マツダのクルマ造りへのこだわりを語る会に参加して  レポート:高橋アキラ

雑誌に載らない話vol106
マツダ本社

2014年11月マツダは「クルマ造りへのこだわりを語る会」を開催し、自動車専門誌の編集スタッフを対象に広島本社で行なった。当サイトもこのイベントに参加し2日間に渡り、マツダの想いを体験、学習、勉強、見学してきたので、その内容をレポートしよう。

マツダ勉強会

初日は広島空港から新型デミオに分乗し、テストコースのある三次(みよし)に向かった。デミオには1.3Lのガソリン、1.5Lのディーゼルがあり、今回の全日程で十分な試乗距離を各人がドライブできるようなスケジュールになっていた。それはマツダの現時点での最新モデルであり、マツダのクルマ造りのこだわりが存分に注入されているモデルだからだ。

人間は理想的ではないものにでも適応し、多少の違和感でも、自然に感じられるようにしてしまう、優れた適応能力を持っているという。その理想的ではないものを減らし、少しでも理想に近づけたクルマ造りをしている、というのが今回の主旨であり、実際にドライブして体験するという狙いだ。

ドラポジ
無重力状態での自然な姿勢が理想的なドラポジに近い
ドラポジ
ペダルは拇指球で踏むと正確な操作ができる

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では、どうやって理想に近づけていくのか?というのを三次(みよし)のテストコースで、座学と体験実技をさせてもらった。まずポイントとしては、ドライビングポジションは足首の角度が基本となり、足首の角度を中心に車両によって全体のポジションが決まってくる。もちろん、ペダルレイアウトへのこだわりも、視野の確保へのこだわりもある。それでいて、どんな体格の人でも操作力が出し易い配置にしている。

そしてクルマの操安へのこだわりとしてのポイントは、ダイアゴナルロールを大切にしていることだ。マツダのハンドリングを創る責任者の虫谷氏によれば、「人間も歩行するときにダイアゴナルな動きをしているから、人間と同じようにクルマも動けば違和感は生じない」と説明する。冒頭の「違和感」をもアジャストしてしまう人間の能力の高さを使うことなく、自然と馴染むことになる。そうなれば、当然、楽な移動であり、疲れない、あるいは瞬間的な動きでもサッと動くできることに繫がるわけだ。

走行実験
パワートレーン開発本部の井上政雄氏のレクチャーでテストコースを試走

これらを踏まえ、テストコースで実体験をさせてもらった。ハンドリングではアクセルの踏み方、ブレーキの掛け方でダイアゴナルロールの作り方の基本を、操安ドライバーの井上講師からレクチャーを受け、一般道を走る速度と同じレベルで体験した。車両は現行アクセラと一世代前のアクセラを走らせ、その違いを体験した。

虫谷講座
虫谷講座といわれる虫谷氏のレクチャーはマツダの役員クラスも受講する

そして虫谷氏のレクチャーでは旧型アクセラと現行プレマシーで、操舵ジオメトリーとダイアゴナルロールとの関係性を体験した。速度は15km/hから40km/h程度までだったが、その違いは明白で非常に貴重な体験となった。

テストコース
新旧のアクセラでテストコースを試走し、その違いを教え込まれる

このジオメトリーとダイアゴナルロールについては、以前スバルSTIの開発陣の取材でも、全く同じ話があり、現在市販される国産で気持ちのいいモデルを持つ2社に共通する認識だということも理解できた。

ミュージアム
本社内にあるマツダ・ミュージアムも見学させてもらった

翌日、本社ではスカイアクティブの魅力と、マツダデザイン、そして工場見学というプログラムだった。

すでにスカイアクティブの知名度は高く、「詳しく分からなくても名前ぐらいは知っている」と言う人が多いだろう。そのスカイアクティブの中でも、特にエンジンに関しては注目度が高く、欧州のガソリンエンジンのダウンサイジングコンセプトとは路線を異にしていることも興味深い。

スカイアクティブ
マツダがダウンサイジングではなく、高効率内燃エンジンに力を入れる理由

今回はスカイアクティブ生みの親、パワートレーン開発本部長の人見光夫氏の説明ではなかったが、元エンジン開発の工藤広報本部長からの説明があった。なぜ排気量を小さくして過給器で補う方法を選ばないのか。2.0Lエンジンを1.0Lに下げ、過給器を使った場合と2.0Lそのままのスカイアクティブの燃費性能を見てみよう。

