マツダからついに、待望のフルスカイと呼ばれているスカイアクティブ・テクノロジーがすべて網羅された新世代モデルが誕生した。つい先月のドイツ・フランクフルトモーターショーでワールドプレミアされたマツダCX-5である。モデルはSUVカテゴリーに属し、大きさはCセグメント。つまりコンパクトサイズのSUVである。
国内導入のモデルラインアップは未発表だが、お披露目された欧州仕様には2.0Lのガソリンモデルと、2.2Lのディーゼルターボがある。組み合わされるミッションは6MTと6AT。この欧州モデルを2011年9月下旬のある日、国内で試乗する機会に恵まれた。フルスカイと言われるそのモデルの仕上がり具合は気になるところだ。
フルスカイの第一印象は操作フィールの軽さ
最初に試乗したのは、2.0Lのガソリンエンジンを搭載したSKY-Gモデル。先にデビューを果たしたアクセラのマイナーチェンジで搭載されたエンジンであるが、CX-5には当初から計画されていた4-2-1排気レイアウトを持つエキゾーストマニホールドが付き、エンジン面でも初のフルスカイGである。
6速ATミッションも新開発のスカイアクティブ・ドライブで、トルコン領域を極力減らし、全速でロックアップを導入している。その結果、マニュアルと同じようなダイレクト感が得られ、DSGのようなクイックなシフチェンジが可能となり、そしてCVTのように燃費がいいという、いいとこ取りを謳った自慢のミッションと組み合わされている。なおエンジンのSKY-G、SKY-Dについては別項(Automobile Study Group)にてレポートしているので、そちらも参照してほしい。
SKY-Gの試乗車はFFモデルでタイヤは225/55R19、TOYOのプロクセスR36というサイズ・銘柄が装着されていた。運転席に座り、眺めてみると、インテリアの造り込みはまだ完成しておらず、ダミーのナビモニターやダッシュボードまわりも材質もダミーのまま。さらにステアリングも最終仕様ではないので、プロトタイプであることが改めて確認できた。
動き出して最初に感じたのは「軽い!」という操作フィールだ。エンジンを始動し、ギヤをドライブに入れてほんの数メートル転がしただけで、軽さを感じた。そう感じさせる一番の要因はステアリングのフィールで、ピットロードへ出る時の操舵で感じた。アクセルペダルはオルガンタイプだが、軽めのタッチでもエンジンが反応して動き出すので気持ちがいい。車速が上がってくるとステアリングの操舵感もしっかりとしてくるので、車速に応じたチューニングができていることがわかった。
非力さもクセも感じない。パドルシフトは熱望
アクセラよりも車重が重いと思われるCX-5であるが、エンジンのフィーリングは非力には感じない。それどころか、4-2-1排気レイアウトの影響からか、中速域でのトルクはかえって増しているように感じた。燃費と走りのバランスを狙ったガソリンエンジンであり、これでリッターあたり20数キロという数値であったら、驚きである。
スカイアクティブ・ドライブといわれるミッションは、シフトアップ&ダウンの変速はすばやく、トルコン領域を感じることはない。唯一、発進時の滑らかさがトルコンである証なのかもしれない。ただし6500rpmのレッドゾーン近くになると、シフトチェンジからダイレクト感が失われ、若干のタイムラグが生じていた。このあたりは制御技術で解決できる領域なのだろう。また、プロトタイプのためか、実際に装備されないのか? は不明だが、パドルシフトは欲しいところだ。
このスカイアクティブ・ドライブというATミッションの特徴のひとつは軽量コンパクトなこと。搭載可能な車種展開を考慮しての設計と言える。さらに、通常は49%がトルクコンバーターの領域で、51%がロックアップ領域というのがこれまでのATミッションであったが、今回は82%までロックアップ領域を広げている点が最大の特徴となる。
これだけレスポンスの良いシフトチェンジができるのであれば、パドルシフトが多くのユーザーに支持される装備になるだろう。もっとも当然の装備と考慮されている可能性もあり、今回のプロトタイプには装備されていなかったとだけと付け加えておく。ちなみにダウンシフトの時にブリッピングもしてほしいとは、欲を言いすぎなのだろうか…。
