前回の記事で、マツダがなぜ今、新規内燃エンジンを開発しマーケットへ投入したのか、という戦略的意味をお伝えしたが、今回は具体的にどのようなエンジン、パワートレインを新規開発したのかをお伝えしよう。
マツダは、これまでスカイアクティブG、D、Xの開発を行なってきて、ここにプラスして直列6気筒のディーゼルと、今後追加されるガソリンエンジンを新規ラインアップした。さらにマイルドハイブリッド、プラグインハイブリッドとの組み合わせをラインアップし、トランスミッションでは既存の6速ATにプラスして8速ATを新規開発した。さらにFRのラージ用プラットフォームも新規開発し、AWD、FRもラインアップするという商品群になった。
つまりマルチソリューションの拡充を行ない、燃費や排ガス、カーボンニュートラルへの備えをしつつ、トルクやパワー、応答性の良さ、加速度Gのつながり、ダイレクト感などダイナミック性能の進化によって心の活性化を促しマツダらしさに磨きをかけているということだ。
直列6気筒ディーゼルの新燃焼方式
新規に開発されたディーゼルエンジン「e-skyactiv D」は直列6気筒で3.3Lの排気量。大排気量化することで高効率なクリーン燃焼領域を拡大することができるという。低燃費な領域と高出力を両立できるとも説明している。
そのために理想の燃焼を追求し、燃焼室形状を2段エッグ燃焼という方式を開発した。2つのたまご型の燃焼室を作り、高圧噴射を組み合わせて燃焼させるシステムだ。2つの分離された空間の中間に高圧噴射を行ない、空間制御予混合燃焼させている。つまり、プレ燃焼を発生させて高圧の燃料を再び噴射することで、一気に燃焼が促進されるプレチャンバー方式だ。
マツダではこれをDCPCI燃焼(Distribution Controlled – Partially Premixed Compression Ignition)と呼んでいる。より燃料と空気の混合を促進することで従来よりさらに希薄燃焼できるとし、大排気量化することでフレッシュエアの増大、大量EGRによって環境性能を向上させているわけだ。そのため技術的には、ディーゼル版スカイアクティブXといった位置付けになるだろう。スカイアクティブXでは大量のエアを送るためにスーパーチャージャー機構を利用しているが、排気量の拡大によりSCと同等の効果が得られるというわけだ。
この燃焼方式とすることで、軽負荷領域を含む全域で燃費の改善、NOxの低減を同時に行なっているという。熱効率は40%を超える領域が広く、実用領域での高効率化が実現できたとしている。ちなみに、この3.3Lの6気筒エンジンは現在ユーグレナ社と広島大学との共同研究で開発しているバイオディーゼル燃料にも対応しているということだ。したがって、次世代の本命エンジンとみることができる。
6気筒ディーゼルスペックチェック
この6気筒ディーゼルは車載時には48Vのマイルドハイブリッドと組み合わされている。FR用、つまり縦置き用8速ATを新規に開発し、エンジンとミッションの繋ぎ目のトルコン部分にモーターを組み込んでいる。レイアウトはエンジン→クラッチ→モーター→クラッチ→ミッションになっている。マツダはこの組み合わせによってプレミアムD、Eセグメントに匹敵する走りを実現しているという。
スペックを見てみると3.3Lで圧縮比は15.2。国内仕様の社内計測値として187kW(254ps)/3750rpm、500Nm/1500-2400-rpm。48Vマイルドハイブリッドは出力12.4kW/153Nmのモーターを搭載し、バッテリーは0.33kWhと小さい。パフォーマンスは最高速度220km/h、0-100km/h加速7.3秒。というのがプロタイプ試乗車に搭載したユニットのスペックだ。ちなみにプロトタイプはCX-60と思われる。
また、この技術フォーラムではプラグインハイブリッドモデルの説明があった。「e-skyactiv PHEV」は2.5Lの直列4気筒ガソリンエンジン(skyactiv 2.5 G)に大きなモーターとバッテリーを搭載したPHEVで、6気筒ディーゼルと合わせてのマルチソリューションに位置付けられている。
