2013年9月にフルモデルチェンジされる次期型ホンダ・フィットの概要が判明した。モデルラインアップは1.3L、1.5L、それに1モーターのハイブリッド、そしてRSモデルという4モデルのラインアップだ。その次期新型フィットのプロトタイプに試乗できたので、その様子をレポートしよう。
試乗はホンダのテストコースがある旭川・鷹栖プルービンググラウンドで行なわれた。日本のニュルブルクリンクと言われるようなワインディングがあり、また、EU路もある。ワインディングコースは途中ショートカットが設定されているが、トップスピードも150km/h前後までは出せ、アップダウン、S字、シケインなどハンドリングを試すには十分の設定だった。また、欧州の一般路と同じ路面での乗り心地なども体験できた。
■新型フィットが目指したのはスーパーカブのような愛され方
ホンダはこのところN-oneなど軽自動車の話題ばかりが目立っていて、乗用車のトピックが少なかったが、6月に発売した新型アコードに続き、フィットもフルモデルチェンジを受ける。しかもこれまでにない画期的な技術を搭載し、ホンダらしいスポーティコンパクトとして生まれているのだ。
新しいフィットのコンセプトは、誰からも愛され、実用的で扱いやすく普遍的価値を持つモデルとして提供したいとしている。かつて世界中で大ヒットし、今もオートバイのスタンダードモデルとして愛されるホンダ・スーパーカブのような存在になりたいと。
さて、その革新的技術という部分だが、プロトタイプであるため多くのスペックが未公開となっており、ここでは詳細な解説ができない。おおまかな概念と実際に試乗したときのフィーリングをお伝えしよう。
■ハイブリッドモデルは燃費36.4km/Lをマーク
新型フィットには1.3L、1.5L、それとハイブリッドがあり、CVT、6MT、7速DCTも新開発されている。これに軽量化された新プラットフォームを採用。
まず、目玉と言えるのがハイブリッドモデルだ。これまでにない新しいハイブリッドシステムを搭載し、燃費だけでなく走りも楽しめるように開発したという。
ハイブリッド用のエンジンは1.5LのDOHC i-VTECでアトキンソンサイクル運転をする高効率ガソリンエンジンを搭載している。これにツインクラッチの7速DCTを組み合わせている。このDCTは自社開発ということだ。このトランスミッションに薄型のモーターを内蔵させるというレイアウトをしている。
走行モードとしてはEVドライブモード、エンジンとモーターのハイブリッドドライブ・モード、そしてエンジンドライブ・モードの3パターンがあり、エンジン、モーターの得意とする領域を効率的に利用できるように制御されたユニットである。また、バッテリーはリチウムイオンバッテリーをリヤ荷室の下に搭載している。
発進は基本モーター駆動のため、乾式のDCTにありがちなギクシャク感がなく滑らかに発進できる。ちなみに、この7速DCTには1速ギヤがなく、プラネタリーギヤと3速用ギヤを掛け算して組み合わせていき、1速相当のギヤ比を作っている。そのため、ユニット全体のコンパクト化にもつながっている。おそらく、半クラッチに相当する部分から少し先までをモーターが賄っているように感じた。VWグループが同社の小型DSGの乾式を湿式に変更するという噂もあり、発進時の半クラッチの負荷、ジャダーは思いのほかトラブルの原因となっているようだ。フィットではモーター駆動されるため乾式でもその心配はないということになる。
7速DCTでのシフトアップは滑らかで変速ショックは気にならない。EV領域、ハイブリッド領域はドライバーが意図的に行なうものではないので、クルマに任せて走る。クルマ全体が新型フィットは上質感が高くなっているため、ハイブリッドモデルは非常に静かだ。
このDCTはいわゆるスポーツドライブの時に積極的に変速を使ってシフトアップ、シフトダウンをするというトランスミッションではなく、モーターとエンジンをより効率的に使うための変速機と捉えたほうがいいかもしれない。そのためか試乗モデルにはパドルシフトは装備されていなかった。
モーター出力22kw/160NmはDCTの奇数ギヤのシャフトに組み込まれ、偶数ギヤを使用して出力していてもカウンターシャフトを経由して出力サポートを行なう。それは奇数ギヤシャフトと偶数ギヤシャフトは出力シャフトを共有しているためだ。レイアウトとしてはエンジン+ミッション+モーターで、例えば2速で走行しているときに、エンジン出力は2速ギヤのインプットシャフトからカウンターシャフトに出力は伝わり駆動力となる。その時奇数ギヤ側はダウンシフト、アップシフトに備えて3速と1速の準備をしているが、クラッチはつながれていないのでエンジン出力は伝わっていない。が、その際にモーターは奇数ギヤシャフトに組み込まれているので、カウンターシャフトを通じてアウトプットされ、結局、エンジンとモーターの両方のパワーを駆動輪に伝えているのだ。
さらに、これまでのハイブリッドと大きく異なる点として、EV走行をしている時にエンジンが完全停止している点だ。これまでのホンダのハイブリッドはエンジンとの間にクラッチを備えていなかったのでEV走行の場合は空気ポンプとして動いているものがほとんど。燃料は使っていないため燃費の悪化にはつながらないが、フィット・ハイブリッドはEV走行時にエンジンは完全停止しているのだ。
このときに課題となったのは、頻繁に起こる再始動である。エンジンが完全停止の状態からいきなり何速かで走り出すわけで、その際にはそれなりのショックが起きて当然だ。だが、新型フィット・ハイブリッドでは、そのフィールは全くない。では、どのように再始動しているのだろうか?
