マツダのSKYACTIV-Xエンジン考察 じつはマイルドハイブリッドも採用!

マツダは2017年8月8日に突如、次世代エンジン「スカイアクティブ-X」の概要を発表した。これを受けて各種メディアも究極のガソリンエンジンという扱いで大きな話題となっている。しかし、その時点で概念は公表されたが、技術的なキーポイントには触れられていなかった。

マツダ スカイアクティブ-X テスト車両

そして9月上旬にドイツのフランクフルト郊外にあるマツダのR&Dセンターで、SKYACTIV-Xエンジンを搭載した次世代アクセラ・プロトタイプの試乗会が海外と日本の自動車、経済誌のジャーナリストを対象に行なわれた。
(参考リンク:ゴルフを超える!マツダ スカイアクティブX搭載のアクセラをひと足先にドイツで試乗

この時マツダは、取締役、執行役員クラスが参列したためもあってか、肝心のSKYACTIV-Xエンジンについて具体的な説明がなく、質問したジャーナリストにのみ大まかなポイントを答えた。自動車ジャーナリストとはいえエンジンに関する知識が特別に詳しいわけではないので、ジャーナリスト各人が現地で得た知見はバラバラだったようだ。

しかし、その時点でプレス向けの資料の第2弾と、SKYACTIV-Xエンジンの外観写真が公表されたわけなので、当初の発表よりは一歩前進した印象である。

マツダ スカイアクティブ-X テスト車両 サイドイメージ

■ポイントはリーンバーンと低燃焼温度

まずは第2弾の広報資料を見ると、熱効率を高めるためにはリーンバーン(希薄燃焼)と、燃焼温度を下げることがベストと位置付けられている。リーンバーンにより燃焼温度を低くすると、冷却損失が小さくなり、燃料が少なく空気が多い希薄燃焼では、一定のトルクを得るためにスロットルをより開ける必要があり、その結果ポンピング損失が小さくなるわけだ。しかし、通常のガソリンエンジンの2倍の空燃比、空燃比30:1あたりになると燃焼のための着火が困難になる。(通常は14.7:1)

もちろんより圧縮比を高くすればディーゼルのように圧縮着火が発生する。これが圧縮着火=HCCI(予混合圧縮着火)と呼ばれる原理だが、この圧縮着火は一定の範囲でしか発生しないので、クルマのエンジンのように幅広い回転域を使用するエンジンでは実現が難しい。

マツダ スカイアクティブ-X 圧縮着火のイメージイラスト

マツダはこの課題に、通常のガソリンエンジンのようなスパークプラグ点火を使用することでブレークスルーすることにし、SPCCI(スパークコントロールド・コンプレッション・イグニッション)と名付けている。

しかし空燃比30といった超希薄状態では通常のスパークプラグ点火を行なっても着火・燃焼は発生しない。着火させるために「混合気分布偏在制御」を採用している。通常の用語で言えば成層着火燃焼ということになり、点火プラグ周辺は空燃比14前後の混合比にしている。

マツダ スカイアクティブ-X 圧縮着火のイメージイラスト

つまり点火プラグの周辺に着火可能な混合気を発生させ、そこで着火して他の希薄混合気を圧縮着火させるというのだ。これがスパークコントロールド・コンプレッション・イグニッションという名称の原理になっている。

もうひとつの課題は、負荷が上がり燃料が増えてきた時に早期着火、つまり上死点前で自己燃焼が発生する対策が必要になる。これを解決するために、高圧燃料噴射をマルチ噴射することにした。吸気行程ではわずかに噴射し、圧縮行程でよりリッチな燃料を噴射する複数回噴射を行なう。そのリッチ噴射を行なうタイミングを決定するには、常に燃焼室内の圧力をモニターし、噴射タイミングにフィードバックを行なう筒内圧センサーが採用されている。

マツダ スカイアクティブ-X 圧縮着火の着火遅れへの対策概要

このようにマルチ噴射と噴射量の大幅な制御のために、燃料噴射系は通常のガソリンエンジンの燃料噴射とは異なり、ディーゼル用に近いコモンレール高圧噴射を採用している。

マツダ スカイアクティブ-X エンジン コモンレールとフューエルデリバリー
下側のシルバーのパイプがコモンレール、燃焼室中央に向かう4本の曲がったパイプが燃料デリバリーパイプ

燃焼温度をより下げるために、大量EGRを組み合わせている。この外部EGRと内部EGRを加えるために電動式の可変カムシステムも合わせて装備している。また負荷が大きくなった場合には燃料を増量するが、目標トルクを発生させるために過給も行なう。マツダはこれを「高応答エアサプライ」と呼んでいる。

マツダ スカイアクティブ-X エンジン 電動式VVTとEGRクーラー

試作エンジンでは、機械駆動式のスーパーチャージャーを採用している。通常のイートン製か、あるいは圧縮性能を持つリショルム式かは不明だ。

マツダ スカイアクティブ-X エンジン スーパーチャージャー

■マイルドハイブリッドを装備

現地で明らかになった、SKYACTIV-Xエンジンの概要は次のとおりだ。まず排気量は4気筒2.0Lで、出力は190Pps/230Nmとされる。圧縮比は15で、かなり高圧縮比となっている点がポイントだ。そして低負荷時の空燃比は30台で、通常のガソリンエンジンの空燃比14.7の2倍強となっている。

ガソリンの高圧直噴システムはコモンレール・ガソリン噴射(噴射圧500Bar~800Bar)で、現在のディーゼルの2000Barと比べると低いが、通常のガソリン用の直噴システムの燃料圧力200Barの2倍以上となっている。またこの燃料噴射システムはシリンダー内圧力センサーからのフィードバック制御が行なわれる。

また高応答エア供給装置として、機械式のスーパーチャージャーを組み合わせ、高負荷域での主力を引き出している。

もうひとつのポイントは、マイルドハイブリッドを組み合わせて採用していることだ。この点は公表されていないが、明らかにスターター/ジェネレーターを装備しており、シェフラー製の振り子式ベルトテンショナーを装備している。ただこのマイルドハイブリッドは12V仕様か48V仕様かは不明だが、次世代向けと考えれば48V仕様と考えるのが妥当だ。

マツダ スカイアクティブ-X エンジン スターター兼ジェネレーター マイルドハイブリッド
マイルドハイブリッドのスターター/ジェネレーターとベルトテンショナー

したがって発進時や加速時にはこのモーターがエンジンをアシストしているわけで、超リーンバーン時のトルクの低さをカバーしていると考えることができる。

マツダ スカイアクティブ-X エンジン外観

このようにSKYACTIV-Xエンジンは従来のガソリンエンジンに、ディーゼルエンジンで使用されている技術をミックスしていることが特長で、それに加えて最新のマイルド・ハイブリッドを装備することで、現在のハイブリッド車並みの燃費を実現している。

マツダ スカイアクティブ-X テスト車両エンジンルーム

ただ、量産エンジンとして考えると、コスト的にはディーゼルエンジン並みとなるのが少し気になるところで、果たして量産車に全面展開できるのかどうかがポイントになるだろう。

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