この記事は2020年8月に有料配信されたメルマガを無料公開したものです。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で自動車の開発、生産、販売に大きなダメージを与えている。しかし、それでも新型車の発売スケージュールは着々と進んでいるのも事実だ。そして2020年後半に登場する新型車には注目すべき新技術があるので、今回はその技術を取り上げることにしよう。
新型レヴォーグのADAS
2020年秋に発売するスバルの新型レヴォーグには、高速道路、自動車専用道路での手放し運転が可能な高度運転支援システムが、日産に続いて俗称レベル2.5を採用する。(正式にはレベル2)
俗称の「レベル2.5」と呼ばれる高度運転支援システムは、高速道路、自動車専用道路では手放し運転が可能となる。これはドライバーは常に交通環境を注視している必要があり、テレビや動画を見たりするなどよそ見は許されないのがポイントだ。
なお現在、このレベル2.5の高度運転支援システムが法的に認可されているのは、日本とアメリカだけで、その他の諸国では、ドライバーはハンドルを握っている義務がある。
新型レヴォーグは従来のアイサイト ツーリングアシストの機能をさらに拡張し、側方、後方をカバーする4個のミリ波レーダー、GPS衛星からの位置情報と高精度デジタルマップによる位置情報を利用することで、高速道路、自動車専用道路での手放し運転を実現する。
GPS情報システムは三菱電機製、高精度デジタルマップはゼンリン製が予想され、システム構成は日産のプロパイロット2.0とよく似ている。
ただ、従来からのアイサイトの技術の蓄積があるため、ステレオカメラによる走行車線の検出や、前方のクルマや障害物の検出精度の良さが手放し運転時にどのように反映されるかが注目される。
新型レヴォーグのインナーフレーム構造
目に見えない、ある意味で地味な注目技術として、新型レヴォーグが採用するインナーフレーム構造も特筆すべきだろう。
ボディ構造の手法として、日本では長らくユニット構造が採用されてきた。ユニット構造は、プラットフォーム(フロアパネル部)、フロント フレーム、大型のボディサイド、ルーフ、リヤボディなどをプレスで成形し、最終的にスポット溶接で組み立てるという構造だ。
こうした構造は、時々モノコック構造と呼ぶことがあるが、ボディ各所から様々な局部的な入力が加わる自動車のボディは、航空機のように外壁で剛性を保つモノコック構造は最適ではなく、大きな入力を受け止める骨格部が必要であることと、できるだけ大きなユニットを成形することで溶接組み立ての工数を減らすためにユニット構造が採用されているのだ。
しかし、一方でヨーロッパ車はプラットフォームをベースに骨格部を先に組み立て、最後にボディのアウターパネルを溶接するインナーフレーム構造が主流になっている。そうしたインナーフレーム構造では、骨格部の組立時に重要な部分にスポット溶接を自由に行なうことができ、強度や剛性を高めやすく、後付けの補強追加など無駄を省くことができる。
従来のユニット構造では、パネルと骨格部が一体になったユニットのため、骨格部に思い通りにスポット溶接ができない部分が発生する。そのため、トヨタの上級モデルではスポット溶接の追加が不可能な場所には小型でフレキシブルなレーザースクリュー溶接を使用している。
スバルは2010年代頃から導入を検討し、2019年にアメリカ・インディアナ工場で生産が開始されたアメリカ仕様のレガシィ/アウトバックで初めてインナーフレーム構造を実現している。そして、日本の群馬工場の組立ラインも大幅に変更し、新型レヴォーグからインナーフレーム構造が採用されることになったのだ。
インナーフレーム構造は、最初に組み立てる骨格フレームの精度を高めることが重要で、その骨格フレームにアウターパネルを溶接する工程のため、より理想的な骨格を作ることができ、入力を受け止める骨格部分だけでなく、ボディ/キャビンの剛性感も高めることができるのだ。
つまり、走りの質感、ドライビング プレジャーなど数値で表現できない走行フィーリングの向上に大いに効果が期待できるわけだ。
日本車では、ホンダがいち早くインナーフレーム構造を実現した。初代N-BOXから始まり、それ以降のクルマはインナーフレーム構造を採用している。
実はトヨタもTNGAの導入時にはインナーフレーム構造の導入を検討したが、大規模な組立ラインの再構築が必要など様々な事情で導入を取りやめている。
ホンダのレベル3自動運転
