マツダのGVCを感じない人へ。スズキ スイフトの120kg軽量化はケチったのか?という疑惑

雑誌に載らない話vol178

マツダの雪上試乗会にて。北海道・剣淵試験場
マツダの雪上試乗会にて。北海道・剣淵試験場

クルマの評価には人間センサーが必要です。乗り心地や手応え感、ノイズのチェック、物の触感などすべて人間の五感が影響しています。

高級なレザーという評価も見た目と手触りで評価します。そこには経験値が大きく影響し、イタリアやイギリスのレザー文化で作られた高級なレザーをどれだけ触ってきたか?見てきたか?が大事で、それらと比較していくことができればレザーの評価ができるというわけです。

マツダのGVC=Gベクタリングコントロールはモータージャーナリストでも「わからない」という人がいます。プライドに掛けて「感じない」とは記事に書きませんが、会話していると「アキラはあれわかるの?おれ、よくわかんないんだよな」という話は出ます。

では、どうすればいいのか?ポイントはわかりやすい運転をすることと、人間センサー、先ほどの五感の話ですが、自分のセンサーを目いっぱい敏感にしておくことが必要です。

マツダは「万人が享受できる技術」と言っていて、その恩恵はすべての人が得ることができそれはドライバーだけではなく、同乗者もその恩恵を受けられます、と説明していますが、ディーラーへ試乗した多くの人が「あまり分からなかった」という声が多いそうです。

【GVCを感じるための極意】
まず、カーブで曲がるときの運転方法ですが、ハンドルはゆっくりと切ります。ブレーキを踏んではダメです。アクセルは少し開けた状態を維持し、開度を変更してはダメです。アクセルを一定に保ちながら、ゆっくりと転舵します。ハンドルの切り方も、回す速度を一定に保つことが大事で、カーブの頂点ではハンドルは切った状態のまま維持する必要があります。ハンドルを切る動作をし続けると分かりにくくなります。

次に、どこに意識を集中するか?

横Gをどんな風に感じるか?を意識してください。一般に、カーブを曲がるとき、ハンドルの切りはじめと同時に横Gが体にかかり、左へ切れば身体は右側のドアに押し付けられるようなGを感じますよね?その感覚を思い出しておいてください。

ハンドルを左に切ります。次の瞬間、ドア側にかかるはずの横Gが少ししか感じないはずです。そしてカーブを曲がり続けると、次第に横Gがかかりますが、一定の横Gではなく次第に弱く感じるはずです。クルマは旋回中にもかかわらずです。

実際、身体にかかる横Gが少なく、動画をみてもらうと分かるのですが、首から下げたペンダントの揺れが少ないのが分かると思います。本当に横Gが少ないのです。ですが、ここで勘違いしてはいけないのは横Gという絶対値に変化はありません。だから横Gが少ないというのは、じつは間違いで、横Gを感じにくいというのが正解です。

▼GVC動画。記事中の外人女性のモデルをクリック!
https://autoprove.net/mazda/axela/30525/

GVCでは横Gがハンドルの切れ角に沿うように、右前方から真横、右後方へとGが動くので、人間は感じにくのです。一般的なクルマは横Gが真横にかかったままなので、人間はGを感じているのですが、Gが動くので感じにくいとうのがポイントです。

これを「Gのループ」という表現で説明できます。ループするようにGのかかるポイントが移動しているというのが答えなのです。

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青と緑がGの動き。通常はGの往復だが(青)、GVCは楕円の動きをしているのが分かる(緑)。

【直進でもGVCは機能する】
さて、もうひとつGVCの特徴を示すのが直進時の効果です。まっすぐ走っているときでもGVCの恩恵があるのです。その感じ方のポイントを説明しましょう。

まず、自分の運転を冷静に見てください。直進時、ハンドルが細かく動いていますよね。これは修正舵と言われるもので、路面からの反力をタイヤ受けてジオメトリーだけでは直進できない状況になるので、ハンドルで修正しています。が、じつはジオメトリーだけでもまっすぐ走れるのが現代のクルマなのですが、人は無意識に修正舵をあてています。このあたりの運転技術が改善できると、GVC効果がより感じられると思います