グラフはエンジン単体の燃費で、横軸の0%はアイドリング、100%はフル加速している状態を示している。曲線は下に下がるほど燃費がいいというグラフだ。カタログ燃費の部分ではダウンサイズしなくても、どちらも良好な数値となるが、出力を出す場面、例えばフル加速状態になればダウンサイジングは過給器による燃費悪化は避けられず、反対にスカイアクティブは実用燃費において、燃費改善していることが分かる。

スカイアクティブのメリット

こだわりは実用燃費である。つまり、高速道路や坂道など高出力が必要な場面が多いから、実用燃費のいいスカイアクティブを開発しているのだ。カタログ燃費では最大出力での計測は含まれていない、というのもポイントで、だからマツダがダウンサイジングにシフトしないという主な理由である。

予想
この先も従来の内燃機関が中心となるのは間違いないとマツダは予測している

しかし、この見解は研究者の考えによるもので、われわれユーザーが正しい、間違っているという議論は無意味だ。欧州の研究者の考え方もあるし、マツダ式もあるということだろう。また、自社の特定のモデルだけCO2削減、省燃費としても他モデルが従来のままでは削減効果は小さい。マツダは、全てのマツダ車がCO2排出量を下げ、省燃費となる道を選んでいる。だからエンジン単体だけでなくトランスミッションもボディ、プラットフォームも含め、総合的なすり合わせ技術として、省燃費となるようにしたのがスカイアクティブであり、マツダは企業として大きく舵を切ったといことだ。

モノづくり革新モノづくり革新

ただ、企業側からの視点では、スカイアクティブはダウンサイジングと比較し、技術的課題が大きく、開発コストもかかるというデメリットがある。しかしながら、マツダはダウンサイジングを選んでいない。このあたりにマツダのクルマ造りに対するこだわりを見ることができる。

そして、これらの開発した技術を生産しなければならない。ここでも従来の生産方式ではなく「ものづくり革新」と題してマツダは新たな取り組みをしている。それがコモンアーキテクチャーという考え方で、従来はセグメントごとにハードの共通化は行なわれていたものの、セグメント違いでの共通化は難しかった。そこをセグメントを越える特性の共通化を狙い、開発している。

コモンアーキテクチャー
従来はセグメントごとにハードの共通化を行っていたが、セグメントをまたいでの共通化により、効率を上げるという考え方だ

例えばエンジンを例にすると排気量が違うと全てが異なっていたが、そこを共通のものに変える努力をし、さらに燃焼特性をあわせるキャリブレーションが必須であったものを、スカイアクティブの2.0Lと1.3Lではほぼ同じ燃焼特性を持つように設計する、といった工夫がものづくり革新の一例だ。そして生産部分でもフレキシブル生産とし、同じラインでいろいろなものが作れるように改造したりもしている。

コモンアーキテクチャーエンジン
排気量がちがっても作業用のスタッドボルト位置は共通になり、作業効率が飛躍的にアップする
本社工場
受注を受けた順番に製造されるため、異なる車種がラインを流れる

その実際を工場見学で見ることができた。同一ラインで違った車種を生産し、また作業者が効率よく動ける工夫を工場側が率先して行なうなど、スカイアクティブに賭けるマツダの一体感を感じる見学会でもあった。

前田育男
デザイン本部長の前田育男氏。

そしてワールド・デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、マツダのデザインではデザイン本部長の前田育男氏のプレゼンテーションがあった。

デザインの根底にあるものは、「アートでありマシンである」という目標に向かってデザインしているという。そして具体的なフォルムに対して取り組んでいるのは、「生き生きとした魂の動きつくる」というのが取り組んでいるテーマで「魂動」デザインが誕生している。

タカハシ
樹脂ボディで作られたスタディモデルに座るPタカハシ

前田氏とは次期ロードスターを目の前にし、立ち話をした時に「ドイツ車みたいなデザインには絶対にしない」という言葉印象的だった。それはイタリア車やフランス車にある、柔らかさとそして遊び心がとても好きだという枕詞があっての話だ。

生産拠点
国内での生産は確保しながらも海外生産を増やすという方法で成長するマツダ

こうしてマツダのクルマ造りを語る会を終えると、ハードからデザインに至る開発、研究、そして工場を巻き込んでの生産技術と生産体制の一体感を見ることができたという感想だ。

さらに、マツダは販売に関しても統一したイメージの店舗展開をするなど、マツダの一貫したこだわりは裾野を広げている。こうした状況から、不出来なものはできてこないだろうという想像が容易にできる。CX3、ロードスターとまだまだ魅力的なモデルが出てくるマツダに今後も注目だ。そして、タイ工場、メキシコ工場と海外生産能力を高めながらも、広島の生産量を落とさないという、人への配慮もマツダらしさなのかもしれない。

 

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