もちろんPHEVなので、リージョナルな使い方であればEV走行だけで賄える航続距離を持たせているということだ。航続距離は61~63kmのEV走行距離でバッテリー容量は17.8kWhとなっている。
気持ちいいサウンド
さて、実際に試乗することができたのでお伝えしよう。まずは6気筒ディーゼルから。8速ATとの組み合わせでテストコースを試乗。市街地を想定した低速域、ワインディングを想定した中速域、そしてアクセルを大きく踏み込んだ高速域でのフィーリングチェックだ。
低速域ではまだ制御の煮詰めが甘くアクセルを離したときのギクシャク、再加速時のクラッチのつながりなどでスムースさに欠けるところがあるが、純粋に制御プログラムの煮詰めで解決できる領域なので、特に課題はないだろう。それと極低速ではバックラッシュのような音も聞こえるがこれも容易に解決できる領域だと思う。そしてエンジン音は静かではあるが、やや音は聞こえる。NVHもまだ未完成のため、こうした部分の評価は難しい。
ワインディングやアクセルを大きく踏み込む領域でのテストではサウンドがよかった。力強く野太い音は高級車の加速音に通じるものを感じる。プレミアムモデルのディーゼル音とはちがった独特の音で独自燃焼システムによる影響と想像できる。どちらかといえば直列6気筒のシルキーシックスを目指す方向ではなくV8型のランブル音に代表される力強さ、ワイルドさをイメージさせる方向の音だと感じた。
もはやこの時点でディーゼルに要求する領域を飛び越えているかもしれないが、それほど魅力的でもある証。したがって、完成車となったときにスポーツモードを設置し、この音を強調するサウンドジェネレーターが良いのではないかと思った。
反面アイドルから1500rpm付近までのザラつきはディーゼルっぽさであり、ここを滑らかにできるとガソリン車との区別は不可能な領域になると感じた。
フル加速や中間加速ではトルクフルでプレミアムモデルに匹敵すると自負していたが、まさにプレミアムモデルのスポーティさと比肩できるパワー、トルク感だと感じた。また48Vのマイルドハイブリッドは、バッテリー状況次第では減速時や低負荷時にはエンジンが停止しモーター走行するシーンもあった。
直列4気筒2.5L+PHEV
一方、4気筒ガソリンのPHEVは、低速時の静粛性が気になる、NVHが未完成とはいえエンジン音がはっきりと聞こえてくるからだ。じつはこれスピーカーを使った音の演出ということで、狙ったものだったのだが、PHEVのためEV走行も可能でEVからエンジンに切り替わった時に、エンジンのダイナミックさを踏まえたワクドキ感を演出する狙いだという。
しかし、EV走行の静かさ、滑らかな走りを体験すると人間はエンジンで走行するシーンでも静粛性を求めるのではないだろうか。もちろん、スポーツモードにするとか、Dモードからマニュアルモードにするといった「心境の変化」とシンクロした場合は、エンジンに対する期待も膨らむ。
だが、バッテリー残量の都合でエンジンが稼働したときに、ドライバーは急にエンジンに対する期待が膨らむのだろか。そうは思わないわけで、これはPHEVではないがシリーズ式を採用するホンダのe:HEVや日産のe-POWERも当初、搭載バッテリーが小さいのでエンジンで走行しているように演出をしていた。が、販売してみると市場からの声はエンジンの音を消せないのか?という声だったのだ。まだ未完成のプロトタイプであることを踏まえ、市販されるときにはどうなっているかに注目したい。
スペックをおさらいすると、エンジンは2.5Lで圧縮比は13.0。141kW(191ps)/6000rpm、261Nm/4000rpm、モーターは129kW/270Nmでシステム総合では241kW(327ps)/6000rpm、500Nm/4000rpm。バッテリー容量は17.8kWhで355Vの電圧となっている。燃費はCX-60と仮定してWLTCモードで66.7km/Lで、ちなみにCO2排出量は33g/kmで現在の目標値の半分以下を達成している。パフォーマンスは最高速200km/h、0-100km/h加速5.8秒となっている。つづく。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>