ホンダは2019年12月12日、国交省にN-WGN/N-WGNカスタムの電動パーキングブレーキ関連のリコールを届け出た。周知のように新型N-WGN/N-WGNカスタムは2019年8月9日に発売されたが、リヤのドラム式電動パーキング・ブレーキの不具合が発覚し、8月30日から生産をストップして不具合の原因究明を続けてきた。
N-WGN/N-WGNカスタムの不具合内容
また、さらに同様のブレーキ・ユニットを採用している新型フィットも同じ問題を抱えており、本来は2019年12月の発売予定を2020年2月まで延期し、対策を進めているという状況にあった。
今回、N-WGN/N-WGNカスタムに関してリコールが届け出られたということは、不具合の原因が突き止められ、対策を行なう準備が整ったことを意味している。
今回発表されたリコールの対象台数は9437台で、生産期間は7月4日から8月30日までのクルマだ。シャシーナンバーを見ても、最初期にラインオフした車両からということがわかる。
対象は3箇所
ドラム式電動パーキングブレーキに関する問題点はなんと3つの内容が含まれていた。大別すると、ドラム式ブレーキの電動アクチュエーター部、ドラムブレーキのシューを作動させるスプリング部、そして電動パーキングブレーキを制御する、統合ブレーキ油圧コントロール・ユニット(VSA:ビークル・スタビリティ・アシスト)のプログラムの3点だ。
電動アクチュエーター
ドラム式ブレーキの電動アクチュエーター部は、ブレーキを電気的に作動させるアクチュエーター=モーターが装備されているが、その直流モーターの配線接続部の圧着端子の加締めが不十分、またはモーターのコンミテーター(整流子:回転スイッチ)、ブラシの製造が不適切なため、走行中の振動でモーター内の接触抵抗が一時的に増加し、その抵抗増加によりモーター回路断線検知信号が乱れてVSAのECUが異常を検知、故障と判定する。
その結果、ブレーキ警告警告表示が点灯して、ECUはフェイル状態となりパーキングブレーキが作動しなくなる、または、駐車ブレーキが解除できなくなるおそれがあるというものだ。
モーター回路断線検知信号が乱れてVSAのECUで、断線と判定されるという不具合の流れは理解できるが、モーターの接触抵抗が増大する原因は、配線の問題、またはモーター内部のコンミテーターとブラシの不具合という2種類が併記されており、どちらが主因なのかという点は完全には究明されていないようだ。
この不具合は9437台中で302件が報告されている。
ドラムブレーキのスプリング
ドラムブレーキには、ブレーキ時に油圧アクチュエーター、電動式の場合は電動アクチュエーターが作動してシューをドラムに押し付け、摩擦力=ブレーキ力が発生する。ブレーキペダルを緩めるとシューを元の位置に戻すためにリターン・スプリングと呼ばれるバネの力を利用する。
今回の不具合は、ドラムブレーキのシューに取り付けられたスプリング・パッケージの拡張、収縮における作動ストローク設定が不適切なため、パーキングブレーキ解除時にスプリング・パッケージがシューに干渉。その接直抵抗でモーターの負荷が高くなり、モーターの電流値がしきい値を超えることでVSAのECUが異常を検知し、警告表示が点灯して電動パーキングブレーキが作動しなくなるおそれがあるいうものだ。この不具合は9437台中で20件が報告されている。
VSAの制御
電動アクチュエーターの直流モーターに起因するものと、ドラム内のスプリングの作動ストロークが不良で、その結果モーターの作動時の負荷が増加するという2種類の原因があった。そのいずれもが、VSAのECUが異常と判定し、警告灯が表示され、リヤの電動パーキングブレーキの作動が停止するという現象が発生する。
したがって、微小なモーター回路の断線検知信号の電流の乱れ、あるいはモーター負荷の変動に対するECUのプログラムのしきい値が厳密すぎたともいえる。
そのため、リコール対策としては、リヤ左右の電動パーキングブレーキのアッセンブリーを対策品に交換することと合わせ、ECUのモーター回路の断線検知プログラムを書き換える、つまりしきい値に余裕をもたせることになった。
ただ、ドラムブレーキのユニット内部で2種類の不具合があり、しかもいずれも結果としてはVSAのECUの異常と判定、警告灯表示として表面に出てくるため、トラブル・シューティングは相当に手こずったと推測できる。
何が問題だったのか
最大の原因は、もちろんリヤ電動パーキングブレーキの製造品質の問題である。このユニットを製造しているのはシャシー・ブレーキ・インターナショナル社(オランダ本社のグローバル・サプライヤー。現時点では日立オートモーティブ傘下))で、日本にも製造工場は存在する。
このサプライヤーに決定したのは、N-WGN/N-WGNカスタムのためだけではない。実は新型フィットもこのリヤ・ドラム式電動パーキング・ブレーキを採用しており、N-WGN/N-WGNカスタムでの不具合の発生を受け、急遽他のサプライヤーのブレーキユニットに切り替えることにしている。
リヤ電動パーキング・ブレーキは、今では単なる便利装備ではない。全車速追従式のアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)を装備しているクルマは、ACCが作動中に停止した場合は自動的にブレーキかけて停車状態を維持するためリヤの電動パーキング・ブレーキは必須の存在なのだ。
ホンダは全車速追従式ACCを幅広い車種に採用し、日本市場限定のN-WGN/NWGNカスタムだけではなくグローバル展開するフィットにも採用することを考えて、グローバルに製造拠点を持つブレーキのサプライヤーを選択しているが、当然こうしたグローバル規模のブレーキ・サプライヤーは他にも存在する。
ホンダは購買部門の政策として、グローバル供給を前提に購入数量を決め、サプライヤーの納入価格を決定したはずだが、その品質レベルや、車両に装備した状態でのキャリブレーションが足りていなかったといえよう。
また、開発期間中のキャリブレーションはホンダ単独ではなく、サプライヤーも同時進行で実施するはずだが、そこでのホンダとサプライヤーとの連携がどうであったのか。
グローバル規模での部品調達の課題、自動車メーカーとサプライヤーとの開発における体制や役割分担で大きな教訓となる事例は、すでに先代フィットにおけるハイブリッド用トランスミッション「i-DCD」採用時にも発生していた。設計・開発を行なったドイツのサプライヤーのシェフラー社とホンダとの連携もスムーズであったとは言い難く、リコールを引き起こしている。
今回もこの経験が生かされなかったのである。