マニアック評価vol95
レクサスGSがフルモデルチェンジを果たし、3月上旬に横浜近郊で試乗することができた。試乗したコースは首都高速、一般道である。ただし、この横浜で開催された試乗会では、十分納得のできるインプレッションが取れず、後日、広報車両を借用しテストドライブをしてみた。ステージは高速道路、ワインディング路を中心に行った。
レクサスGSは2011年のニューヨークショーにコンセプトカー「レクサスLF-Gh」として出展し、同年9月のフランクフルトショーで450h=ハイブリッドモデルがワールドプレミアされた。翌月アメリカ・SEMAショーでは350 F SPORTSがお披露目され、そしていよいよ国内には、2012年1月26日よりGS250をラインアップに加えて350とともに販売が開始された。また、注目の450hハイブリッドモデルは3月19日より発売されるとしている。
エクステリア
試乗できたモデルはこの450h以外の2モデルで、GS250/GS350である。レクサスGSはアッパーミドルクラスのプレミアムセダンとして世界中で販売される。欧州、北米はもちろんアジア地域でも販売される予定で、グローバルに人気を得られるのか?がポイントとなる。
新しいGSは、スピンドルグリルという押しの強いフロントマスクを持ち、これまでのレクサスとは異なり、非常に強い存在感があると感じる。と言うのも、このプレミアムなアッパーミドルクラスに求められるものは、欧州において、ルームミラーに写るフロントマスクが、チラ見でレクサスだと分かる顔が必要だからだ。まさに時間をお金で買うことが可能なアウトバーンだけに、超高速移動するには必要不可欠な要素というわけだ。
もっともレクサスGSの主戦場は北米になるだろう。そして中国、欧州というシェアが想像できる。北米にウケのいいデザインとは?という視点でみれば、アメリカ車的なデザインに見えなくもない。また、中国大陸を疾走するGSを思い浮かべてみると、各社強烈なマスクを持つモデルの中でも、このGSのマスクはオリジナリティがあり、存在感を示しているという景色が思い浮かぶ。
実際、このスピンドルグリルは写真で見るより複雑なデザインをしており、さまざまな方向からの曲線によって成立している。そして、ハカマのように裾が広がったバンパースポイラーは、スピード、勢い、強い踏ん張り感を感じさせるデザインになっている。
一方、サイドビューはおとなしい。特に強烈なキャラクターラインがあるというわけではなく、大人なセダン、または社用車としても通用しそうなおとなしさになっている。フロントの勢いからすると少しギャップを感じてしまうが、逆に否定的な意見は少ないということになるだろう。個人的にはもっと挑戦しても良かったのではないかと思う。
インテリア
インテリアの見た目は高級感があり、プレミアムセダンに相応しい装備になっている。全体は水平基調のデザインで、ドライバーオリエンテッドというより、同乗者も含めた乗員全員がもてなされている印象を受ける。目をひくのは、大きなナビ画面。12.3インチという大きさで、常に2画面表示が可能。地図情報のほかに車両情報、TV番組、DVDなど多彩なコンテンツが提供される。操作はアームレストに肘をついたまま、マウスのように操作でき、扱いやすい。そして老眼でも読める文字の大きさでありユーザーを理解した気配りがされている。
シートの大きさやすわり心地、サポート状況などは、申し分のないプレミアムセダンに相応しいレベルだ。電動で作動するのはもちろん、いろんな体型の人にでも各部アジャストできるような配慮もある。18wayに及ぶ調節式パワーシートは(バージョンL)、オーダーメイドシートを標榜というわけだ。アクセルペダルはオルガンタイプで、ブレーキペダル、フットレストのサイズも大きい。このクラスでは、全面ラバーで覆われたペダルが多い中、アルミペダルに滑り止めが付くデザインはスポーティ感があり、若々しい。
室内の静粛性は、さすがレクサスである。輸入車も含め、このカテゴリーではトップクラスの静かさだ。また、ドライバーの感情領域になるが、エンジンサウンドが心地よく聞こえるようにサウンドチューニングもされている。走り出しではマフラーによる重厚感ある音を、中高回転域では吸気系に採用したサウンドジェエネレーターにより、加速サウンドが味わえる演出がされており、特に4000rpm付近からの加速音は「お!いいね」と気持ちも高揚する。
トータルで優れたインテリアである印象があるものの、直接手で触れることができる箇所で、まだ接触の質感で「チョット」と感じさせるところがいくつかあり、気になる。ステアリングのセンターボス周辺、センターコンソールのふたを開けた内側、ドアハンドルなどで、レクサスにはより高みを望みたいところだ。