さて、直進時、修正舵をあてているのを止めます。ハンドルから手を離してみてください。ハンドルは小刻みに動いているのが分かると思います。この動きにつられて修正舵をあててしまうのが人間の心理で、運転が上手な人ほどこの動きに反応してしまいます。が、これ、無駄な動きなんですよね。じつは。

GVC装着車は、この直進時、ハンドルが微動舵にしません。まったく動かなないので、人間も修正舵をあてる本能が休みます。その結果、ハンドルに手を軽く添えているだけで、クルマは真っすぐ走ります。だまされたと思って試してみてください。

GVCの仕組みについてはこちらで詳しく解説していますので、読んでみてください。また、よく分からないということがあれば質問メールをお送りください。
▼GVCの解説はこちら
https://autoprove.net/mazda/axela/30525/
▼質問はこちら
contact@themotor.jp

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2:スズキ スイフトの120kg軽量化はケチったのか?という疑惑
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気になるコンパクトカーの新型スイフトに試乗してきました。軽自動車のイメージが強いスズキですが、普通のクルマもたくさん生産しています。中でもスイフトは走りが好きなマニア系には人気で、【高性能】と言われていますが、本当にいいクルマなんでしょうか?

右は元・ホンダの開発、繁浩太郎さん。右はタカハシ
右は元・ホンダの開発、繁浩太郎さん。右はタカハシ

これまで、スイフトスポーツはハンドリングが良く、ライトウエイトスポーツなモデルとして高評価。80年代であれば、【ボーイズレーサー】と言われた部類のモデルです。そのスイフトが新型となれば「どんなによくなったのかなぁ?」と期待値が相当上がります。さらに120㎏もの軽量化をしたと言ってますから、何かをケチっているのではないか?という声もチラホラ聞こえます。その真相を探るべく試乗会に参加してきました。

がしか~し、試乗会場が千葉・幕張の湾岸エリアでいわゆる埋め立てのエリアでした。

「が~ん。あそこぢゃ、ハンドリングわかんないでしょ。乗り心地だって路面が綺麗だから、どんなモデルでもみんな乗り心地がいいクルマに感じちゃうし・・・」という場所だったのです。アップダウンもなければ、アンジュレーションもない碁盤のマス目に切られた綺麗な道路ですからね、テスト環境としては最悪の場所です。走るには気持ち良く走れますけどね。

でも、試乗コースはどうであれ、スズキは、開発担当のエンジニアが多く試乗会場にいるので、何かをケチっているのかという疑問は、「エンジニアに話を聞けるチャンス」ということで参加してきました。ちなみに、国産メーカーはだいたい、エンジニアが試乗会には同行しています。インポーターは当然、開発陣が欧州や米国ですから、試乗会場にいるのはエンジニアではなく、マーケティングや商品企画のスタッフとなります。

【エンジンも魅力です】
新型スイフトの詳細は掲載していますが、ちょっとおさらいです。

▼スイフト詳細はこちら
https://autoprove.net/suzuki/swift/38446/

プラットフォームから一新されました。そしてエンジンは3種類。ベースグレードは1.2LのNA(自然吸気)で5MTとCVT、さらに2WDと4WDを搭載しています。中間グレードは、スズキの得意な「マイルドハイブリッド」。これはEV走行はできませんが、エンジンをモーターがサポートするので、燃費をよくするハイブリッドですね。こちらも5MTとCVT、2WD、4WDがラインアップします。

そしてトップモデルが1.0Lターボの「RSt」というモデル。排気量は下がるけど出力は一番あります。こちらは2WD(FF)6ATだけの仕様となります。ちなみに170万4240円。最廉価モデルは134万3520円です。

試乗してきたのはこの1.0Lターボと1.2Lのマイルドハイブリッド、それとベースグレードのNAの3台に試乗してきました。その時のインプレッションは後ほど。

【デザインも一新】
当たり前ですが、フルモデルチェンジなので、エクステリア、インテリアデザインを一新しています。エクステリアのルックスは最新のデザイントレンドを反映したのでしょう、ヘキサゴングリルに異形ヘッドライトの組み合わせ。アウディ、マツダ、スバルなどが5角形のヘキサゴンデザインで、いずれもデザインがいいという評判。スイフトも見た目のインパクト十分で買ってもいいかなって思えるデザインですね。

