今回発表されたホンダの2代目NSXは2012年1月に開催された北米オートショーで「NSXコンセプト」として出展し、その後多くのモーターショーにも出展するなどして早くから話題を集めてきた。そしてアメリカ・オハイオ開発センターが中心となって開発を進めた2代目NSXが2016年8月25に正式発表された。なお新型NSXは全国のディーラーの中で選抜された「NSXパフォーマンス・ディーラー」で販売される。日本での販売は年間100台とされている。
■初代のDNAを受け継ぐ新型NSXのコンセプト
新型NSXは、初代NSXのDNAを受け継いだ新世代のスーパースポーツカーとされている。初代NSXは、既存のスーパースポーツカーとは一線を画し、ドライバーを中心にした誰にでも扱いやすい高性能スポーツカーを目指したが、新型NSXはこの思想を生かし、世界第一級の速さを実現しながら快適に、意のままに操ることができ、日常からサーキットまで新たなドライビングプレジャーを実感できるスーパースポーツカーとしている。
また新型NSXはホンダ栃木研究所とアメリカのオハイオ開発センターという日米の開発センターが共同して開発し、生産はオハイオ工場に隣接した新設の専用工場「パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター(PMC)」で少量生産される。日本には逆輸入という方式だ。なおアメリカではアキュラNSXとして販売され、それ以外の国ではホンダNSXと呼ばれる。
技術的には、ホンダの推進してきたハイブリッド技術、1996年以来開発を続けているダイレクトヨー・コントロールの思想、つまり左右駆動力の差から発生するトルクベクタリングの技術を発展させたSH(スーパーハンドリング)-AWDを組合わせ、未体験の走る、曲がる、止まるをミッドシップ・レイアウトに集約していることが特徴だ。ライバルはポルシェ911ターボ、アウディR8が挙げられる。
■スーパースポーツのパッケージング
エクステリアは「Interwoven Dynamic(多様なダイナミクスの価値を融合)」をコンセプトに、エキサイティングHのデザインテーマとスーパーカーらしさを融合したキャビンフォワード・パッケージングのフォルムとしている。
インテリアは「Human-Support Cockpit」がテーマで、ドライバーが運転に集中できるデザインを重視。スーパーカーの中では異例に優れた前方視界、カラー液晶ディスプレイのメーターパネル、シンプルで直感的なインターフェース、サポート性や乗降性に優れた人間工学に基づくシートなど、「人間中心のスーパースポーツ」という開発コンセプトに適合させている。
ボディサイズは、全長4490mm×全幅1940mm×全高1215mm、ホイールベース2630mmとスーパーカーらしいグローバルサイズとなっている。また車両重量は1780kgで、奇しくも日産GT-Rと同レベルだ。ちなみにライバルのアウディR8は1690kg、ポルシェ911ターボSは1600kgだ。
コンポーネンツのパッケージングは新開発の専用エンジン、3.5L・75度V6エンジンを縦置きミッドシップに搭載し、フロントアクスルに左右独立の2モーター、リヤはV6エンジンに直結された超薄型モーターという3モーターを配置したハイブリッドシステムとしている。
トランスミッションは新開発の9速DCTを採用。なおリチウムイオン・バッテリー、DC-DCコンバーター、モーター制御ECU、バッテリー制御ECUを一体化してシート背後にレイアウト。パワーコントロールユニットはセンターコンソール部に配置している。
なお燃料タンクは容量59Lで、シート後方の床下に2個が左右にセパレートされ、配管で接続されたたツイン燃料タンクとなっている。
このようなコンポーネンツ・レイアウトにより、前後荷重配分は42:58とミッドシップとして最適な配分となり、低重心であることと合わせ、本格的なスポーツカー・パッケージングとなっている。
■V型6気筒3.5Lエンジン