シャシー
新型GSはボディ、サスペンションも一新し、プラットフォームもレクサス用に特化して開発されている。もちろん、狙いは意のままに操ることができ長距離移動でストレスなく、疲労も少ないというクルマ造りのためだ。
そのため、フロントサスペンションでは、主に直進性保持に影響のあるキャスタートレールの拡大、アッパーアーム、ロアアームのアルミ化、高剛性化、ブッシュ類の最適化などが行われている。同様にリヤもアルミ化、高剛性化を行うとともに、トーコントロールアームの後方配置により、高い直進安定性と旋回時の車両姿勢の安定化が図られている。
そして、トレッドは従来よりフロント+40mm、リヤ+50mm拡大されている。また、ボディも同様に、剛性を高めるために、ホットプレス材やハイテンション材を多用し、剛性を上げつつ軽量化も同時に行っている。 一方、国内での駐車場事情も考慮し、全幅は1840mmに収めている。ディメンションは全長4850mm×全幅1840mm×全高1455mm、ホイールベース2850mmとなっている。
エンジン
搭載されるエンジンはV6型の3.5Lと2.5Lの2種類。レクサスでは「ダウンサイジングの流れとともに競合車が4気筒化するなか、このクラスとしては敢えてV6の静粛性と音質にこだわり、ISに採用し高く評価されているV6型2.5Lエンジンを搭載。GS250をあたらたにラインアップに加えた」と説明している。
この2.5Lの4GR-FSEエンジンはシリンダー内に直接燃料噴射を行うD-4方式を採用している。出力は158kw(215ps)/6400rpm、最大トルク260Nm/3800rpm、JC08モード燃費は10.8km/Lというスペックになる。組み合わされるミッションは6速ATのみだが、全車にパドルシフトは装備される。
↑左はGS250に搭載されるV型6気筒2.5L。右は450hに搭載されるハイブリッドユニット。同じくV型6気筒だが3.5L
一方GS350に搭載されているのはV6型3.5Lエンジンの2GR-FSEで、筒内噴射をするインジェクターと吸気ポートに噴射するインジェクターの2種類をもつD-4S燃料噴射方式を採用している。86/BRZにも採用している最新の燃料噴射システムである。また、吸排気連続可変バルブタイミング(デュアルVVT-i)の採用、ロングデュアル排気系の採用により、2000rpmから6400rpmまでの広い回転域で最大トルクを発生するエンジンとなっている。このエンジンにも6速ATが組み合わされる。ただし、ロックアップ領域は5速以上で、またマニュアルモード時には4速以上がロックアップとなる。やや、ロックアップ領域が狭いようにも感じるが、滑らかさやしっとしり感など、プレミアムブランドに求められる上質感からトルコン領域を多く残す選択をしたと想像する。
この2GR-FSEの出力は234kw(318ps)/6400rpm、最大トルク380Nm/4800rpm、JC08モード9.4km/L(4WD)、9.8km/L(Iパッケージ)、9.9km/L(F SPORT)というスペックになっている。ちなみに、試乗時の燃費は、高速移動、一般道、ワインディングを走行し、メーター表示で8.8km/Lだった。
ドライブモードセレクト
走りの味が変えられるドライブモードセレクトも搭載している。エコモード、ノーマル、スポーツS、スポーツS+の4種類のモードがあり、スポーツSではパワートレイン系の制御により、アクセル操作に対するレスポンスが高くなる。スポーツS+はアクセルレスポンスに加え、ステアリング、ギヤ比可変ステアリング(VGRS)と後輪操舵(DRS)(LDH車のみ)が協調したシャシー特性も変化し、加速感、ハンドリンともにダイレクト感が増す。そして、エコモードはアクセルワークに対する駆動力を穏やかにコントロールし、エアコンが燃費優先の制御になる。
実際にGS250でスポーツSモードに設定し走行すると、アクセルレスポンの向上はすぐに体感する。そしてDレンジにシフトしたままでもブレーキングすると自動的にブリッピングをしながらダウンシフトをし、コーナリング中もギヤは保持されたままになる。コーナー出口では鋭い加速を堪能することができ、スポーツマインド溢れる。
GS250の試乗ではこれらシャシー剛性の高さと直進安定性を感じ、安心感のある高速走行を体験することができた。また、首都高速のカーブという、コンディションの厳しい路面状況でも安定したコーナリング姿勢を保つので、安心感も高い。
LDH
