徐々に進むEV化 でもその前に

雑誌に載らない話vol218
自動車産業は今、大きな変革期を迎えている。経済誌では破壊的革命などと表現もしている。その理由は、これまで自動車産業に従事していない、まったく別分野からの企業進出があるからで、自動車産業の枠組みが崩れ、築き上げた経済構造を破壊しかねないと予測しているからだ。しかし、当の自動車関連企業が黙って指をくわえて見ているわけではなく、あるベクトルに向かって突き進んでいるのは間違いないということをお伝えしよう。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

第1回 求められる次世代車とは何か

徐々に進むEV化 でもその前に

■人口シフトという社会問題が発端

グローバルでEV化や自動運転、CO2削減の低炭素社会、などといったものが今の潮流だが、そもそもなぜ、そうしたことが叫ばれるようになったのか。地球温暖化による環境破壊というのもひとつの理由だが、大きくは、人口のシフトによるメガシティ化と地方の過疎化という社会問題があるからだ。

人口シフトという社会問題
このまま何もしなければ、こうした未来がやってくる

人は便利な都会に集中し、街が巨大化していく。2050年には世界の都市の人口は、現在の2倍の約60億人にも達すると予想され、そうなれば、交通量は現在の3倍になる。交通渋滞はひどくなり、大気汚染も進む。さらに渋滞のストレスや交通事故増にもつながるわけだ。この人類大移動は、地球上の全人口の約3分の2が都市部で生活するという結果になるのだ。

これらの話は、2017年6月世界的サプライヤーであるボッシュのイベント「モビリティエクスペリエンス2017」において、ボッシュのCEOロルフ・ブーランダー氏が説明していたことだ。これらの情報は社会学を専門とする大学教授や専門家の間では、すでに常識とされている社会問題で、実際、メルセデス・ベンツの自動運転に関する開発リーダーのアレキサンダー・マンカウスキー氏は社会学の博士である。

ボッシュCEO ロルフ・ブーランダー氏
ボッシュのCEO ロルフ・ブーランダー氏

日本では人口の減少という世界の波とは逆パターンではあるが、都市への人口集中は始まっている。将来、なくなる県がでてくるなどという風評まで飛び出すほどで、地方の過疎化という問題も同時に起こっているのが現状だ。過疎化や省燃費車の増大に伴い、すでにガソリンスタンドの減少という問題も少しずつ起こり始めている。

こうした社会問題に対し、自動車産業はどう解決していくのがいいか? 取り組むべき技術とは何か?そしてCO2削減を加速させるには、現段階でのひとつの結論として、将来的に、サスティナブルな再生可能エネルギーによる脱石油とエミッション・ゼロを目指すことということだと思う。また、明日の都市交通を考えたときに、自動運転によるアクシデント・ゼロ、ストレス・ゼロ、エミッション・ゼロという目標を掲げ、目指すこというのがボッシュ、ZFというTier1と言われるドイツ系サプライヤーを取材して分かった結論だ。

運転支援システムの高度化により、死亡事故者数が減っているというデータ
運転支援システムの高度化により、死亡事故者数が減っているというデータ

そのためには自動運転も欠かせない技術という位置づけになるだろう。自動運転に関しては、パーソナルな車両にも搭載されるが、ドイツではリージョナルに使われる公共の乗り物から始まりそうだ。それはリージョナルなロジスティックス、カーシェアリングなどだ。北米では2018年の今年からフリーウエイでのCar to Car通信による長距離輸送トラックのコンボイ走行が始まる予定になっている。

■自動車メーカーがやるべきこと、進むべき方向とは

さて、脱石油や自動運転と、言葉では簡単だが、どれも一筋縄ではいかない。特にエネルギー問題では、国内では安倍政権発足時のアベノミクス「三本の矢」の中で、経済政策のひとつとして、内閣府のSIP戦略的イノベーション創造プログラムがある。その中には「革新的燃焼技術」「自動走行システム」があり、他にも「次世代パワーエレクトロニクス」や「エネルギーキャリア」など全部で11項目ある。