ホンダは、2020年後半にレベル3の自動運転システムを搭載したモデル、おそらくレジェンドを発売する予定だ。レベル3では、高速道路、自動車専用道路では自動運転システムを起動して走行可能となる。
レベル3の自動運転システムでは、ドライバーは常に交通環境を注視している必要はなく、本を読んだり、テレビを視聴することも可能だ。このように限定された道路ではドライバーは運転はもちろん、周囲の交通環境を注視することからも解放され、クルマに搭載したシステムが運転を行なうため、条件付自動運転と呼ばれる。
ただし、自動運転システムでは対応できな状態が発生した時は、システムが警報を発し、ドライバーが運転を引き継ぐことになっている。車載のドライバーモニター カメラはドライバーが運転を引き継ぐことができない状態、例えば居眠りしているような場合、クルマは自動的に路肩に停止することが求められる。
こうしたレベル3の条件付きの自動運転は、現状では世界で唯一日本で法的に認可されるのだ。
もともと、ホンダは2020年7月頃に行なわれる予定だった、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、東京・臨海地区の公道を使用した大規模な実証実験でデビューする計画だったが、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響で、公道での実証実験は延期されている。
ホンダのレベル3の自動運転システムがどのようなものか、情報はほとんどないが、常識的に考えて複数のミリ波レーダー、カメラに加えて、GPSによる位置情報、高精度デジタルマップ、さらにLiDAR(ライダー:レーザー光による測距と障害物画像検出)を装備しているものと推測できる。
LiDARを装備しているとすれば、アウディA8に次ぐ世界で2番めのLiDAR装備の量産モデルとなる。
内閣府の公道での実証実験では、通常の交通状況の中でレベル3の自動運転車が走行することで、周囲の普通のドライバーが運転するクルマがどのような反応をするかや、通常の交通状況の中でレベル3の自動運転車がスムーズに走行できるかなど、リアルな環境での貴重なデータが取得できるはずだった。
もちろん、ホンダ独自の公道での実証実験は十分に行なわれているはずだが、それはホンダの専門のドライバーが乗車しての走行であり、一般のドライバーが乗った状態での、そのドライバー心理や、周囲のクルマの反応といったデータは欠けた状態で発売を迎えることになるのだろう。
「レクサス チームメイト」を搭載する新型レクサスLS
ビッグマイナーチェンジするレクサスLSは、2020年初冬に発売予定と発表されている。このLSにはレクサス初となる「レクサス チームメイト」を搭載する。「レクサス チームメイト」に関する詳細な説明は現時点では未発表だが、高速道路、自動車専用道路での手放し運転可能なシステム、つまりレベル2.5を意味していると考えられている。
しかし、新型LSは従来からのカメラ、ミリ波レーダーに加え、前後左右に4個のLiDARを装備している。4個ものLiDARを装備する量産モデルはもちろん世界初である。
LiDARはミリ波レーダーや、カメラより詳細で鮮明な物体が昼間だけでなく夜間でも検出可能であるが、コスト的には現状ではミリ波レーダーやカメラより遥かに高い。このLiDARを4個も装備する意味は、どう考えてもレベル3以上の自動運転を想定しているはずだ。
もちろん発売時点で「レクサス チームメイト」は、レベル2.5にとどまると見られているが、ソフトウエアをアップデートすることでレベル3のシステムにすることも可能になっているところが注目点だ。
ホンダと同様に、このレクサスLSも東京・臨海地区の公道を使用した大規模な実証実験に参加し、レベル3の自動運転を行なう予定だった。
「レクサス チームメイト」の技術的な骨格は、シリコンバレーにあるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)、トヨタ、デンソー、アイシン精機の合弁会社のトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)発のテクノロジーであり、TRI-ADが取りまとめている「ハイウェイ チームメイト」がベースとなっているはずだ。
レベル3まで拡張可能な運転支援システムは、自動運転に対応できる能力を持つシステムECUが搭載されているのがレクサス LSの最大にアピールポイントで、どのタイミングでレベル3の自動運転に切り替えるのかが注目される。