【マツダ】G(ガソリン)の次はD(ディーゼル)。スカイアクティブ・エンジンの両輪が出そろった!

2011年9 月のフランクフルトモータショーでの日本車ワールドプレミアで、注目のエンジンもデビューを飾っている。国内でも市販間近のマツダCX-5に搭載された略称、“SKY-G”と“SKY-D”だ。とくに後者は、スカイアクティブでは初のディーゼルということで興味は尽きない。まずは両輪が出そろった時点での、スカイアクティブ・エンジンについての検証をお届けしよう。

ダウンサイジングとは異なる方向性

地球温暖化を抑制し、環境を守る対策として自動車のエンジンに求められている要素は、省燃費と低CO2排出であり、ディーゼルエンジンにおいてはPM(粒子状物質=すす)やNOX(窒素酸化物)の削減もそれに加わることは言うまでもない。それに向けて、欧州の自動車メーカーの多くはダウンサイジングという手法を取ってきているのは周知のこととを思う。これに対してマツダはダウンサイジングではなく、独自の理論でエンジン開発を進めてきている。それがスカイアクティブ・エンジンだ。

従来の内燃機関=エンジンでは、燃焼効率という点で10%〜30%程度の効率しかないという。これは多くの内燃機関を研究している人たちの間では常識とされているわけだが、その効率をより良くできれば省燃費はさらに進み、同時に排出ガスなども改善されるというわけだ。

その効率の悪さには排気損失、冷却損失、ポンピング損失、機械抵抗などの要素があると教科書には書かれている。ならば率直に、それらの損失をできることから減らしていけば、徐々にではるが燃焼効率は向上するということで、人見光夫パワートレイン開発本部長をはじめとするマツダの開発スタッフたちが取り組んだのが、「ガソリンは高圧縮、ディーゼルは低圧縮」にするという方向性だ。

ガソリンとディーゼルの圧縮比が同じだなんて…

より具体的な数値を示せば、ガソリンでは圧縮比を14にまで上げて、ディーゼルも14にまで下げるというもの。そして、その両方を実現したエンジンを搭載しているのがブランニューのマツダCX-5ということになる。それでは、それぞれをチェックしていこう。

↑CX-5に搭載されるガソリンエンジンのスカイアクティブ-G 2.0

まずCX-5に搭載されるSKY-Gの排気量は2.0L。すなわちアクセラに搭載されたユニットと基本的に同じである。ガソリンエンジンの場合、国によってオクタン価が異なり、欧州ではオクタン価が95のため、圧縮比は14:1になっている。日本国内ではレギュラーガソリンのオクタン価が91であるため、13:1となっている。ディーゼル(軽油)では国による数値の違いがないということで、14:1の圧縮比のままグローバル展開されるということだ。

ガソリンエンジンの燃焼改善のために取られた方策、すなわち高圧縮化であるが、高圧縮にするとノッキングやデトネーション(異常燃焼)が起こる。その問題を解決するために、ひとつにはキャビティピストンの採用があり、燃焼速度を上げることでデトネーションやノッキングを防止している。そして13G(デミオ用)と同様に自己着火を遅らせるためにクールドEGR(水冷クーラー付きEGR)を採用している。

 

↑デミオの1.3Lエンジンと同様、キャビティ型のピストンが採用されている

 

↑クールドEGRも写真のデミオと同様、採用している

シリンダーヘッドは吸気カム側に電動式の可変バルブタイミング、排気側に油圧式の可変バルブタイミング機構を取り入れ、軽負荷時には吸気バルブの遅閉じを行い、同時に排気バルブの遅閉じとすることで内部のEGRを制御し、スロットル開度を大きくしてポンピング損失の低減を狙っている。またエンジンの負荷が増大すると吸気カムは瞬時に進角して早開き、排気の遅閉じとなる。

 

