブリッドと競合する価格ゾーンに設定されている。
デミオは日本市場以外に、アジア、ヨーロッパ、北米でも販売されるが、アジア、オセアニア向けはタイ工場で、北米やヨーロッパ向けはメキシコ工場で生産され、マツダにとっては初の本格的なグローバル展開モデルという位置付けになる。
グローバルで見ると、デミオはBセグメントは激戦区の真っ只中に投入されるが、ボディサイズは全長が4060mmとわずかに4.0mを超え、全幅は1695mmと5ナンバー枠を守っている。旧型との比較では全長が106mmで、全高もわずかにサイズアップされている。またホイールベースは80mm延長され、2570mmとなっている。ホイールベースに関しては競合車と比べても最も長くなっている。
しかし、ホイールベースの延長分は室内スペースの拡大ではなく、Aピラー位置を後退させ、逆に言えばフロンとアクスルを前方に80mm延長するというパッケージを採用している。これにより、フロントノーズが長く、デミオ独自のプロポーションを生み出しているのだ。
新型デミオの開発コンセプトは「クラス概念を打ち破るコンパクト」であり、デザイン的には魂動デザインを体現し、強い存在感を示すという新ブランド&商品戦略に沿っており、その意味では同セグメントの他車と比べてもコンセプトは簡潔に絞り込んでいると言える。
それは簡単に言えば、セグメントの中での全方位のスペック競争には加わらず、デザインや走りで存在感を打ち出すという点が、マツダの新世代商品群の特徴であり、新型デミオもこの文法に従っているわけだ。
デザインで言えば、これまで以上に凝縮感のある魂動デザインで、プロポーションはロングノーズ/キャビンバックワード。このフォルムでスポーティさ、ダイナミックさを打ち出している。またフロントマスクも、ヘッドライトやグリルのデザインは押し出し感があり、リヤのCピラー下部は3次元絞りにすることで引き締まったリヤスタイルを生み出している。
Aピラー位置を後退させたことは実はデザイン面のメリットだけではなく、斜め前方の視界がキャビンフォワードしているクルマより圧倒的に優れていることがある。さらに、フロント・ストラットのキャスター角は5度に、キャスタートレールを約30mmに増大でき、室内へのホイールハウスの出っ張りを押さえることでペダル配置を最適化できるという様々なメリットももたらしている。
グレード展開はシンプルで、1.3GはC、S、S L Package、1.5DはXD、XD Touring、XG Touring L Packageで、S以上にはインフォテイメントシステムのマツダ・コネクト、L Packageグレードは部分本革シートが装備される。こうした装備は確かにクラスを超える設定だ。なおマツダ・コネクトのインストール式ナビに不満なユーザー用に販売店でのスタンドアローンのナビも設定されている。
◆インプレッション
さて、実際に走りのシーンは? 最初にステアリングを握ったのは1.3G/6速ATの組み合わせだ。エンジンは従来型の1.3Gと比べると大幅に改良され、より滑らかでトルク重視に生まれ変わっており、4000rpmあたりからのエンジンサウンドも心地よい。しかし、さすがに箱根の上り坂の続くワインディングを走るとトルク感が薄く、滑らかに吹け上がる一方で加速はちょっと苦しく、ATの変速も忙しい。逆に通常の郊外路や市街地での常用域ではエンジン音も静かで同クラスのクルマを上回るレベルだ。
トータルで見た室内の騒音レベルは国産車のライバルと比べると勝っている気がするが、最新世代のヨーロッパのBセグメントに比べると、特にエンジンを回すようなシーンではもう一踏ん張りという気がする。
ステアリングの操舵フィーリングは優れている。パワーステアリングは従来型用のユニットを流用しているのだが、制御ソフトが進化していることに加えて、キャスター角を増大したこともフィーリングの向上に結び付いているようだ。直進時のセンターの締まり、座り具合、操舵に応じた滑らかなフィーリングは、このクラスのライバルと比べても格段と言える。それでいてステアリングギヤ比が14.8と良く切れる方向にしてあり、ワインディングでの走りでも軽快感が感じられた。
乗り心地はプロトタイプの時と比べて大幅に改良されていた。ダンパーのフリクションコントロールを採り入れたりと最後の段階までチューニングをした結果だという。標準装着タイヤが燃費重視のため、路面との当たりが少し硬めで、コーナリング時のグリップ力もそれほど高くはないが、乗り心地の面ではよくまとめられている。
またブレーキをかけた時のフロントの沈み込みも穏やかであり、ピッチングが良く抑えられ、リヤシートでの走行中の乗り心地もよくまとめられている。新型デミオはスポーティなセッティングを目指しているわけではなく、あくまでも意のままの走りを求めている。長時間の運転でも疲れにくいといった基本性能の高さも求めており、そういう意味でもピッチングの少ない乗り心地は重要なポイントだ。
では注目の1.5D搭載車はどうか。さすがにアイドリング時はディーゼルらしい音が響くが、走り出してしまえばあまりディーゼルであることを意識しないで済む。エンジンは5000rpmあたりまで回るフィーリングは、これまでのスカイアクティブ・ディーゼル共通のフィーリングだ。しかしちょっと意外だったのは、静止状態からの発進時や、低速走行からの加速で、少しアクセルを踏み込んだ時のエンジンの反応が鈍いことだ。そのためさらにアクセルを踏み、回転が2000pmを超えたあたりからはディーゼル本来の強いトルクが湧き上がって来るので、市街地走行でのゴー・ストップを繰り返すような常用域ではリニアさが欠けていると感じた。
どうやらこの現象は1.5Lという排気量と可変ジオメトリーターボの組み合わせに原因があるようだ。低回転域で排ガス流量の変化に対するターボの可変翼の追従が遅れるために加速応答が鈍いという現象なのだろう。エンジンそのものは2.5L自然吸気エンジンを上回る大トルクを発生するので、低回転からの発進や再加速のトルク感と2000rpm以上の時のトルク感の落差が大きいわけだ。
FFの1.5Dエンジンには6速MTとの組み合わせも設定されているが、この仕様は6速AT用より最大トルクが30Nm低く、6速MTの変速比幅は6.6とワイドで6速ギヤ比は0.490。さらに燃料タンク容量は9.0L小さいのだ。これが意味するものは、車両重量がATモデルより約100kg軽く、JC08モード燃費は30km/Lとする燃費スペシャルモデルだということだ。ただ、エンジンのトルクがそもそも強力なので、極端な燃費スペシャルモデルといったネガティブなフィーリングとはならない。
走りのフィーリングは、1.3Gモデルとはかなり違って感じた。1.5D搭載車はエンジン重量が重いために100kg以上車両重量が重くなり、それはすべて前軸の負担となっている。また厳密には重心も少し高くなっているようだ。当然ながら、この前軸荷重に合わせてサスペンションが設定されており、ダンパーのフリクションも増大しているためか、乗り心地はガソリン車より路面との当たりがきつい硬めの印象となっている。さらにフロント荷重が大きいために、操舵に対する応答もガソリン車ほど軽快ではなく、もっと大きなサイズのクルマのようなフィーリングだ。
高速巡航をする機会が大きいユーザーは、穏やかな動きの1.5Dのハンドリングは安心感が高いと思う。だからもう少し、しなやかさやストローク感があれば文句はないのだが、たぶん今後のランニングチェンジで改良されるはずだ。