2018年5月10日〜13日、ドイツ・ニュルブルクリンク・サーキットを舞台に、恒例のニュルブルクリンク24時間耐久レースが開催された。日本からはGAZOOレーシングのレクサスLCプロトタイプがSP-PROクラスで、スバルはWRX STIをSP3Tクラスで、純プライベートのノーベル・レーシングが2台のレクサスで出場している。
今回の24時間レースのエントリー台数は2017年の161台から11台減り、全22クラスで計150台、レース出場は147台となった。総合優勝を争うSP9(FIA-GT3)クラスには前年とほぼ同数の29台が出場した。
内訳は、ポルシェ911 GT3 Rが8台、アウディR8 LMSとメルセデスAMG GT3が各7台、BMW M6 GT3が5台、ランボルギーニ・ウラカンGT3とフェラーリ488 GT3が各1台という顔ぶれで、いずれもカスタマー・レーシング、つまりユーザーチームという位置付けだ。が、連覇を狙うアウディに加え、ポルシェが本腰を入れて出場している。
■ポルシェがカムバック
ポルシェは数年前の911GT3 Rハイブリッドの出力を規制する同レースのレギュレーションに反発し、それ以降はワークスチームは関与せず、純プライベートチームの参戦にとどまり、その間にアウディ R8 LSMやメルセデスAMG GT3が優勝をもぎ取っていた。しかし、今回はポルシェ・ワースが開発・熟成に力を入れ、カスタマー・レーシングとはいえ準ワークスチームのマンタイ・レーシングを筆頭に、戦力をアップした911 GT3 Rが優勝を狙ってる。
公式予選では、ポルシェ911 GT3 R勢が猛威を振るい、マンタイ・レーシングの911号車を筆頭に、1〜3番手を独占した。ついで、メルセデスAMG、アストンマーチン・バンテージGT3が入っている。
今回のニュルブルクリンク、『第46回ADACチューリッヒ24時間レース』は5月12日、現地時間15時30分に21万人のファンが見守る中、決勝レースがスタートした。今回からは3グループに分かれてのローリングスタートとなった。
レース序盤は、ポルシェ911 GT3 R、メルセデスAMG GT3が接戦を演じ、それをアウディR8 LMSが追いかけるという形になった。そして天気予報どおりに夜半に雷鳴が響き、雨が降り始めた。その後も弱まったり強くなったりと雨の様子は変化したが降りやむことはなく、夜が明けてからもウェット路面が続いた。ポルシェのエースカー911号車は夜半にスピンしてガードレール衝突してしまう。これでトップに立ったメルセデスAMG(4号車)、追撃する6番手からスタートした911GT3 R(912号車)の2台はウエットでも圧倒的な速さで後続を引き離す。しかし912号車は軽い接触やペナルティの影響で4号車を捉えられない。
天候はさらに急変し、13日の午後には濃い霧がコースを覆い、ゴールまで3時間半を残してついに赤旗が振られレースが中断した。この中断は2時間に及び、残り1時間半の時点で、強い雨の中、ローリングスタートによりレースは再開した。この結果、メルセデスAMG 4号車に遅れを取っていた912号車が4号車との差を縮めることができた。
そして、ドラマはまたもや決勝レースの終了間際に起きた。先行するメルセデスAMG 4号車に迫ったマンタイ・レーシングの912号車は、23時間を過ぎた時点で南コースのホームストレート・エンドで勝負をかけた。コーナー出口で2台は接触し、4号車がハーフスピンをする間に912号車はトップに立ち、その後は26秒の差をつけてゴールを迎えた。優勝した912号車から3位のメルセデスAMG 5号車までが135周の周回数だった。
なお、最新スペックのマシンを得て、予選で2番手につけたファルケン・モータースポーツの911 GT3 Rは、ドライ路面では上位につけていたが、雨が降り出すとずるずる後退し、9位に終わった。
■レクサスLCは傷だらけの完走