実はピットロードでお気に入りを最終決断
そして注目のディーゼルでの試乗である。こちらも19インチでガソリンモデルと同じタイヤであり、ミッションもアクセラと同様に6速AT(ただしより大容量かも)で、4WDであった。マツダの人に案内され、乗り込んでエンジンをスタート。「ん !? これディーゼルか?」とクランキングから始動までの一連の流れで疑問を持った。もちろんディーゼルモデルで間違いない。それほど静かなのだ。この静粛性はなにも室内の吸音がすばらしいだけではなく、外で聞いていてもディーゼルをあまり感じさせない静粛性を持っていた。
走り出して、すぐに度肝を抜かれることになる。トルクが太く、実にパワフルに感じる。そしてエンジン回転の上がるスピードも軽快であり、だから加速がよいのだ。ピットロードを出てコースインするまでのわずかな時間で、ガソリン車よりこのディーゼルの方が良いフィーリングだとジャッジしてしまった。
エンジンは5200rpmまできっちりと回り、どの回転域にあっても即座にレスポンスする。これまでのディーゼルとは明らかに違った反応だ。回転が上がっている時のエンジン音こそ、ディーゼル特有のサウンドであるが、決してノイジーではない。力強さを感じさせるサウンドとでも表現するのだろうか。そう感じさせる要因は、やはりレスポンスの良さだと思う。まるでガソリン車のようにアクセルに反応し、気持ちよく回転が上がる。そしてパーシャル操作にもキチンと反応するので、これまでのディーゼルのネガな部分がまったくと言っていいほど顔を出さないのだ。
プラグのないディーゼルでi-stopを可能に
もうひとつの特徴はディーゼルでもアイドリングストップ機能が付いている点である。ガソリン車はこれまでi-stopがあったように、このCX-5にも搭載されている。しかし点火プラグを持たないディーゼルでは、技術的に同じようにはできない。ガソリンエンジンは点火プラグによる燃焼始動を行っているが、ディーゼルでは自己着火であるために燃焼始動ができず、スターター始動になる。そしていかにトルクを立ち上げて、着火につなげ、そしてメイン燃焼へともっていくか? がディーゼルでもi-stopを可能にするポイントだ。
そこには低圧縮燃焼始動という高い壁がある。それを越えるためには、いかに圧縮行程の直前でエンジンを止めるか? ということがポイントになり、膨張行程、停止位置を制御するソフトでピストンをコントロールすることになる。具体的にはエンジン停止直前にオルタネーターとスロットルバルブで負荷をコントロールし、4気筒のうち、どこかの気筒が圧縮行程になるようにコントロールして止めている。つまり、スロットルを開いて空気を入れてピストンを押し下げる…という制御を行うことで、i-stopが可能となったわけだ。
実車ではエンジン停止、再始動の時の振動がガソリンエンジンよりは大きいが、ディーゼルであることを考えれば当然の許容範囲だろう。また、i-stop中にステアリングを回すような負荷をかけると、フットブレーキを離さなくても再始動するあたりは、i-stopをいち早く取り入れたマツダならではのデータの蓄積が反映されている。
ハンドリングには電動パワステの成熟も貢献
ハンドリングは実にナチュラルでスムーズである。これはガソリンでもディーゼルでも同じ印象だ。さらに、FFなのか4WDなのかが、わからないほど同じようにコントロールしやすい。
直進安定性も高く、また車線変更での収まりも早い。スカイアクティブ・シャシーではフロントのストラットのキャスター角を7度に設定し、直進性を高めている。多くのFFモデルの場合、1度〜4.5度程度までが平均的な数値というから、CX-5は大幅にキャスター角を付けていると言えるだろう。キャスター角を増大させると直進安定性の向上だけでなく、操舵時の対地キャンバー変化を小さくすることができるのだ。