↑バルブの遅閉じの制御がスカイアクティブでは重要だ

さらにCX-5では、排気を4-2-1というレーシングカーなどで採用されるエキゾーストレイアウトとしている。これはマイナーチェンジというスペース上の制約もあって、従来通りの排気系となったデミオやアクセラとは異なるところだ。これにより掃気効果と排気干渉を抑えることができ、結果として燃焼室から熱い燃焼ガスを吐き出し、吸い出せるので、燃焼室温度を下げての高圧縮化が実現している。

 

↑今回のCX-5で初めて採用された排気の4-2-1レイアウト

低圧縮のデメリットを解消するSKY-Dの隠し技

一方で、SKY-Dの排気量は2.2L。この新型ディーゼルエンジンでは、燃焼タイミングを見直すことで低圧縮化を実現している。低圧縮化すると、前述の環境への影響を低減できること以外にも、構造体の強度にマージンができるので、ブロックやヘッド本体の軽量化も可能となる。さらに動弁系もコンパクトにできるため、軽量化につながるわけだ。

↑CX-5に搭載されるスカイアクティブ初のディーゼルエンジン

ただし、低圧縮にするとディーゼルの場合、問題となるのが自己着火性が落ちるため、エンジンが温まっているときはさほど問題にはならないが、冷間時に燃焼しにくくなってしまう。そのため低圧縮には手を出しにくいと言えたわけだ。

しかし、この問題をマツダSKY-Dのブレークスルーでは、圧縮行程のときに、排気バルブを少しリフトさせる。そうすると排気ガスが逆流をし、燃焼室内の空気を暖めておくことができ、冷間時でも温度を上げた状態での着火というのを可能にしたわけだ。その結果、この可変バルブタイミング機構は低圧縮のデメリットを解消し、軽量、コンパクト化したディーゼルエンジンは、高回転化も可能になる。従来、ディーゼルエンジンは4500rpm程度が限界とされていたが、今回のCX-5のSKY-Dは5200rpmを実現している。

ツインステージターボの制御が大きな壁だった

また、ハイライトのひとつにツインステージターボがある。これは大小2つのタービンがあり、低速域側と高速域側を担当している。そして、制御の切り替えで片側ずつ、あるいは両方のタービンで過給することで全速域でのパワー&トルクを確保する仕組みである。概念的にはこのような仕組みなのだが、実際の制御は複雑で、燃費が悪いとか、レスポンスが悪いなどの弊害の方が多く、その制御は難しいとされてきたが、これをブレークスルーしている。

 

↑ディーゼル+ツインターボ仕様のSKY-D

吸気ではダウンフェースの空冷式インタークーラーを採用し、充填効率を高めている。また圧縮比が低いために、燃焼温度のベースが低く、大量のEGRを吸うことができる。つまり、低温燃焼になると燃焼自体が急速燃焼から緩慢燃焼になり、そのためPMは少なくなりNOXの発生を防げることになる。そして燃焼室内の温度が低いため、自己着火性は悪くなるが、可変バルブ機構で冷間時の燃焼を促し、通常燃焼へと導いている仕組みになる。

この仕組みとするために燃料の吹き方にも工夫がある。これはマルチホールのピエゾインジェクターで噴射圧は2000barである。ちなみにマルチホールの数とマルチ噴射の回数は公表されていない。その結果、NOX吸着触媒とか尿素水溶液とかの後処理システムを必要としないで、ユーロ6、ポスト新長期規制をクリアできるディーゼルエンジンが誕生したのだ。

ディーゼルへの悪しき誤解は見直すべき

スカイアクティブ・ディーゼルエンジンを搭載したCX-5の試乗フィーリングは別項(マニアック評価シリーズ)を読んでいただくとして、国内導入については不明だ。

SKY-Dはユーロ6/ポスト新長期規制に対し、技術的にいくつかのブレークスルーがあって実現したエンジンであり、われわれ一般ユーザーもディーゼルへの誤解を捨て、早く目を覚ます必要はあるだろう。

●CX-5エンジン主要諸元(欧州仕様)

 

文:編集部 髙橋 明

関連記事:【マツダ】 デミオがマイナーチェンジ SKYACTIVエンジンは30km/L

マツダ公式Web

COTY
ページのトップに戻る