今、もっとも注目度の高い軽自動車、ホンダのS660を高知県で試乗してきた。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
3月に試乗したときは、発売前のプロトタイプで量産試作の最終モデル。ナンバー登録がされていないため、クローズドコースの熊本県にあるホンダのテストコースでの試乗だった。今回は市販後の試乗となったため、一般道を使っての試乗となった。
今回の試乗で改めてサーキットと一般道での違いというのを感じた。というのは、サーキットは路面のμも舗装状態も均一で、また走行速度も高いので、ある特定の条件での印象になりがちになる。S660はレーシングカーではなく一般の道路を走るクルマなので、そのメインとなる一般道ではどうなるのか?という点で違いを感じた。
市街地では20km/hくらいでトロトロと走る場面もあれば、信号待ちもある。試乗コースはそうした高知の市街地から海沿いを走るワインディングを往復するルートで、CVT、MTを乗り換えて試乗することができた。
サーキットでは感じなかったインプレッションもあり、なかなか興味深い試乗となった。気づいたのは信号待ちでのアイドリング時、CVTではエンジンの振動がフロアパネルやステアリングに伝わってくる。CVT仕様はアイドリングストップ機能を装備するが、条件によってはアイドル状態になる。一方MTではエンジンの振動がシートバックで感じ、ステアリングではほとんど感じない、という違いがあった。これはエンジンマウント・ブッシュが異なるから、という回答をエンジニアから得た。
走りだして気づくのはルーフのオープン状態とクローズしたときの違いだ。これはCVT、MTともに共通の印象で、オープンで走るとボディがブルブルと震えるスカットルシェイクを感じる。オープンボディの場合、Aピラーなどが振動することは許容されるが、バルクヘッド、バルクヘッド下部のスカットルなどが振動することはあまり好ましくない。
キャンバスのルーフをクローズにして走るとその振動は収まる。キャンバストップとは言え、AピラーとCピラーをつなぐ効果は高いことを感じた。キャンバストップの両側には太い補強材があり、これがピラー部の剛性を高めているのだろう。S660はオープンカーとは言っているもののCピラーを残すタルガトップの形状をしている理由がなんとなく理解できる。
市街地を走る低速域では、乗り心地の硬さがあった。「ワインディング仕様」とでも表現できるクルマの個性を作ったための割り切りとも受け取れるもので、ポジティブに考えると走る気配を感じさせる乗り心地。冷静にはフリクションが大きいという印象だった。
メインステージのワインディングに持ち込むと、ガラッと印象が変わる。これはMT、CVTともに共通の印象で、とにかく滑らかに軽快に走るのだ。これはサーキットでの印象と同様だった。ミッドシップというレイアウトでありながら直進の安定性が高く、安心感が高い。ノーズの入りはスッと入り、そしてミッドシップにありがちなフロントの接地感の希薄がまったくない。しっかりとしたダイレクト感が伝わり、安心してコーナリングできる。
コーナーをヒラリヒラリと軽快に走りぬけ、エンジンサウンド、ヒール&トゥ、エンジンレスポンス、シフトフィールなどなど、思い通りに反応し運転が楽しくなる。低速では硬いと感じた乗り心地も速度域があがると、上質で滑らかな印象に変わる。CVTでもパドルシフトが軽快にダウン、アップシフトに反応する。スポーツモードも備えメーターは赤く表示され、演出も分かりやすい。
ボディのねじれ剛性はかつてのS2000よりも高いというS660。しかしスタティックなデータ比較というより、動いているときの剛性や特性比較もデータでみられると分かりやすい。その動剛性では、路面状況や走行状況によって印象が変わる。というのは、サスペンションだけの性能とは言い切れずボディ性能も大きく影響しているからだろう。
つまり、コーナリングフォースがかかった時にボディも吸収する働きをし、Gのいなし方、という高度な技術が必要になると思う。ワインディングでは非常にうまくできているが、日常領域ではこなし切れていない印象だった。