新型スイフト。プラットフォームも一新
新型スイフト。プラットフォームも一新

ちなみに、スイフトの開発ベンチマークはフォードフィエスタ、プジョー208です。そしてフィエスタは1.0Lモデルが欧州では量販のヒットモデルで、こいつも5角形グリルをしています。ある意味、見た目でもガチ勝負しているのです。いわずもがな、スイフトはグローバルモデルで日本のマーケットも重要ですが欧州、アジアで量販を狙っています。また、北米では販売していません。アメリカ人が買うとも思えませんしね。

話を戻しますとルーフはフローティングデザインを採用しています。これはA、B、Cピラーを黒くすることでルーフが浮いて見えるようにしたデザインという意味です。ボディカラーとルーフが同色なので、確かに屋根が浮いたように見えます。そして後方へのルーフラインは極端に下げず、逆にサイドのラインを跳ね上げているので、スピード感が出ていていい印象です。

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テールデザインはもうひとつ工夫が欲しかった。テールランプはちょっと残念なデザインだと。顔とのバランスが取れてない印象ですね。顔は今風なのに、テールは昔風という印象です。

【インテリアデザイン】
インテリアはグッドです。全体に高級な印象があります。軽自動車と価格で競争できるレベルとしては、非常にいいですね。特にハンドルは凝っていて、Dデザイン形状を採用し、上級モデルは材質を変更したコンビネーションとしているところがいいです。

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メーターやインフォテイメント、クライメートパネルなどはシンプルで、少し昔風なデザインですが、見やすく馴染みやすいですね。マニアに人気とはいえ、ポジショニングは量販モデルですから、立ち位置をよく分かっている証拠ですよ。つまり、クルマに興味のない人も購入するモデルだから、だれでも簡単に使いやすくなければダメで、いろんなものをデジタル化することでインターフェイスが複雑になって、結局使い方が分からない、ということがあってはダメなんです。いい例がスバルの全モデルですね。あちらは複雑すぎて、たくさん情報表示ができるのですが、使い勝手がいいとは言えません。

室内の広さは「ターバン仕様」ですね。ヘッドクリアランスが大きく、インド人がターバンを巻いた状態でも頭が天井に当たらないくらいクリアランスがあります。また後席のスペースも広く、大人4人が問題なく乗車できます。欲を言えば後席のリクライニングがないので、長距離がつらいかもしれませんね。

ちなみに、スイフトのグローバル展開はまだ発表されていません。ジャパンファーストでした。そして生産は日本の相良工場ということで、もちろんインドをはじめアジアエリアでは大量に販売されるでしょう。そして欧州でも信頼を上げたいというモデルだと思います。

【120kgの軽量の意味】
さて、もうひとつ、新型スイフトのキーとなる技術は軽量化です。120kgという、とんでもない軽量化を達成したモデルで、このコンパクトクラスではあり得ないほどの軽量化です。一緒に同行した元・ホンダの開発責任者の繁さんも絶賛する技術で、「きっと何か秘密があるに違いない」と言ってました。

試乗後、開発主査の小堀昌雄さんに話を聞けたのですが、結局、どうやって軽量化したか?は「小さいことの積み重ね」という回答しか得られず、消化不良です。「それだったら他社でもできるだろう」というのが繁さんの言い分で、「ホンダはぬるいのかなぁ」とぼやいてました。

結論から言うと、軽量化の手段は消化不良でしたが、軽量化による性能低下はなく、それどころか性能アップしていることのほうが多いことがわかりました。

では、軽量化されるメリット、デメリットを考えてみましょう。

まず、メリットは燃費が良くなる、加速が良くなる、操安が良くなることが挙げられますが、デメリットとしては、ノイズなどのNVHが苦しくなる。強度、剛性不足などがあります。で、デメリットですが、試乗したレベルで強度、剛性不足は全く感じないどころか、むしろ高い剛性感を感じます。これは欧州のコンパクトカーに共通する印象で、非常に素晴らしいと言えます。

NVHも素晴らしいです。これだけ軽くするとノイズや振動が必ず出ます。つまり制振材や吸音材を減らすことが一般的な軽量化だからで、そうなれば室内はロードノイズがうるさく、同乗者と会話もしにくいということが起こるし、乗り心地だって悪くなるものです。ですがそれも全く感じませんでしたね。

