2017年4月上旬、マツダはメディア向けに「安全に関する体験取材会」を開催した。すでにマツダは3月の時点で新世代商品を対象に、先進安全技術「i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)」の標準装備化を2017年度中に行なうことを発表している。
■高齢者事故防止対策プログラムと自動車メーカーの取組み
このことからもわかるように、今後マツダはドライバー支援システムをなどを中心にした先進安全システムの積極的な導入を行なうと同時に、全国の販売店を含めた安全に関する取り組みを強化しているのだ。
じつは、はこうした背景には、政府の取り組みがある。相次いだ高齢者の重大事故を受け、2016年11月に、高齢運転者の交通事故防止対策に関する関係閣僚会議が開かれた。その中で高齢者の重大事故を抑制するための手段として、「安全運転サポート車の普及、啓発」の活動が重要と位置付けられ、国交省、経産省は2016年12月~2017年1月にかけ、日本の自動車メーカー8社に対して「高齢運転者事故防止対策プログラム」を策定することを要請している。
これに答え各自動車メーカーは、「高齢運転者事故防止対策プログラム」を提出したが、ニューモデル開発・販売計画など企業情報を含むため非公表となっている。しかし全メーカーとも、高齢運転者の事故防止対策の重要性を認識し、先進安全技術の研究開発の促進、事業計画の一部前倒しを含む先進安全技術の機能向上、搭載拡大(一部は標準装備化)、ディーラーにおける普及・啓発等に取り組むという点は共通している。
こうした背景があるからこそ、最近の各社のクルマのテレビCMは安全技術に関する映像が多くなっているのだ。
全自動車メーカーは、高齢運転者事故防止のためには「自動ブレーキ」と「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」は必要と考えており、さらにオートライトなど先進ライトシステムなども有効と考えている。
このため各社とも、自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置の設定車種の拡大に取り組み、2020年までにほぼ全ての車種に標準装備、またはオプション設定される計画になっている。
また自動ブレーキは性能向上に取り組み、2020年までに新車に搭載される自動ブレーキのほとんどが歩行者を検知可能となる見通しになっている。
こうした事情の中で、マツダは積極的に取り組みを開始し、2017年度中に先進安全システムの全車標準装備化の決定と、メディア向けの説明会を行ない、同時にディラーへの啓蒙活動も展開することにしている。
■マツダの運転支援システム、自動運転時代へのロードマップ
取材会では、まずマツダの車両開発本部の松本浩幸本部長が、マツダのクルマ造りの基本理念と、政府、国交省が推進する高齢運転者事故防止対策プログラムの一貫である、自動ブレーキや誤発進抑制装置を装備した安全運転サポート車(愛称:セーフティサポートカーS:略称はサポカーS)の普及、啓発をマツダとしても積極的に推進することを説明した。
そして今後も、天候などに影響されず、ドライバーに見えない死角をカバーできるような360度認知できるセンサー&システムを開発を継続的に行なっていくとしている。
また将来的な自動運転の領域に対する考え方では、ドライバーの運転操作が不要となる自動運転を目指すのではなく、ドライバーの運転操作を尊重した高度運転支援システムを目指し、ドライバーが不慮の事態になり、運転不能になった時に初めて自動システムがオーバーライド作動して安全に停止する、といった構想をしているという。この構想をマツダは「Co-Pilot(副操縦士)コンセプト」と名付けている。
続いて、統合制御システム開発本部・電子開発部の池田利文部長が、現在マツダがラインアップしている先進安全システム「i-ACTIVSENSE」、具体的にはアドバンスド・スマートシティ・ブレーキサポート(衝突被害軽減ブレーキ)、AT誤発進抑制制御、ブライントスポット・モニタリング(BSM)、リヤクロストラフィック・アラート(RCTA)などのシステムを解説。
またこれらのシステム以外にペダルレイアウト、運転時に必要な情報を適切に得られるヘッドアップディスプレィを含むコックピットデザイン、運転のスムーズさや快適性を増す「G-ベクタリングコントロール」といった技術も紹介した。
これらのi-ACTIVSENSEや理想的なペダル・レイアウトにより、2007年~2011年に販売された旧世代の車種と比べ、2012年~2015年の先進安全技術を搭載した新世代車では、「ペダル踏み間違い」による死傷事故件数が1万台あたりで86%減少していることが事故データから明らかになっており、i-ACTIVSENSEの有効性が確認でたという。
■体験試乗
今回は、アドバンスト・スマートシティブレーキ・サポート、AT誤発進抑制制御、ブラインドスポット・モニタリング、リヤクロス・トラフィック・アラート、交通標識認識システムの体験試乗を行なった。
もちろん、これらの機能はすでに市販モデルに搭載されているもので、基本センサーはフロントのミリ波レーダーと単眼カメラ、リヤの広角ミリ波レーダー、超音波センサーを使用している。
また、高齢者ドライバーがペダル踏み間違いをし易い状況を体験するために、高齢者の身体の衰えを疑似体感できる視野を狭く制限するメガネ、重り入りのベスト、膝関節の自由度を制限するサポーターなど「高齢者疑似体験セット」を装着したうえで、停車状態の旧世代車と新世代車を使ってペダルの踏み変えでの操作感覚を比較することができた。
特に後退時などドライバーが半身をひねった状態でアクセル→ブレーキとペダルを踏み変える時の操作のしやすさを、ペダルがオフセットしている旧世代車と適正な配置の新世代車で比べ、現行の新世代車の方がスムーズに踏み変えができることが確認できた。
ただし、ペダルの踏み間違い事故は、必ずしも高齢者に限られるわけではなく、若い世代でも発生しており、また事故の主因としてはペダルのレイアウトの問題だけではなく、着座姿勢のずれ(シートの拘束性)や、そもそもペダルの踏み変え操作が右足の踵を支点とした踏み変えではなく、膝を動かしてペダルを操作するという運転方法などにも課題があることは知っておきたい。
マツダは全国の販売店を対象とした体験や講習を展開しているが、これはきわめて重要な活動だ。マツダに限らず現在のドライバー支援システムは、各機能がほとんどカタカナ呼称で、各機能にも作動条件があるなど、一般のユーザー層はもちろん、販売現場のスタッフでもこれらの名称や機能などを熟知することは、なかなかハードルが高い。こうしたシステム、機能を販売現場がきちんと理解し、顧客に伝えることができることが、ある意味システムの有効性を高めることができる、といえるのだ。