小舵角時の反応もリニアであると感じられた。そしていきなりヨーを感じるというものではなく、わずかなロールを感じるので、これからコーナリングをしていくという準備ができる。徐々に切り増し、ロールもゆっくりしていくが、ロール速度も安定している。そしてある時点でヨーも感じられるようになり、そこからは、今度はヨーモーメントを強く感じられるように変化をするので、ドライバーは旋回をイメージしやすい。とりわけ、リヤの外側のストロークの長さを感じるので、接地感が継続して伝わり、より安心感を持つことができた。
このような良好なフィーリングをもたらしている理由としては、操舵をコラムでアシストするタイプの電動パワーステアリングが採用されていることが挙げられる。その制御はすばらしいの一言だ。さらに微低速時の軽い操舵に対し、車速に応じて操舵感が増すので安心できる。
SKYテクノロジーでの“ボディ”の重要度を実感
またスカイアクティブ・ボディでは、リヤのトレーリングアームの前側取り付け部を現行アクセラと比較すれば43mmも上部に取り付けられるようにボディを設計変更している。これにより、リヤタイヤへ斜め後方の入力に対して、サスペンションがいなす動きやアンチリフトの特性を強化することが可能になったということだ。さらにその取り付け部のブッシュにおいてもすぐり角を変更し、入力側と入力を受ける反対側ではブッシュ硬度も変更しているという。
ステアリング自体のレシオもクイックな方向には設定しているものの、ヨーモーメントが出たり消えたりしないように、また、ロール中にヨーが出るとロールが消えてしまうというような慣性力に変化が起きないように、常に弱ダイアゴナル特性となるように、開発を進めてきたということだ。さらにコーナリングで必要なトルクフィードバックを与え、ヒステリシスも与えることによって、切り戻しもナチュラルにしているという。実際の試乗でも、ステアリングの切り込みに対するクルマの反応はもとより、ステアリングを戻す時のクルマの素直な反応は感じることができ、気持のよいコーナリングへとつながるわけだ。
このスカイアクティブ・ボディは構造を抜本的に見直して、最適化を目指したという。それは高剛性・軽量化が基本で、材料では高張力鋼板を多用しているのが特徴だ。現在、具体的に明かされているのは1800Mpa級の高張力鋼鈑を、フロントおよびリヤバンパーの内側に採用し、衝突時に受けるダメージを低減させるバンパービームの形状を新たに開発している。
従来の部材と比較し、強度で約20%高く、重量は4.8kg軽量になり、オーバーハング部に使われる部材の軽量化はハンドリングにも好影響を及ぼしている。また、ボディへの入力に対し、ストレートにパワーが伝わるように骨格のレイアウトには角度をできるだけつけないように設計し、可能な限りストレートにする設計が中心となっている。
アクセルとブレーキでも曲がれるクルマだった
今回のディーゼルモデルの試乗で特に気に入ったのは、旋回中にクルマの姿勢をコントロールする術として、ステアリング操作以外にアクセルとブレーキも自在に使えたこと。つまり、ブレーキをジワリと抜くことができるので、ブレーキを引きずりながらコーナーへ進入でき、ブレーキの強弱で進行方向をコントロールすることができるのだ。さらにアクセルワークでも、パーシャルスロットルに素直に反応するので、走行ラインをアウトやインへと動かすことができるのだ。つまり、一定のGがかかった状態を持続させやすく、その状態でのコントロールが容易であると感じるのだ。
言い換えれば、コーナリングをステアリング/ブレーキ/アクセルという3つの異なった性能を司るものでコントロールできるので、非常に安心してコーナーに飛び込んでいくことができる。だから、開発のキーポイントであったドライバーとクルマとのコミュニケーションという点でも、見事にその開発意図は達成されていると納得できた試乗だった。
■マツダCX-5欧州仕様・主要諸元
●ディメンション:全長×全幅×全高=4555×1840×1670mm/ホイールベース=2700mm/最低値上高=215(4WDは210)mm ●エンジン:直列4気筒ガソリンまたはディーゼルターボ(別項参照) ●トランスミッション:6速マニュアルまたはオートマチック ●サスペンション(前/後):ストラット/マルチリンク ●タイヤサイズ:225/65R17(225/55R19はオプション) ●乗車定員:5名
文:編集部 髙橋 明