だからこそ、クルマを実際に開発していた繁さんは「何かある。絶対秘密がある」と言っているわけです。が先にも書いたように「細かいことの積み重ね」という回答しか得られませんでした。

この軽量化の秘密はどこにあるのか?やはり消化不良です。本当に細かいことの積み重ねなのかもしれません。

いったい重量は何キロなんだ?というと、最軽量モデルはなんと!840kgです。最重量モデルでも970kgで、軽自動車と同等、いや比べるモデルによっては軽自動車より軽量なんです。ライバルの軽量と言われるデミオでも最軽量で1010kgで1トンを切りません。フィットやヴィッツは比べるまでもないですよね。ヴィッツはモデルが古くなっているので、比較するにはかわいそうですが、1300㎏前後ですね。

【インプレッション】
さて、試乗した印象ですが、冒頭に書いたようにハンドリングやエンジン特性を試すには難しい試乗環境だったので、正直少しのことしかわからなかったです。

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まず、RStの試乗では、市街地での扱いは非常にいいです。ターボモデルなので、低回転域でのトルクがあるので、1.0Lという小排気量であることは感じないです。スズキでは「1.5LのNAなみのパワーとトルクがある」と説明していますが、それ以上にトルクフルには感じます。数値以上に軽量化が効いているのかもしれません。

まさにライトウエイトスポーツとして正しい方向の開発と言えるでしょう。日本では軽量化と言えば、何かをケチったように捉える人も多いでしょう。ですが、欧州では「凄い技術だ」という捉え方をするようです。まさに、スイフトの軽量化技術は凄いと言えます。少なくとも半日の試乗でケチったところは感じませんでした。

ちなみにこのエンジンは「BOOSTER JET」の愛称が付いています。型式はK10C型。いわゆるダウンサイジングテクノロジーを用いたスズキのグリーンテクノロジーというわけです。出力は102ps/150Nmで燃費は20.0km/Lというスペック。でもよく走ります。

ミッションは6AT。アイシンの横置き6速ATでパドルシフトも装備されてますから、スポーティドライブができます。スイフトのRSに相応しい装備ですね。ただし、高低差のあるワインディングを走っていないので、評価はできませんでした。

マイルドハイブリッドは1.2Lで91ps/118Nmというスペック。燃費はどか~んと27.4km/Lも走っちゃいます。カタログ値からのかい離を考えても20km/L前後はコンスタントに出るのではないでしょうか?そしてエンジンは「DUAL JET」の愛称があり、インジェクターを気筒当たり2本使っているので、その名称になっています。

マイルドハイブリッドは前述したようにモーター駆動しないので、ドライバーはハイブリッド感を全く感じません。結果的に燃費がいいというモデルです。こちらにも「RS」の名称が付けられていて、サスペンションなどの仕様はRStと同じセッティングになっています。が、CVTです。RSの名前があるものの省エネモデルだと感じます。本命RSはターボのRStです。

路面の綺麗な幕張エリアでも大きな入力があるときは、硬さを感じます。交差点を曲がるときのクルマの動きから、「スタビリティは良さそうだ」という印象を持つものの、本当のところがわかりません。でもしっかりしたサスペンションだというのは感じました。

標準モデルの試乗では、適度な緩さを残してあり、こうしたメルマガや自動車Webのインプレッションを読まれる方には、無縁でしょうね。ステアフィールもルーズ系でレスポンスもゆったりとしたもの。サスペンションはふわっとした乗り心地でGを掛けるとどんどん沈み込むダンパーという組み合わせです。まぁ、実用車領域の標準的な仕上がりですね。

【まとめ】
開発エンジニアとの会話では、「この場所での試乗会は非常に残念でした。時期的に箱根エリアは降雪や凍結で試乗会の開催が難しく、いい場所がなくて申し訳ありませんでした。でも知恵を絞って、みなさんに納得のいく試乗環境を提供できるように努力します」とおっしゃってました。

また、「ジャーナリストたちが最も厳しい意見を言っていただけるので、お話を伺うのは非常に緊張します」とも言っていて、ここに書いた文章はその時を再現してます。ですので、参考になれば。

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