新たに、レクサスにスポーツの走りのテイストを盛り込んだF SPORTグレードが誕生した。このグレードの最大の特徴は4輪の切れ角を最適制御するレクサス初のLDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)を搭載することだ。ギヤ比可変ステアリング(VGRS)や操舵アシストトルク量を制御するEPS、そして後輪の切れ角を制御するDRS(ダイナミック・リヤ・ステアリング)を統合し、クルマの進行方向と実際の向きのズレ(=スリップアングル)を制御するシステムだ。
特に、低速域では逆位相に操舵され、回頭性が高くなり、高速域では同位相となりスリップアングルがゼロとなるため、安心感のある走行が可能となる。実は、試乗会で時間が足りないと感じたのはこのモデルのインプレッションのことなのだ。
と言うのは、これまでの常識とは違ったフィーリングを持ったからだ。それは、乗るとすぐに直進安定性や安心感などに感心するというのがこのプレミアムセダンのセグメントでは常識的だった。それは、ボディ剛性やシャシー剛性、正しいジオメトリーなどからくる、安定感やしっかり感であった。
このGSのフィーリングは、剛性感やジオメトリーというのではなく、電子デバイスによる制御によって直進性や安定感が保たれているフィーリングと言えばいいのだろうか。乗ってすぐには戸惑うのだが、慣れてくるとこれまでのコンベンショナルなモデルとは明らかに次元の異なるフィーリングを味わう。
以前、アウディA6の試乗レポートで、非常にナチュラルに感じる操舵フィールについて報告をしている。それは、エンジンの搭載位置やフロントデフの位置、ミッションなど重量マスをホイールベース内に収め、トルクベクタリング、4輪ブレーキコントロール、EPSなどのデバイスによってナチュラルに感じるとしている。
その結果、メルセデスやBMWのようなコンベンショナルな乗り味の追求の仕方をしていないのが、アウディA6なのだという報告をしている。最先端のテクノロジーを惜しみなく投入したことでナチュラルであると感じ、メルセデス、BMWとの比較の土俵が違うと。そして、エグゼクティブクラスのクルマ造りにおいて、あらたなマイルストーンになるかもしれないとレポートしている。
レクサスはアウディと手法は異なるが、やはり、コンベンショナルな乗り味の追求型ではなく、最先端の技術を投入した、新たなドライビングプレジャーを提案してきたように感じたのだ。
LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリング)は60km/h程度までなら非常に回頭性が高く、クルっと回るイメージで曲がる。タイトなコーナーで切り増したときには、さらにその回頭性の良さを味わう。一方高速域になるとリヤの踏ん張りが伝わり、アウト側のリヤタイヤが頼もしく感じるほど踏ん張りながら、どんどん旋回していく。したがってアウディと同じように、メルセデス、BMWのコンベンショナルな土俵にはいない、レクサス基準のコーナリングを持っていると考える。これは前述した後輪の逆位相、同位相への変化により感じるものだ。
ただし、直進安定性においては、少し感覚的な慣れが必要に思う。100kmも走れば慣れてしまうのだが・・・もっとどっしりとした直進性が欲しい。もちろん現状でもフワフワとしているわけでもないが、やや腰高な直進性という印象とでも言うのだろうか。ただ、アジリティを強く求めていることは十分伝わってくるし、次元の高さも感じる。しかしプレミアム・セグメントのセダンであるからには走り出した瞬間に誰にでも強い安心感が感じられるのがベストだと思う。
新型レクサスはグローバルで販売され、ライバルたちと戦っていくことになるが、BMW5シリーズやメルセデスのEクラス、アウディA6より魅力的な装備、機能としてLDHという飛び度具は大きな武器になるだろう。
■レクサスGS250/350/450h主要諸元
●GS250価格510万円〜550万円 GS350価格580万円〜710万円(2WD、4WD) GS450h価格700万円〜800万円(3/19発売) ●全長4850mm×1840mm×1455mm(4WD1470mm)、WB2850mm ●GS250=V型6気筒 2.5L+6AT GS350=V型6気筒 3.5L+6AT GS450h=V型6気筒 3.5L+モーター 電気式無段変速機 ●JC08モード燃費 GS250=10.8km/L GS350=9.4km/L〜9.9km/L GS450h=18.2km/L ●GS250=最大出力158kw(215ps)/6400rpm、最大トルク260Nm/3800rpm GS350=234kw(318ps)/6400rpm、最大トルク380Nm/4800rpm GS450h=217kw(295ps)/6000rpm+147kw(200ps)、最大トルク356Nm/4500rpm+275Nm