新開発のエンジンはJNC型3493cc(91.0×89.5mm)の排気量を持つ75度V6だ。バンク角75度としているのはエンジンの全高を低めるためで、さらにドライサンプとすることで低重心化させている。
動弁システムはチェーン駆動、スイングアーム式としてコンパクトにまとめ、吸排気カムシャフトは連続可変バルブタイミング式を採用。バルブ挟み角は30度。吸気ポートはタンブル流を発生させる高タンブルポートとしている。
直噴+ポート噴射を組み合わせ、左右独立のツインターボを採用。ターボは電動ウエストゲート式としている。圧縮比は10.0と高めで、最高過給圧は1.05barと低めにしている。なおデュアル噴射システムは、他社とは異なり低中負荷時には直噴、高負荷時にはポート噴射を併用するシステムだ。
シリンダーはライナーレス構造で、シリンダー面にはプラズマ溶射コーティングを採用し、軽量化、耐ノッキング性能を両立。これはGT-R用のエンジンと同様の手法だ。またボアは高精度真円加工が行なわれ、さらに全エンジンは生産時に回転バランスを計測し、微調整のために前側はクランクプーリー、後ろ側はフライホイールに調整ボルト穴を備えているなどハンドメイドを前提としたエンジンだ。
このエンジンの最高出力は507ps/6500-7500rpm、最大トルク550Nm/2000-6000rpm。最高回転数は7500rpmとなっている。モーター出力を加えたシステム総合出力は581ps/646Nmと発表されている。またJC08モード燃費は12.4km/L。
このエンジンのクランクシャフトに直結する超薄型リヤモーターが装備されている。このダイレクト・ドライブモーターは水冷で、35kW(48ps)/3000rpm、最大トルク148Nm/500-2000rpmを発生する。このモーターはDCTトランスミッションの前側に配置されているため、DCTのギヤ段で増速・駆動アシストし、同時にスターターモーター、発電、減速時の回生発電の役割も備えている。
■オリジナル9速DCTミッション
ホンダ内製の9速DCTは平行軸構造で、デュアル・クラッチは湿式を採用。DCTのクラッチオイル用とギヤ用の2系統のオイル冷却システムを装備している。またこのDCTは前側にドライブ出力/デフを配置することでDCT全長の短縮、オーバーハングの短縮を図っている。なおデフはギヤ表面の鏡面加工が行なわれ、プリロード式LSDも組み込まれている。
ギヤのシフト、クラッチの断続は油圧式ではなく電動モーター式アクチュエーターとし軽量化。ギヤ比は1速がスタート用、9速が高速巡航用で、2~8速がクロスレシオとしてどのギヤでもパワーピークゾーンを使用できる。最高速は8速で到達し、9速で100km/h巡航は1700rpmとなる。
■左右個別に動くフロントモーター
前輪を駆動するだけでなくアクセル・オン、オフを問わずトルクベクタリングを担当するフロント・モーターは左右独立式の2モーター方式で、各モーターは27kW(37ps)/4000rpm、最大トルク73Nm/0-2000rpmの出力だ。また各モーターは遊星ギヤ式減速機構、リングギヤ・ブレーキ、ワンウェイクラッチを内蔵している。
これらの機構により、加速時には駆動トルクをタイヤに伝え、減速時には回生発電を行なう。このため、駆動時、減速時ともに左右輪独立のトルクベクタリングを行なうことができ、オンザレール感覚のコーナリングが実現している。また左右のトルク配分、ベクタリング量は運転状況に合わせて電子制御され、ドライバーの意思通りのオンザレール感覚ののコーナリングが実現している。
なお各モーターの最高回転数は1万5000rpmで、200km/hまで駆動を担当し、それ以上の速度域では減速時にのみ減速トルクを発生させることでトルクベクタリング効果を発生させるようになっている。
■アルミ&スチールの複合ボディ
