マツダはなにをやりたんだ? 3.3Lの6気筒ディーゼルエンジンを新規開発し発表した。世の中電動化路線へまっしぐらな状況で、ICEの新規開発。いったい何を考えているんだろうか。
マツダは2022年3月「ラージ商品群技術フォーラム」を山口県の美祢試験場で開催した。そこで発表されたラージ商品群の商品名は明かされないものの、直列6気筒ディーゼルエンジンを新規開発したことを明かした。もちろんこの先発売が予定されているCX-60、70、80、90に搭載することが予想されるが、そのために8速ATも同時に自社開発を行なっている。そして直列4気筒2.5LスカイアクティブGのプラグインハイブリッドも公表したのだ。
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これらを開発した理由を技術フォーラム初日、マツダの役員たちからのプレゼンテーションが行なわれた。まず、そこで語られた内容をかいつまんでお伝えしよう。
ICEの開発は必須だ
最初に登壇したのは廣瀬一郎専務執行役員だ。冒頭廣瀬氏からは、これまでのマツダは技術革新とプロセス革新を両輪に、成果を積み上げるビルディングブロック戦略で展開してきたことを説明。2010年にスカイアクティブ構想を発表し、将来に向けて商品ラインアップやそのために要求される技術などを公表していた。今回のラージ商品群もその戦略のロードマップ上にあるものだというわけだ。
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そしてこの大変革期に投入するラージ商品群の位置付けについては、今は電動化への移行期であり、また内燃機関の混在でもある。カーボンニュートラルな社会へ向けての課題解決の手段はひとつではなく、かつEV化することで一気に片付くものでもない。もっとも大事なのは「使用エネルギーの節約である」と説明した。
2022年スーパー耐久にマツダをはじめ、トヨタ、スバルも参戦し、カーボンニュートラル燃料やバイオ燃料を使い検証が行なわれている。その普及が十分考えられることを踏まえれば、内燃機関の効率を進化させておく必要があるのだという。その答えとして、小さなモーターとバッテリーを組み合わせた3.3Lの6気筒ディーゼルエンジンと48Vマイルドハイブリッドを準備したと説明した。
一朝一夕で人間中心に到達しない
そしてもう一つは戦うフィールドの変化を挙げた。過去はハードによる性能を競う時代だったが、今後はソフトウエアに重点を置いたビジネスになると。原理に忠実に動くハードとそれに連携して動く制御構造を、MBD(モデルベース開発)を駆使して価値を創り出すということだ。
GVC(Gベクタリングコントロール)やKPC(キネマティンク ポスチャーコントロール)があるように、マツダ独自の制御技術によってハードを動かし、クルマに期待される価値の拡大に対応し、新しい価値を積み上げていくという。
そして業界での流行語「人間中心の開発」は、言い出しっぺのマツダは「この領域は新たに参入してきた企業が一朝一夕で達成できるものではないと信じている」と力を込める。マツダの人間中心には、「思い通りに走れることは体を活性化させ、結果として体も元気にしてくれると信じている」ということも含まれているのだ。
そしてこれまで技術革新のひとつとしてエンジンの高効率化があり、スカイアクティブXやG、Dというエンジンを開発してきた。今回再び新しい燃焼方式のエンジンを開発し、その説明を執行役員の中井英二氏が行なった。
大排気量の自然吸気が良い
まずは、マルチソリューション戦略が必要となりICEに6気筒、4気筒、ガソリン、ディーゼル、スカイアクティブXがあり、MHEV、PHEVをさまざまなエンジンと組み合わせることができると説明。カーボンニュートラルへの備えを整えているという。
新しい燃焼システムは空間制御予混合燃焼で、2段エッグ燃焼と高圧噴射によって燃焼する仕組みなのだが、これについては別途詳解してみたい。そして新規開発の8速ATはトルコンレスで、トルコン部に48Vモーターを組み込むレイアウト。いわゆるP2ポジションで、湿式多板クラッチで接続する方式を採用した変速比幅の広いATを開発している。
FR用の8速ATといえばZFの8HPがあり、48Vモーターを内蔵するGen4の8HPと構造的には同じだ。なぜ購入せず自社開発をしたのか聞いてみると、ドラポジが関係するという。真っ直ぐに座り足元がミッショントンネルの影響を受けないように搭載するにはZFの8HPでは不可能だったというのだ。
だからといってゼロからの開発とは恐れ入る。前述の廣瀬氏によれば「開発効率という視点ではこのラージ商品群全モデルを一括開発し、MBD(モデルベース開発)の適合によって試作車の台数は極端に削減でき、フェーズ1の開発費より25%低減できている」という。まさにMBDを駆使した成果というわけだ。
