マツダの世界戦略車であり、新世代用のスカイアクティブ技術をすべて盛り込み、エンジンからボディ、シャシーまですべてゼロから開発されたCX-5は2012年2月16日に発売された。生産の立ち上がりが遅れたディーゼル・エンジン車も3月末にはディバリーが開始されている。そして3月16日の時点でマツダの発表によれば、約1ヶ月間での受注は約8000台で、4月上旬には1万台を超えているという。しかもその70%はディーゼル・エンジン車だそうだ。
奇しくも1月から販売を開始したBMWのディーゼルモデル X5 35dブルーパフォーマンスもX5全体の受注の70%を占めているという。ここにきて新世代ディーゼルが日本の市場でもようやく認知され始めた気配が感じられる。
CX-5のもうひとつのトピックは、アメリカのIIHS(道路安全保険協会)による衝突安全試験の4種類の試験において、全てで最高評価を受け、「トップセーフティピック」に認定されたことも注目に値する。スカイアクティブ技術の一環としてゼロから開発された新しいボディ構造は、軽量・高剛性という点以外に、衝突安全性能でも良い評価を受け、ボディの性能が実証されたのだ。
また衝突安全性能だけでなく、アクティブセーフティでもDSC(ESP)が全車標準装備、リヤ・ビークル・モニタリングシステム(RVM)、クルーズコントロール、スマート・シティ・ブレーキ・サポート(SCBS)+AT誤発進抑制制御の3点はセーフティパッケージ・オプションで装備でき、価格も7万8750円と安価に設定されている。こうした次世代の安全システムに積極的に取り組んでいる点も評価できる。
CX-5に搭載されるスマート・シティ・ブレーキ・サポートは30km/h以下で、追突などの衝突回避ができるため、ヨーロッパでは保険料が大幅に割引される。そのため、今後は急激に普及するシステムであり、渋滞が多い日本でも有効と思われる。
CX-5の試乗会はこれまでに都内、箱根で行われたが、やはりクロスオーバーSUVはロングドライブで真価が問われるということで、鹿児島空港-指宿の往復で約300kmのドライブを行った。今回の行程はワインディングが20%、高速道路50%、自動車専用道路30%といった割合で、信号のある交差点はきわめて少ない。この行程で、ガソリン・エンジン仕様の20Sとディーゼル・エンジン仕様のXD・Lパッケージを半々で走ることになった。
CX-5のようなクロスオーバーSUVは、着座位置が高めでアップライトな運転姿勢になり、いわゆるコマンドポジションになるが、着座位置が高いということは乗り降りは楽だが、ロングドライブではやはりシートとのでき具合、フィット感が一番問われる。CX-5のシートは表皮の質感が高く姿勢の崩れがなく、クッション材も堅めの仕上がりなのだが、やや前滑り感があり、また尻の沈み込みも予想以上に少なかった。もしかしたら、これは欧米の体重が基準になっているのであろうか。
一方、コマンドポジションに座った視界のよさや計器の視認性、さらにリヤシートに座った時の広々感はこの小型SUVクラスのレベル以上だろう。もっともCX-5は小型SUVクラスとはいえ、全長4540mmはクラス並みだが、全幅が1840mmとヨーロッパ基準だから狭い市街地では十分に大きい。しかしデザイン的に大きさを感じさせないようだ。
インテリアの質感や、細かな作り込みは水準以上で、操作系やスイッチ類も扱いやすい。またラゲッジスペースも、リヤシートを倒すことなく大型セダンクラスと同等の500Lが得られ、たっぷりした容量が確保されているのはSUVカテゴリーでは評価できるところだ。
インプレッション
走り始めて、まず感じるステアリングの操舵感は、箱根での試乗でも感じたように、17インチタイヤ装着車とLパッケージの19インチタイヤ装着車では印象が異なる。17インチタイヤの場合はかなり操舵力が軽く、19インチタイヤでは操舵力、保舵力ともに重みが増す。前者は軽快感、後者はしっかり感といった特徴が出るため、これはユーザーの好みで分かれるところだ。