結論は押し掛けである。ただしミッションとつながった瞬間に抵抗感や減速感があってはならないので、その制御が困難を極めたという。その結果、滑らかな始動が行なわれ、とても押し掛けをしているとは想像もできないほどの仕上がりだった。
また、ブレーキにも新技術が投入されている。先に発売されたアコードハイブリッドにも採用された技術のブレーキバイワイヤーだ。ブレーキ油圧はモーターを使って作動させ、モーターによる回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御の仕組みが新しい。
それはある一定の踏力でブレーキングしている最中でも、油圧用モーターは油圧を可変コントロールしており、モーターで回生を取るように制御している。つまり、大きな制動力が必要なときにドライバーは強くペダルを踏み込むが、その際、モーターの回生力が十分あるときであれば、油圧はそれほど立ち上がらず、モーターの回生で減速しようとしている。当然、その逆も起こり、踏力以上の液圧に上げているケースもある。そのため、いかに通常の油圧ブレーキと同じようにリニア感が出せるのか?ということになる。
ハンドリングなどの印象は、ハイブリッド車のパワーユニットは通常の1.5Lモデルより50kg重くなり、バッテリーなどリヤのオーバーハングに搭載している関係でリヤも50kg程度重くなっているという。そのため1.5LのCVT車と比較すると、さまざまな慣性の出方が異なり、軽快感は通常の1.5LCVTのほうが勝る。もっともこれはエコタイヤによる影響も大きいと思われるので、ひとクラス上のレベルのタイヤだとどうなのか、試してみたい。ちなみにタイヤサイズは185/60-15で、1.5LのCVTと同サイズであり、HVには少し厳しいだろう。
■バランスの良い1.5LやスポーツモデルのRSもラインアップ
今回の新型フィットの開発は1.5LのCVTモデルで行なわれたというだけに、全体のバランスが良くハンドリングも素直な印象だった。エンジンはDOHC直噴のVTECと電動VTCを装備し、圧縮比を上げ、もともとクラストップだった出力特性をさらにアップし132ps(97kw)/6600rpm、155Nm/4600rpmというスペックを誇る。
また、1.3LのCVTも見劣りするようなこともなく、同じように素直な印象で「これもいいなぁ」という印象を持った。タイヤサイズは175/70-14。1.3Lのエンジンは燃費スペシャルなユニットでアトキンソンサイクル運転をするエンジンになった。そしてDOHC化し圧縮比を高めVTECと電動VTCを採用し、低温時始動でも吸気バルブタイミングを最適に制御し、低温始動時でもトルク向上、排出ガスのクリーン化が図られている。
ちなにみ圧縮比(機械圧縮比)は13.5と高く、デミオのスカイアクティブと比べてもスペックは上回る。実効圧縮比は9.5前後になるが、100ps(73kw)/6000rpm、119Nmというスペックを持つ。ちなみにデミオは84ps/112Nmだ。
RSモデルは6速MTとCVTが設定され、どちらも軽快に走る。ハンドルの操舵力も軽く、クラッチペダルも軽い。全体に軽い操作感なのに、走りには安定感があり安心して走ることができる。こちらのタイヤサイズは185/55-16。
いずれのモデルもプロトタイプの試乗であったため、細部についてはコメントしにくい。また操作系やインプレッションの部分でも最終仕様ではないため、市販されるモデルとは異なる部分もあるだろう。新型フィットの詳細は、次の公道試乗の機会にレポートしたい。