新型NSXのボディはアルミ・スペースフレーム構造をベースに複数のスチール素材を組合わせた複合構造を採用し、軽量化、高剛性を両立。メインの骨格はアルミ押し出し材で、押し出し材の結合部にアルミ・アブレーション鋳造材を採用している。
アルミ・アブレーション鋳造材とは砂型鋳造後に急速冷却することで堪性(たんせい:粘り強い特性)が高い特性を実現する技術だ。そのため衝突時には押し出し材の部分は衝撃吸収を担当し、この鋳造部で入力を受け止める役割を果たす。
なお衝突事故の後の修理用に、骨格部のスペースフレーム部、前後の骨格部は部品として販売できるようになっている。
またより高強度が求められるAピラーはプレス加工鋼管製で、さらにルーフとAピラーは1500MPaの熱間成形の3次元高張力鋼管を採用。これにより高い耐クラッシュ性能と、細いAピラーを両立させ、優れた前方視界を実現しているのだ。
ボディパネルは、キャビンフロア部はカーボンパネルを採用し、ルーフのカーボンパネルはオプション設定。標準ルーフ、ボンネット、ドアはアルミパネル製で、前後のフェンダー、トランクパネルはSMC複合プラスチック製としている。
新型NSXの空力性能も最新の技術が投入され、空気抵抗を抑えながら前後にダウンフォースを発生させるようにデザインされている。
■ダブルジョイント設計のシャシー
サスペンションは前後ともにインホイール型で、フロントはダブルウイッシュボーン、リヤはマルチリンク式だ。サスペンションリンク、ハブキャリアともにアルミ製。フロント・サスペンションはロワ側はダブルジョイント式で、仮想キングピン軸を持ち、トルクステアを抑え、外乱に強い特性を与えている。
ダンパーは前後とも磁性流体式のアクティブ・ダンパーを採用。4輪のストロークセンサー、ボディに設置した3個の加速度センサーでボディの動き、姿勢をモニターし、瞬時にダンパーの特性を変化させることで、ロール、ピッチを抑制する。
電動パワーステアリングは可変ギヤ式デュアルピニオン・タイプを採用している。直進時はスローなギヤ比12.9で、大舵角時にはクイックなレシオ11.0に変化する特性となっている。ロックtoロックは1.91。
ブレーキはフロントが6ポット、リヤ4ポットのモノブロックディスクはキャリパーを採用。ディスクはオプションでカーボンセラミック製を設定している。またミッドシップのためリヤのディスク冷却を重視し、中空サブフレーム内に冷却風を流し、冷却性能を高めるようにしている。
ブレーキシステムは電動ブレーキサーボ式で、0.2Gまでの減速では回生ブレーキ、それ以上の減速では油圧ブレーキを併用する。さらにサーボの制御は踏み始めはペダルストロークを検知し、強いブレーキでは踏力を検知するという新しいシステムとしている。
タイヤ・サイズはフロントが245/35ZR19、リヤが305/30ZR20。
■ホンダの技術フラッグシップカー
新型NSXはサスペンション、ブレーキ、パワーステアリング、エンジントルクやエンジン制御、エンジンサウンドなどをトータルで制御する「インテグレーテッドダイナミクス・システム」を装備している。選択できるモードはクワイエット、スポーツ、スポーツ+、トラックの4種類で、モードに合わせてエンジンやシャシー特性が変化するようになっている。
1990年~2005年の15年間販売された初代NSXのDNAを受け継ぐ2代目NSXは、初代の基本思想を受け継ぎながらも、スーパーカーの領域に足を踏み入れ、ボディサイズは拡大され、車量重量も初代が1350kgであったのに対し1780kgとヘビークラスになっている。
また現行レジェンドで初採用された3モーター式ハイブリッド・システムと、高性能な専用エンジンを組合わせ、SH-AWDを実現した新型NSXは、ホンダの技術フラッグシップカーという位置付けともなっている。
しかし言うまでもなくスーパースポーツカーは、その技術だけではなく、そのブランドならではのドライビングプレジャーやドライバーの心を躍らせるエモーショナルな要素も重視される。こうしたスペックで表現できない部分の評価はテストドライブを待たなければならない。