マツダのラージ商品群のコンセプト、パワートレイン解説はお伝えしたが、ダイナミック性能も新たな挑戦をしているのでお伝えしていこう。
技術フォーラム初日の役員からのプレゼンテーションでは、「力の伝達を順番に途切れなく滑らかにすることを重視しダイナミック性能を作っている。人の操作でフロントタイヤに入力(操舵)があると、リヤタイヤに伝わり、旋回Gが発生し、キャビンに伝わっていくが、まず全体の考え方として慣性質量配分として重量物を中央に集め、慣性マスを小さくして四輪の力を遅れなく曲がる運動に変換する必要がある」
「そのための手法として下流ほど剛性を高める手法をとり、ステアリング剛性→フロントサス剛性→リヤサス剛性の順で剛性を高めている」と。そして最後にキャビンに伝わるが、その姿勢を安定させるためにいくつかの技を投入していると説明があった。
ジオメトリーの新しい考え方
サスペンション形式としてはフロントがダブルウイッシュボーン形式でリヤがフルマルチリンク形式を取っている。そしてタイヤにかかる荷重が、車両を真横から見た時に従来の設計ではフロントとリヤでは「ハの字」の方向で荷重されているという。この荷重作動軸を前後で同じ方向に揃えるという考え方を採用しているのだ。
作動軸を揃えると、従来のピッチ挙動からバウンス挙動に変わるという。連続的に荷重がかかるような場面では、従来設計ではある領域までは対応できるものの、その領域を越えると車両自体が共振して抑え込むことができなくなるという。それをバウンス挙動にすることで、ブレークスルーしたいと考えたという。
そのためにピッチングセンターを後方化する手法をとった。すると頭部ピッチ角が減ると説明された。通常のピッチングセンターは車両の中心付近からやや後方にあるが、それを車両の外、後方へピッチセンターを持っていくことで挙動を変えることができるという。
またそのジオエメトリーを取るために、フロントをWウイッシュボーン、リヤをフルマルチリンク構造で対応している。そうすることで、キャスターを立てることができ、反面セルフアライニングトルクが減り、直進性が悪くという背反が起きるが、それをリヤサスペンションでカバーしたというのだ。
キャスターを立てることでステアリングのフリクションは減り、スムースにステアできる。そして直進安定性の動きはステアリング・ギヤレシオをスローにし、フロントで操舵した時にリヤタイヤへの横力を早期化することで対応したと説明する。ちなみにステアリングギヤレシオは17:1と極めてスローだ。
パーツの剛性を下流に行くほど剛性を上げ、リヤタタイヤがブレないように軸を出すという。従来コーナーを曲がる時にコンプライアンスブッシュでトー変化をつけてタイヤの安定を出している。こうした設計がマルチリンクの定石だが、マツダはリンクでのトーコントロール機能をなくしているのだ。それによってタイヤがブレないというようにしている。
あたかもリジットアクスルのような設計なのだが、ではリヤタイヤのトー変化はどうやって作っているのか。それはリヤアクスルのマウントブッシュに大きな入力があってトーが動くようにしているという。路面の外乱が入ってきた時、タイヤはブレずに真っ直ぐに動かす。ただし大きな動きについてはマウントブッシュの動きでトーコントロールをしているというのだ。
ここでも人間中心
従来、人間が操舵したときにリヤが安定方向に動くのが主流だが、人間の視点からすると人の操作に忠実ではないと説明する。従来はEPSのアシストが強くあるので滑らかに操舵できているが、人間目線で言えば違うというのだ。
このマツダの考案したジオメトリーだとフロントとリヤが一体となって走っているような感覚で、切ったら切っただけリヤがすぐに着いてきて、常に人とクルマが一体化している。ずっとコミュニケーションしているという理屈なのだ。まさにリジットに近い動きというわけだ。
評価軸をどこに置くのか難しい
実際に試乗して見ると、これらの説明を受けた部分を感じられるのは高速域での旋回時で、それ以外での判定は難しい。そしてノーズダイブは欧州車などと比較すると、ダイブしているので、もう少し抑えたいし、また直線でのブレーキングで沈み込むような挙動もあまり感じられない。これは従来のジオメトリーとの比較評価だからなのか。
旋回ではロールはやや大きいと感じるがリヤの追従性はしっかりとある。これがリジット感覚なのか? と言ってもFRなので、どんな車両でもリヤの存在が曖昧になることはなく、ジオメトリーの影響なのかは判断できなかった。ただ、操舵とのバランスでは一体感があり、しっかりとしているのは間違いない。一方で旋回Gが強くなったときにリヤがグッと動く瞬間があり、この動きは何か。リヤのトー変化のためのブッシュの動きなのか、再度のテストドライブで確認したい。
またロードスターに搭載した制御技術KPCもこのラージ商品群に搭載され、リヤタイヤのイン側のボディの浮き上がりは抑えているというが、これも比較試乗車がないため、はっきりとした効果を感じることは難しかった。
それとステアリングにダイレクトにインフォメーションが感じられるのだが、ここまで多くの情報が伝わってきてもいいのか?と思えるほど手に伝わってくる。これは開発の狙い通りなのだろうが、既存の価値観で車両評価をしないことの難しさを感じたテストドライブでもあるという印象だった。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>