GAZOOレーシングのレクサスLCプロトタイプは、今後の市販モデルの先行開発のために製作され、エンジンは5.0LのV8(2UR-GSE型)をチューニングしてパワーアップ、フリクションの低減を行ない、パドルシフト式シーケンシャルMT、ボディの軽量化(1380kg)と高剛性化、ドライバー支援システム、先行開発のサスペンションを備えたプロトタイプだ。
パフォーマンス的にはSP8(GT3)クラスに匹敵するが、エントリーはただ1台のSP-Proクラスのためライバル不在だ。このLCプロトタイプは、日本での開発テスト、ニュルブルクリンクのVLNレースへの出場などを経て本戦に望むという周到な準備を整えている。ただし例によってメカニックは社員で、チーフメカニックも凄腕技能養成部員が担当するなど、あくまでも高性能市販モデル開発のための経験を得るための参戦だ。ドライバーは土屋武士/松井孝允/蒲生尚弥/中山雄一の4名体制としている。
予選は8分34秒591を記録し、総合32位となった。トップ30はGT3クラスで、それに肉薄するタイムである。決勝ではスタート直後に他車と接触し、その後も深夜までパワートレーン、ブレーキ、タイヤ、電気系などのトラブルが相次いで発生し、その都度修理が行なわれ、一時はコース上でストップしてしまった。だが、なんとかピットに戻り、レースに復帰。その後は大きなトラブルなく周回を重ね、97周を走り総合96位で完走した。
■予想外のトラブルに遭遇したスバル WRX STI
スバル WRX STIが出場する2.0LターボのSP3Tクラスは、メーカーの支援を受けるアウディ TT RS 2.0など強力なライバルが存在するが、今回からアウディの力点はTCRクラスのRS3 LMSに移った。TCRカテゴリーは2.0Lターボ、車重1285kgのFF車で330ps、410Nmの出力を持つが、ボディワークはレース用にメーカーで開発されているため、SP3Tクラスより速い。
また、最大のライバルのアウディTT RS 2.0は予選中に大クラッシュし、結局決勝レースには出場できなくなった。このためスバルのライバルは純プラベートチームのゴルフ7 TCR、セミワークスのオペル・アストラの2台のみとなるという幸運に恵まれた。
しかし、WRX STIは予選2回目にパワーステアリングの高圧側オイルホースが抜けるというトラブルが発生し、2回目はほとんど走行できない状態だった。結果的に予選は9分7秒581で、総合では50番手、SP3Tクラストップとなったが、目標の9分切りは実現できなかった。ただし、ドライバーのカルロ・バンダム選手によれば、もう少しコース・コンディションが良ければ9分を切ることはできそうだという。
決勝ではスタートグループ3のトップのポジションからスタートとなり、混戦を避けられ好調な展開となった。しかし2スティント目で早くもトラブルが発生した。今度はパワーステアリングの低圧側のホースが脱落し、その結果修理に50分間を要した。
その後は順調に走行を続け、深夜に雨が降り出した10時間目にクラストップのポジションに復帰した。13日の昼頃から濃霧によりレースが中断。レース再開後に再びトラブルが発生した。エンジンがばらつくトラブルだ。このためピットでエンジンルームの電気系部品を片っ端から交換する作業となったが、ゴールまで後22分というタイミングでコースに復帰し、112周を走って総合62位、SP3Tクラスの1位となった。
本来、ノートラブルであれば総合20〜25位あたりに位置できるはずだったが、2度のトラブル発生により従来より大幅に下位に沈んでおり、後味の悪いレース結果となっている。パワーステアリングホースの脱落は通常ではありえないトラブルだし、雨天走行での電気系のトラブルも十分に事前に対策できる内容で、今後に課題を残したレースとなった。
ニュルブルクリンク24時間耐久レース 関連情報
ニュルブルクリンク24時間耐久レース 公式サイト
トヨタGAZOOレーシング 公式サイト
スバル モータースポーツ公式サイト
ファルケン公式サイト