これらのプログラムに参加する企業、大学、研究機関には国から補助金が出るわけで、日本政府は燃焼技術と自動走行に期待していることが伺える。つまり、EV化を急ぐ風潮はあるが、もっとしっかりと足元を見た、次世代に向けた研究開発が必要だということだ。

従って、内燃機関の高効率化、電動化はハイブリッド、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッドを促進し、ADAS(先進運転支援システム)の、より高度化を目指すというのが政府からの期待でもあるということだ。もちろん、エネルギーキャリア(水素キャリアを含む)があるように、燃料電池開発への取り組みも重要な項目である。

さらに、EV化に出遅れているといった経済誌系の記事を目にすることも多いが、Well to Wheelで見たとき、現状の電源確保の方法ではEV化を急激に進めるべきではないと考えるのが妥当だろう。これは正直なところ判断が難しく、電力に関係する企業の資料と石油に関係する企業とでは算出するデータに乖離があるからだ。いずれにしても、2018年現在は、世界的にEV化は徐々にシフトすべきであり、ウイークポイントはインフラを含む電源とバッテリーだ。

■電動化先進国ニッッポン

ちなみに、調査会社のマークラインズのデータによると、2016年世界の乗用車保有台数は9300万台。2032年には1億2400万台になるという。これは先進国での成長はほぼ横ばいで、新興国での保有台数増加だという。

ガソリン、ディーゼルのCO2削減の必要性を説明するボッシュの資料
ボッシュの資料でもガソリン、ディーゼルのCO2削減の必要性を説明

また、EV、ハイブリッド、プラグインハイブリッドが占める電動化率では、中国はまだ1.8%。アメリカ3.1%、欧州2.9%で、日本は27.9%とぶっちぎりの電動化先進国でもある。欧州でも北欧、ノルウエーのように水力などの自然エネルギーによる電源確保している国では40%を超える電動化率というが、他の国ではまだまだ1%未満という国が多数ということだろう。(2016年)

そうした中で2017年、発売から20年の時間はかかったが、トヨタのハイブリッド車の販売台数がグローバルで1000万台を突破したというニュースがあった。これまでの世界の保有台数の数%がトヨタのハイブリッドであるという事実は、計り知れない環境への貢献度があったのではないだろうか。

余談になるが、普及してこその貢献であるとするトヨタの量産車ハイブリッド戦略に対して、欧州では、プレミアムモデルの最上位にプラグインハイブリッドを位置づけ、1000万円以上のモデルを中心にPHEV化をおこなっている。これは当然、バッテリーを含む価格が車両価格に反映しても影響が小さい、高級車に搭載するという自社ビジネスの観点からの開発と考えていいだろう。

さて、こうした目の前の取り組むべき問題と、先を見据えた次世代車開発を進めるにはロードマップが必要だ。ようやくトヨタが2017年12月にパナソニックとの協業合意において、2030年頃に50%以上が電動車になる見通しを発表している。その内容では、ハイブリッド、プラグインハイブリッドが450万台、FCV、EVが100万台という予測だ。つまり、12年先でもまだまだ、ハイブリッドが中心であり、そこにはガソリン、ディーゼルなどの内燃機関が必要となっているのだ。

つまり、バッテリーEV(BEV)車が2030年で10%、1000万台に達するという数値はかなりの確立で低いと考えられる。その理由は第3回で詳しく説明するが、それだけのリチウムイオンバッテリーを供給できるのが、現状では不可能であり、電源をどうするか?がそう簡単には解決しないからだ。

とは言え、各社いろいろな戦略がある中で、何年までにEVを何割にするとか何年までに内燃機関をやめるというった目標が多い中、課題を明確にしてその課題解決の考え方と戦略、そしてロードマップを提示しているマツダは興味深い。