しかしトータルではCX-5は見た目よりはるかに軽快なハンドリングで、マツダの最近の走りのテーマである統一感のある、意のままの走りを重視しているためだろう。したがって乗り心地もフラット感が高く、全高が高い割りにはロール感も少なく、リニアで長距離ドライブでも乗員の疲労は少ないといえる。乗り心地に関しては、さすがに19インチタイヤでは路面の状態に正直に反応する傾向にあり、17インチタイヤの場合は角が取れている感じだ。
総合的な走りの感覚では、SUVというキャラクターを考えると、もう少し高速直進安定性の方向にシフトさせてもよいと思う。同様に電動パワーステアのアシストトルクが微小舵角でも早めに立ち上がる感じだが、中立の締まり感を強調した方がキャラクターに合っているように感じた。
ブレーキやアクセルペダルのコントロール性はリニアでコントロールしやすく、これらは長距離ドライブでも使いやすいといえる。
↑ドライバーの脚の正面位置に配置されるペダル
FFと4WDの比較では、オンデマンド4WDシステムが採用されているので体感的な相違は少なく、強いて言えば4WDの方が乗り心地や安定感がやや上といったところだ。燃費に関しても4WDの影響は少なく、実用燃費はほとんど差がないはずだ。
エンジンは周知のようにスカイアクティブGのガソリン、スカイアクティブDのクリーン・ディーゼルターボの2種類がある。ガソリンは155ps/196Nmで、2000rpm付近から5500rpmまで大きなトルクの変化がなく、フラットなトルク特性といえる。だから早めにシフトアップした方が燃費は良くなる。加速の場合は3000rpm〜4000rpmのゾーンに入っていればストレスはなく、逆に6000rpmまで引っ張ってもあまり効果はない。
ディーゼル・エンジン搭載モデルは、ガソリンモデルに比べ80kgほど車両重量が増大するが、2.2Lの2ステージ・ターボディーゼルは2000rpmで420Nmとガソリン・エンジンの2倍のトルクを発生するので、動力性能はガソリンに比べれば圧倒的に有利だ。また、低圧縮比の採用と燃焼の改善により、燃焼をより低温で均質に行うことでNOxの発生を抑え、NOx触媒や尿素噴射を使用することなく、ユーロ6、ポスト新長期排気ガス規制をクリアした、世界唯一のディーゼル・エンジンという点でも意義がある。
このターボディーゼルは、もちろんガソリン・エンジンとは燃焼音が違い、独特の味があるサウンドだが、エンジンとしてはなんらディーゼルであることを意識することもなく、2000rpmで巡航ギヤを維持したまま山道を加速しながら登坂できる。つまりアクセルをほんのわずか踏み込むだけで期待以上の加速が生じるので、上り坂や高速巡航でもとにかく楽なのは420Nmという大きなトルクのおかげだ。低回転で大トルクが出るため、当然燃費もガソリンモデルに比べて10%は上回るのだ。
アイドルストップはガソリン・エンジン、ディーゼル・エンジンのいずれも車両が停止すると即座にエンジンが止まり、再始動も素早いのでストレスは感じさせなかった。
購入を検討している人にとってはガソリンか、ディーゼルか?は悩むところだ。ガソリン・エンジンとディーゼル・エンジンの価格差は約30万円で、これは通常の価格差より小さく、マツダの戦略的な価格設定だそうだ。エンジンの選択はダイナミックな走りを重視するかどうかで、決めるべきだろう。
今回のドライブは高速道路やワインディングが多い自動車専用道路がメインのルートで、特にエコランを意識することなく同じような速度で走った結果、平均燃費はガソリン・エンジン車が12km/L、ディーゼル・エンジン車は13km/Lだった。
CX-5で長距離を一気に乗ったフィーリングは、乗り心地にふわつくような感じがないことや、操作類が自然なこともあり、疲労感が少ない。つまりは走りや操作類のバランスが良いと感じられた。またCX-5というクルマ全体の印象は、海外のマーケットを強く意識した作りだが、走り、ユーザーインターフェースなど基本要素を重視しただけあってパッケージ、走り、乗り心地などの点でバランスが優れており、価格と装備などを考えるとコスト・パフォーマンスが優れたクルマと位置付けることができる。