そして3.3Lという大排気量化している点については2010年代半ばに、当時のエンジン開発責任者人見光夫氏はオーストリアのエンジン学会で自然吸気の大排気量化が環境性能にいいと発表している。2005年にVWはダウンサイジングターボコンセプトを発表し、後に環境エンジンの主流となり、ダウンサイジングこそが最適解とされていた時代だ。その時代の最盛期にNAの大排気量化がいいというのは青天の霹靂とまで揶揄する人もいた。が、ダウンサイジングはライトサイジングに名前が代わり、排気量を次第に大きくする流れもその後出ている。
そうした流れの中で3.3Lの直列6気筒ディーゼルという枠組みが決まるわけだ。V型6気筒はコンパクトになるものの部品が倍になるわけで、直列の多気筒化がベストという専門家の判断になる。ちなみに2017年にはメルセデスベンツも直列6気筒エンジンを新開発しているし、最近ではクライスラーが2022年3月に3.0Lの直列6気筒の「ハリケーン」エンジンを発表している。もっともこれらはダウンサイジングコンセプトではあるのだが。そして、この新エンジンは実用領域での熱効率が40%を超えているということだ。
身体図式
そして真っ直ぐに座ることのできるボディをつくるためのプラットフォームに関し、松本浩幸執行役員が最後に登壇した。
「ラージ商品群では人間中心の哲学を次のステージにジャンプアップさせている。脳とクルマが直結しているかのような感覚、身体拡張能力である」と切り出した。
FRのAWDで動的性能ポテンシャルを大幅に引き上げているという。そして道具を体の一部に同化させ、手足のように操れるように仕上げたという。人はなぜ道具を使いこなせるかという課題対し、回答は身体図式と言われる脳内能力に組み込まれるからだそうで、意識は道具ではなく、扱おうとする対象に意識が向かうという。
例えばテニスプレーヤーのラケット。選手はラケットではなくコントロールするボールに意識が集中する。我々であれば、箸で何かを掴むとき、箸を無意識に使い、つかもうとする食物に意識がいく、こういうことがクルマでも起こるということだ。
体の動きに同調した道具の動きを五感で常に把握できることを、身体拡張能力の第一条件として開発しているという。具体的には以下の3点で説明していた。
五感刺激
ひとつは、操作に対するクルマの反応が素早くシンクロすること。そして操作とクルマ挙動の時間変化が一致していること。次に路面の外乱、操作変化があったとしてもシンクロが続くということ。クルマの反応を五感で正確に感じ取れるという設計だという。
さらに具体的な説明を聞くと「人の操舵操作でフロントタイヤへ入力があると、リヤタイヤに力が加わり、旋回する曲がる力が発生、バネ上のキャビンに伝わります。シンクロに大事なのは、この力の伝達を順番に途切れなく、滑らかにおこなうことが重要です」 と話す。
そのために重量物を中心に集め慣性マスを小さくし、遅れなく伝達するように変換する。部品ごとの剛性設計ではなく、下流になるほど剛性を高めるなど骨格部品の構成を、クルマ全体を俯瞰しての開発に変更したという。これについては別記事で説明したい。
支えるサスペンションはバネ上の姿勢変化を安定させることが重要で、そのためにフロントはWウイッシュボーン、リヤはフルマルチリンク形式を採用している。そしてコーナリング時にロールを軽減しながら車体を引き下げて旋回姿勢を安定させるKPC(車両運動姿勢制御)の効果を最大化するように最初から設計したと。
さらに、五感刺激については、人とクルマの接点であるシート、エンジン音、など五感刺激の豊かさに注力し、アクセルを踏み込むごとにシートに背中を押される感覚、重奏なエンジンサウンド、視界の移り変わりなどの五感刺激が一体となって、クルマとのシンクロ、高揚感を感じやすくしているということだ。
まとめると
・慣性マスを小さくする縦置きアーキテクチャー
・力の伝達を滑らかにする「車両剛性分配」
・外乱に強くシンプルな動きで人の感覚にあう「直感サスペンション」
・制御効果を最大化するハード設計と運動制御の連携
・五感刺激を豊かにするフィードバック設計
というポイントとなり、より人間の能力を活用して自在感が得られるように進化しているという。
人側の挙動を図り、人が快適さや楽しみを味わえるかを計測し、ドライバー、同乗者ともに頭部の不安定な動きが抑えられており、酔いや疲れが出にくくなっている。そしてリズミカルに楽しく運転できるようになっているのがマツダのラージ商品群というわけだ。
ここまで説明を聞くとどれほどのクルマに仕上がっているのか期待が膨らむ。そしてマツダの山口県にある美祢試験場で実車に試乗させてもらい、具体的な改良点も取材をしてきた。これらに関しては別記事にて試乗レポートと技術の詳細をお伝えする。つづく。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>