マツダは10年も前にサスティナブル・ズームズーム宣言を行ない、次世代に向けた開発プロセス、つまりロードマップを公表しているのだ。明確なロードマップを公表しているのは、現時点でもマツダだけではないだろうか。では、マツダが考える次世代車へのアプローチを覗いてみよう。

■マツダのビルディングブロック戦略

2007年のサスティナブル・ズームズーム宣言は前CEOの山内孝氏の時代に行なわれ、電気デバイス技術は段階的に実用化するビルディングブロック戦略というスキームを掲げている。

狙いは、CO2削減、燃費向上のために必要な技術を磨くことであり、まず、ベースエンジンを基本とし、電気デバイスには、アイドリングストップ、エネルギー回生、ハイブリッドを内燃機関との組み合わせで、改善していく戦略だ。

自動車業界での課題解決と取り組み
2000年の時点でマツダが考える状況と平均燃費への目標

もちろん、個々の因子での技術開発は必要で、ハイブリッドにおいてもマイルドハイブリッド技術という、欧州で近年普及の始まった技術の台頭など、新しい技術も組み合わされ、より環境に優しいクルマ開発が進められているわけだ。

環境技術の採用拡大展望(〜2020年)
2007年時点での2020年予測

そして2007年の時点で、マツダは2020年を見据えてもベースエンジンの占める割合は大きく、SKYACIV-GやDの実現につながっている。そして、さらなる高効率な内燃機関の開発は続けており、その結果2017年に革新的燃焼技術を持つ、SPCCIのSKYACTIV Xという内燃機関の発表というところまでたどり着く。そして2019年にデビューする。

電気デバイス技術の段階的実用化(ビルディングブロック戦略)
将来を見据え、一歩ずつ階段を昇る戦略

2017年8月にはサスティナブル・ズームズーム宣言2030を現代表取締役社長兼CEOの小飼雅道氏から発表があり、Well to Wheelでの企業平均CO2排出量は、2050年の90%削減を視野に入れ、2030年までに、2010年比で50%削減という大きな目標値が発表された。

Tank to Wheelでの数値目標ではないところも高く評価したいし、ある意味信じがたい数値目標でもあるが、大きな期待が持てる内容ではないだろうか。

「地球」の課題解決のアプローチ
マツダのサスティナブル・ズームズーム宣言2030では、Well to WheelでのCO2削減を謳う

これも、ベースエンジンとなるSKYACTIV-G、SKYACTIV-D、そしてSKYACTIV-Xという3種類のベースエンジンが電気デバイスと組み合わされていくことで、成しえる目標だと思う。もちろん、これらは特殊な高価格帯に設定するグレードではなく、マツダ車全体が高い環境性能を持ち、普及してこその貢献に役立つというポジショニングで進めている。

内燃機関のCO2削減の重要性
マツダは2035年でも内燃機関の搭載車は84%以上と予測している

こうしてマツダの戦略を見ると、目の前の解決すべき問題に対し、どういう技術で対応していくのか明確なロードマップがあり、それは、2030年より先までも内燃機関の高効率化がメインストリームであるという戦略だ。これまで述べてきたことを鑑みれば、地に足を着けた最も重要な戦略だろう。

振り返れば2007年に発表したビルディングブロック戦略というロードマップに基づいて、マツダは着実に低炭素社会へ向けての歩みを続けていることが分かる。また、言うまでもないが、マツダもEV開発は見据えている。具体的にはトヨタ、デンソーとの協業とされる枠組みが2017年8月に発表され、EV.C.A.Spritという会社を立ち上げ、社長はトヨタの副社長寺師氏で、EV開発責任者にはマツダの専務取締役藤原清志氏が就任している。また、マツダの車両開発テクノロジーであるコモンアーキテクチャーを社名にしていることからも、マツダが中心になってグローバル展開のEV開発がスタートしていると伺える。

次回は、各社の低炭素社会に向けての技術的アプローチ、内燃機関への取り組みをお伝えしよう。

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